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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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6 ドルフィー誘拐事件


「え!?誘拐事件ですか!?」


「リマ、声が大きいわ」


 警備局特務課の新人が誘拐事件に反応したが、本当に職務熱心だな。


「ドルフィーですから、人に使う誘拐という表現は不適切かもしれませんが、ドルフィーに馴染みの深いわたくしどもとしては、誘拐と言いたくなるのです。幸いにも旧世界管理局が誇る捜査官が事件解決して、ドルフィーの子どもは無事に親元に戻されました」


「人でなくドルフィーを勝手に持っていく事件であっても、警備局捜査課の管轄だし、浜辺の警備局の訓練施設に捜査課の捜査官が来ていたから、一応相談はした。だが、まともに対応して貰えなかったから、仕方ない。誘拐事件だと初動がすべてだ。うろたえている親ドルフィーを前にして何もしないわけにはいかなかった」


 新人二人が詳細を聞きたそうなので、支配人が話した。

 情報制限がかかっていない事件だし、旧世界管理局と警備局の職員なら職場で事件記録を参照することも可能なので問題ない。


 正式名称は違うと言われそうだが、ドルフィーの子ども誘拐事件は、10年ほど前に起こった。

 誘拐現場はデルソレがある場所に近いので、デルソレの話をされたときに誘拐現場を思い出したし、支配人もドルフィー誘拐事件のことを思い出して話題にしたのだろう。


 支配人がデルソレの構造について結構詳しく語ったのも、オレの質問を見越してのことだな。

 デルソレは各施設を地上で建設しつつ、同時並行で陸上部分の建築を進め、各施設を連結させながら次々に海中に沈めて一気に建築したそうで、自然環境に配慮した短期工事であるのも確かだが、分かる人にはドルフィー対策だと分かる。


 ドルフィーたちは海を汚されるのを嫌がるので、海底に何かを建設しようとした場合、資材を動かされたり、持っていかれたりして、ろくに工事が進まなかったりする。


 10年前のドルフィー誘拐事件が起こった原因も、海中に施設を建設しようとしたからだった。


 生産局がデルシー海洋遺跡での塩製造を真似た塩の精製施設を作ろうとして、海中に施設の建設を始めたのだが、ドルフィーたちの妨害にあって全く進まなかった。


 世界研究局とデルシーにドルフィーを何とかするよう要請もあったようだが、自然生物保護規定を読んでから出直せとしか言えない案件だし、世界研究局自然環境課からは、自然環境破壊と自然生物への干渉行為が疑われると厳しい態度を取られたようだ。


 そこで計画を中止にしてくれれば良かったのだが、引くに引けなかったのか強行して、海水を吸入する施設を強引に海中に設置したが、そこに子どものドルフィーが吸い込まれてしまった。


 生産局の担当者は、ドルフィーに配慮して吸入口の大きさはドルフィーが入れないくらいにしたと主張していたが、成体のドルフィーなら入らなくても、子どものドルフィーなら余裕ですっぽり吸い込まれる大きさだった。

 そもそも塩製造のためには、異物が混入しないよう幾重にも濾過用の網を組み込むべきだし、杜撰な計画で強行するものではない。


 しかも、ドルフィーの子どもが入ってしまったことに気づいた後の対応がまずかった。

 自然環境課に厳しい態度を取られていたのもあって、罰則を適用されることを恐れて隠蔽しようとしたし、子どもドルフィーを使ってドルフィーたちを別の場所に誘導している間に工事を進めようと考えたようだ。


 子どもドルフィーを輸送しているところにオレたちが乗り込んだので、手違いによる事故でなく、明白な規定違反と犯罪行為と認定されて、生産局の担当者は警備局に引き渡したし、生産局の塩の精製施設建設計画も取りやめになった。


 オレは捜査官として働いたようでいて、ドルフィーたちから事情聴取するくらいしかしていないので、事件解決したとは言いづらい。

 事情聴取結果を踏まえて警備局に相談はしたが、動いて貰うことはできなかったし、事件解決したというか、ドルフィーの子どもの救出に直接的に貢献したのは世界研究局自然環境課の博士である。


 新人二人が質問したい顔になったので、受け付けることにした。


「あの、ユレスさんはドルフィーから事情聴取できるんですか?つまり、ドルフィーとお話しできるんですか?」


「オレではなくワトスンができる。だが、ワトスンはにゃあとしか言わないので、事情聴取は難航した。ようやく意味を汲み取ったところで警備局に相談したが、頭がおかしいのかという対応をされても仕方ないとは思う」


「巡りあわせが最悪だったと思ってもよろしいでしょうな。浜辺にある警備局施設に相談しに行ったのは間違いではありませんし、ちょうど捜査官が来ていたのも良かったのですが、それが、よりにもよってユレスとローゼスに冤罪をかけたアーデル捜査官だったのです。

 冤罪をかけられた二人を労わるべくデルシーで休暇を過ごさせていたところでドルフィーの子ども誘拐事件が起こったのですが、警備局長は何を考えて同時期にアーデル捜査官を訓練施設に寄越したのか心底疑問でしたな」


「オレが聞いてみたら、謝罪か関係改善の機会を与えてやったんだよと言っていたが、オレたちとの関係はさらに悪化しただけだったな」


「二人に冤罪をかけた償いとして、誠心誠意働いてくださると期待したかったですが、狂人扱いされるとは残念なことでしたな」


「親ドルフィーから事情聴取したと言われて、受け入れられるほど柔軟ではなかっただけだろ。オレはその点に関しては、むしろ同情するくらいだ。ドルフィーがキューキュー鳴いて、ワトスンがにゃあにゃあ鳴いているのを必死に翻訳解析しているオレたちですら、異次元な状況だと思っていたし」


