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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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5 複合娯楽施設デルソレ

 

 宿泊施設内をひととおり巡って大ラウンジに戻ったら、施設点検や整備に忙しかったデルシー専属職員が飲食物を用意して待っていたので、宴会になった。


 客がいないときはときどきやっているが、今回は警備局も呼んだらしい。デルシーでは専属職員と警備局は割と仲良くやっている。

 今回は、両方の新人たちが大ラウンジの雰囲気に慣れて、交流もできるようにと配慮したのかもしれない。


 新人ではないオレは、カウンターでカクテルを提供することにした。


「あ、あの!カクテルください!」


「せめて種類を指定しないと困ると思うわ」


 成人したばかりの新人、警備局のリマと旧世界管理局のミヤリが来た。

 支配人がこちらを見ているので、後押しでもしたのだろうか。


 成人したばかりでもそれなりに交流場を経験してる人はいるが、二人は慣れていなそうだ。

 オレも慣れていない。厨房とかカウンターでカクテル作るのは慣れているが。


「種類が分からない場合は、お任せで頼むのもありだ。カウンターにいるのが初心者だと無理だが、好きな味を伝えると好みのものを作ってくれるし、自分のイメージで作ってくれと頼む人もいたな」


「え、そ、そうなんですか、じゃあ、その、あたしのイメージで、お願いします!」


「では私も」


 ドレスルームで着替えて来たようなので、ドレスの色に合ったカクテルを作って出した。


「わ、綺麗な色。あ、ドレスの色ですか?」


「……美味しいです、色で選んで組み合わせたのに、合っていますね」


「旧世界だとものすごい数のカクテルのレシピがあるし、今の世界で公開されているのもかなりの数があるから、その中から選べばいいだけだ。オレはカクテルづくりの経験は結構豊富だ」


「それではわたくしにも、わたくしのイメージで一杯」


 支配人まで来たから、面白がった専属職員たちもやってきて、オレはカクテルを作りまくった。


 デルソレより美味しいと褒められたが、デルソレとはなんだ?


 オレの顔を見て、カウンターに居座ったままの支配人がやれやれと言いたげに解説してくれたところによれば、砂浜の向こう側にある宿泊施設のことだった。

 そう言えば、デルシーと似たような宿泊施設が建設されるという話を聞いたことがあったが、もう完成したのか。



 複合娯楽施設デルソレ。劇場を二つ、遊技場を三つ抱え、観光も娯楽も楽しめる宿泊施設で、その施設の大半は海中にあり、宿泊部屋から海中が見えるのが人気である。

 自然環境に与える影響を最小限にするため、海底に建設するのではなく、陸上で作った各施設を海中に沈めて固定し、通路でつなぐ形で建設された。


 海上に出ている展望ラウンジと海底近くにある海中ラウンジの二つの巨大なラウンジは、交流の場として賑わうとともに、それぞれのラウンジ限定の飲食物も多く提供している。

 特にカクテルに力を入れていて、各ラウンジにあるカウンターには多くのカウンター職員が配置され、お好みのカクテルを作ってくれる。


「世界管理局監督の下で有志個人が集まって作った、出会いとお見合い専用の宿泊施設ですな。宿泊客同士の交流だけでなく、職員との交流も推奨されていますので、デルシーと混同されると大変迷惑でございます」


 普通の観光用とか娯楽用の宿泊施設ではデルソレのようなサービスが期待されているので、デルシーの規定の方が特殊だし、めんどうな客は勘違いした要求をして警備のお世話になってしまうわけだが、そういう客は最初からデルソレに行くようお勧めすればいいのではないだろうか。


「海の中見て観光したり食事を楽しむだけでなく、恋愛や交流に力を入れたい客にはデルソレが大変お勧めだと、デルシー総合情報で宣伝したらいいと思うが」


「すでにやっております。デルソレ側としても、デルシーが提供していないサービスにあえて力を入れて差別化をはかり、お互いに競合しないようにする配慮をしてくださっております。

