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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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7 セイレーヌ


 支配人の突然の発言にオレは疑問しかなかったが、新人二人は分かっていると言うように強く頷いた。


 何故だ、捜査官として自信を無くすぞ。


 支配人はオレが分かっていないのが分かったらしく、本格的に説教する顔をオレに向けた。


「よろしいですか、ユレスの身柄さえ押さえれば、ドルフィーがついて来ることなど、ユレスにデルシー海洋遺跡をご案内をされたことがある方にとっては疑問の余地もございません。安易な発想でユレスをデルソレに連れ込もうと考える者が出てくることも想定して警戒なさることです」


「未分化型のオレを、お見合い目的の交流場であるデルソレに連れ込むのは無理だろ。人権倫理委員会にどう言い訳するんだ。それに、ドルフィーたちは旧世界管理局の職員には大体愛想がいいし、姉御も仲がいいから、そっち狙ってもいいだろ」


「……未分化型であるのに配慮して、甘やかしが過ぎたかもしれませんな。ここまで自覚と危機感が足りていないとは、わたくしも想定外でした。皆様方が交流場でのふるまいについて指導が必要とおっしゃるわけです。分かりました、デルシーにいる間に、厳しく指導して参ります」

 

 お説教だけでなく、いらん指導までされるとか、絶対嫌だ。


「支配人、オレは休暇で来ていることになっているのを忘れてるだろ!」


「建前など、どうでもよろしい!休暇だと気を抜かれて、セイレーヌにデルソレに誘いこまれては、大変困るのです」


「セイレーヌ?なんで、旧世界の幻想生物が出て来るんだ?」


 旧世界人は想像力が豊かだったようで、旧世界には現実には存在しなかった幻想生物や架空の事物の概念が数多あって、芸術などの各種作品で表現されていた。


 セイレーヌは、美しい人の女の上半身に魚の下半身をした幻想生物で、美しい歌声で海を行く船を誘い込んで沈没させる。

 デルシー海洋遺跡の装飾に使われていることもあって、遺跡ご案内のときに聞かれることも想定して支配人に講義されたことがある。


 オレは聞かれることがあってもドルフィーネタばかりなので、セイレーヌの説明をしたことは一度も無いが、支配人の講義は覚えていたので正しく回答したにも関わらず、支配人は困った子を見る目でオレを見ていた。


「……そちらも解説が必要でしたか。さすがにその名くらいは知っていると期待したのですが、セイレーヌとは、100年ほど前に大人気だった三人組の歌手グループのことです。ラキア、マキナ、ユキナのそれぞれタイプの異なる美女、いえ、美少女と言った方がいいかもしれませんが、三人は成人前から活動を始めて、成人してから10年ほど一番人気の座を譲りませんでしたが、ユキナの結婚を機に解散して、それぞれの道を歩き始めました。

 デルソレを建設した有志個人の方たちの中心的存在が、元セイレーヌのラキアです。セイレーヌのリーダー的存在であったラキアは、後進育成に力を注いでいて、新人歌手が舞台に立てる機会を増やすためにデルソレ建設を思い立ったという話も聞きましたな。

 ラキアは精力的に活動しておられますので、祝花祭の花王選考委員長が捕まるという事件がありましたが、その後任の選考委員長に選ばれて花王を選考し、花姫という補佐役も取り入れて、祝花祭を盛り上げたと評価されております。

 花姫の一人であるヒミコは、元セイレーヌのユキナの子ということもあって、時事情報放送で花王と花姫の特集が組まれたときに、セイレーヌとデルソレの話題も取り上げられましたぞ」


 オレは花王の選考委員長の捕縛に無関係とは言わないが、その後の話には無関係だし、興味も無かったので知らなくても仕方がないはずだ。

 支配人はそれくらい知っておきなさいと目で語ってきたが、諦めたように続きを話した。


「ラキアは祝花祭を無事に終えた花王と花姫たちを労わるために、デルソレでの休暇にご招待しております。時事情報放送によれば、明日からのご予定ですな」

 

 新人二人がうんと頷いたので、オレはただ視線を逸らした。


 オレだって時事情報放送はときどきは見ているし、遺物展示交換会の後は、映画撮影を隠れ蓑に大暴れした件とか、ヘンリー一族のその後が気になって、割と真面目に見ていた。


 映画撮影の方は、ボーディの手が回ったせいか、一部公開された映像に映っていたバトルドレスが華麗過ぎたせいか、期待の作品と高評価されていた。

 防犯映画が期待の作品というのもどうかと思うが、上手く誤魔化せるならそれでいい。

 

 ヘンリーが脅迫と違法物品の所持を含めた様々な犯罪を理由に捕縛されたことと、ヘンリー一族26名が禁制品を持っていたために捕まったことは、時事情報放送の緊急速報で公表された。


 時事情報放送に流れない情報も聞いたが、ヘンリー宮殿には警備局の人員を送り込んで封鎖したし、準備ができ次第、他の局とも合同で、ヘンリー宮殿を一斉捜索する予定だ。

 世界管理機構の制度を悪用とまでは言わないが、都合よく使ってきたこともあって、世界管理局が多くの人員を捜索に参加させるそうだし、治療局も参加が決まっている。


 治療局長は研究開発の件でヘンリーに脅されていて、治療局が保有する一般には出回らない薬と素材を自分の研究のために譲れと要求されていたし、ヘンリーとヒミコが結婚すれば、嫁の父親を困らせるつもりはないと迫られていたそうだ。


 取引のようでいて取引でないし、相手の弱みに付け込んで自主的に行動させようとする悪辣なやり口だが、ヘンリーはベルタ警備局長が長きに渡り捕縛できずにいた理由が分かるくらいに、ぎりぎりをすり抜けるのが上手い。


 ヘンリーがセクサロイド型の部品を取引しようとしていた相手の方は、捕まった三人が相変わらず黙秘し続けているため、ヘンリー一族を尋問することを優先して、ヘンリーの子どもたちがうっかり漏らした情報を元にヘンリーを追求するという手法で、情報を引き出しているそうだ。

 警備局長直々にヘンリーを尋問しているので、さすがのヘンリーも逃れられないだろう。


 警備局長にこき使われているアレク捜査官からときどき通信文が来るが、ものすごく忙しそうだ。

 アレク捜査官は休暇を楽しみにしていたようだが、休暇どころでなくなったのは気の毒としか言えない。


 オレは、粛々と休暇に突入した。潜入捜査への協力任務は、遺物展示交換会当日だけのものだったし、仮面の不審者に目をつけられたかもしれないので、注意を引かないよう以後の協力はしないことになったからだ。

 デルシーの支配人がオレの休暇日程をぎっちり詰めていたので、警備局から追加の強制任務が来ようが、却下されたに違いないと思うが。


 支配人はオレがデルソレに確保されるのを懸念しているのは理解したが、無意味な悩みである。


「どうせオレの休暇中の日程調整は支配人の担当だし、デルシーから外出する許可も出ないだろうし、オレがデルソレのことを知らなくても問題ないはずだ」


「わたくしは自由な個人行動を制限するつもりはございませんが、そうやって丸投げされるのであれば、遠慮なく調整させていただきます。安心なさい。ユレスがデルシー内にいる限りは、わたくしの目が届きますので、平和な休暇を過ごせますぞ」


 だったら、オレに説教とか指導とかやめてほしい。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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