 旧世界では、人は一つの言語でなく多種多様な言語を使っていたので、AIに言語の翻訳機能を搭載して通訳して貰うことが多かったようだ。

 だから旧世界AIは言語の翻訳に強いし、今の世界の言語も習得して、旧世界管理局職員と今の言語で意志疎通することができる。


 旧世界遺跡の管理型AIに相棒のAIがこちらの意図を通訳してくれるからこそ、遺跡は侵入者ではなくゲストとして対応してくれるし、AIが旧世界言語を今の世界の言語に翻訳してくれるからこそ、旧世界遺跡の管理や調査が可能になる。


 AIの翻訳機能の重要度は高いし、最も求められる機能でもあるが、さすがに動物の鳴き声を翻訳できるAIはほとんどない。

 動物型の姿を構成するAIであっても、基本的に人の言語で意志疎通するし、動物の鳴き声の翻訳はできないようだ。


 だが、人の言語で意志疎通せず、にゃあとしか言わないワトスンは、動物の鳴き声からかなりの情報を読み取っているらしい。

 ドルフィー専門の博士の研究によれば、ワトスンはドルフィーの言語はほぼ完ぺきに理解して、複雑かつ高度な意思疎通もしているそうだ。


 旧世界にはイルカというドルフィーによく似た賢い海洋動物がいたが、ワトスンにはイルカと会話できる機能があると推測していた。

 旧世界のイルカがこの世界で再構成されたのがドルフィーであるとしたら、ドルフィーとも会話ができて当たり前との見解であり、ワトスンがオレのためにドルフィーを呼んでいると推測された根拠でもある。


 ワトスンはにゃあと答えていたので、その通りなのかもしれないが、にゃあとしか言わない相棒なので、意志疎通に困難しか感じない。


「ミヤちゃんの相棒のAIって動物型って言ってたっけ?」


「犬型だけど、人の言葉で会話するわよ。旧世界の警備局に該当するところで働いていたし、追跡向きの機能があるから、先輩が誘拐事件捜査向きと言ってたけれど、ドルフィー誘拐事件のことがあったからかしら」


「旧世界管理局の職員、特にデルシーに来た職員は、デルシー勤務中の話題で知ることになりますからな。ですが、もし誘拐事件に遭遇して、どうしてもすぐに追跡しなければならない場合でも、デルシーにいる限りは必ずわたくしには報告するようお願いしますぞ」

 

 オレに説教するつもりなのか、支配人の視線がこっちに向いたので先に言っておくことにした。


「あのときは事態が差し迫っていたから仕方がないんだ。他のドルフィーが、子どもが連れて行かれてしまう!と緊急通報しに来たからな。オレが通訳したら、研究局自然環境課のリック博士がいざ行かん!って船にオレたちを押し込んだし、行くしかないだろ。博士とオレだけならさすがに躊躇ったが、ローゼスとロージーがいたから、ある程度は制圧できると思ったし」


「リック博士にも困ったものです。ドルフィーに対する熱意は存じておりますが、旧世界管理局職員の安全にも配慮していただかねば困ります。あやうく、ユレス拉致事件として扱うところでした」


「オレは一応捜査官なんだが?それにローゼスが、支配人には報告しないとって叫びつつ、連絡入れていたと思うが。拉致と言うなら、無関係なのに巻き添えになったロージーのことを言うべきだな。

 ああ、二人は知らない名前で悪いな。ロージーというのは、デルシーのおすすめの場所とやらを語っていたローゼスの妹だ。冤罪をかけられた兄の身を心配してデルシーに来ていたんだよ。デルシー勤務中の職員は、家族とか恋人を同室に招待できるから、詳しく知りたければ、後で支配人に聞くといい」


「ユレスが聞いていなかっただけで、すでに説明済みです。なお、ローゼスから連絡を受けて、ロージーは誘拐されたドルフィーの体調確認と必要があれば治療のために協力要請した扱いにしておきましたので、無関係な者を巻き込んだことにはなっておりません。こういう手回しをするためにも、わたくしへの報告をお願いしております」


 賢明な新人二人はしっかりと頷いた。


「オレも一応、手回ししただろ。警備局長に訴えただけだが」


「大物狙いも甚だしいですが、そのおかげで、警備局との話が即座についたのは否定はしません。その直通の関係があるからこそ、局長もユレス捜査官をデルシー専属職員にするのを渋るのが困りますが。

 何にせよ、ユレスたちの尽力のおかげでドルフィーの子どもは無事に保護されて親ドルフィーの元に戻りましたし、ドルフィーたちの人に対する信頼を失う事態にもなりませんでした。

 ただ、人に対して警戒するようにもなりましたし、同時に、誘拐事件解決に尽力したわたくしども、特にユレスに対しての信頼度が高まったものと思っております」


「なるほど。誘拐現場が今のデルソレに近い位置だったために、デルソレの人たちが魚で釣ろうとしても見向きもしないのでしょうか?」


 ミヤリは結構推理力あるし、捜査官向きかもしれないな。支配人も将来有望と思ったのか笑顔で頷いた。


「わたくしもそう考えております。ゆえに、ユレスはうかつにデルソレに連れて行かれないよう注意するように」


 何故?


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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