 ただ、宣伝が派手と言いますか、娯楽と相手探しのための交流に力を入れて宣伝していますので、デルシーにもそういうサービスを要求する不作法なお客様が増えるのです。

 デルソレは条件型交流場ですが、招待状は入手しやすいようですし、サービスをしないデルシーにわざわざいらっしゃる必要はございません。と申し上げたいところですが、娯楽だけでなくドルフィーもという欲張りな方は、デルシーにいらっしゃるでしょうな」


「ドルフィーは元々デルシー海洋遺跡がお気に入りだから、それは仕方ないだろ」


 デルシー海洋遺跡の機能は本当に優秀で、海中環境の浄化だけでなく、海中の微生物の活性化と成長分裂の促進効果も報告されている。

 結果として、微生物を摂取する生物が遺跡周辺に集まり増えて、それらの生物を求めてドルフィーたちも遺跡周辺に集まって来るわけだ。


 旧世界でもそうだが、この世界の生物の体は、他の植物や動物の体を取り入れて成長したり、維持するようになっている。

 旧世界では食物連鎖という概念で認識していたが、今の世界では、食事することは、情報を取り入れて交換し合う世界との交流の一種だと解釈されている。


 旧世界では世界の自然環境に配慮せずに搾取し、環境を痛めつけて汚し、栄養の乏しい食材を大量生産しては、食べきれずに廃棄するという、狂気的なこともしていたようだが、それもまた旧世界崩壊の一因だろう。

 世界管理機構の生産局では、自滅か自殺でも考えていたかのような旧世界の事例を参考に、自然環境に悪影響を与えることなく、世界全体で必要な食材を無駄なく配分して食事として摂取できるよう、細かく生産活動の調整を行っている。


 生産局は、世界管理機構が無償提供する生活物資の生産を一手に引き受けているので、生産局の職員として職務にあたる人はかなり多い。

 食材だけでなく、衣服の素材から仕立てられた衣服、生活に必要な消耗品から基本的な家具類まで、ありとあらゆるものがその範疇に入るからだ。


 逆に、特殊な適性が必要な旧世界管理局の職員は少ないが、この場には旧世界管理局と警備局の職員しかいないので、交流場にしても偏っているというか珍しい場になっている。

 支配人は本気でオレに交流場での振る舞いを指導するつもりだったようで、あれこれ解説しているが、正直頭に入ってこない。それに気づいている支配人がお説教しそうな気配を感じたので、話を逸らすことにした。


 支配人だけでなく新人二人もカウンターに残っていて、支配人の解説を熱心に聞いていたが、リマが何か質問したそうな顔をしているので話をふった。


「何か聞きたいことがあるなら、質問した方がいいぞ」


「えっと、はい。でも、交流場のことじゃなくて、交流のことなんですけど、いいのかな」


「構いませんぞ。交流場でなければ、交流できないわけではございませんし、交流の基本を押さえる方が重要ですからな。ふむ、人との交流ではなく、自然動物との交流について聞きたいという顔をしておりますが、そちらでも構いませんぞ?」


「リマ、分かりやす過ぎたわ」


「ミヤちゃんだって気になってるでしょ!じゃあ、遠慮なくお聞きしちゃいますけど、ドルフィーってデルシー海洋遺跡以外ではあんまり会えないですか?遺跡の周囲には魚が多いからドルフィーが来るって、遺跡見学のときに教えてもらいましたけど、自然な交流でないからやったらいけないかもしれないですけど、魚をあげたらドルフィーが来てくれることってあるのかなって」


「リマ、結構ぎりぎりな質問よ」


「分かってるけど、気になっちゃって。あたしは無理やりそういうのやるつもりないけど、そういうこと考えてドルフィーに近づく人がいたら、警備局として取り締まりの対象になるのかなって思って」


「職務熱心で良い質問だと思いますぞ。それから判断が分かれるぎりぎりの領域ですな。ドルフィーとの自然な交流の流れで、魚を差し上げるのは問題ありません。ですが、初めからドルフィーを誘き出す目的で魚を用意するのは自然生物保護規定に抵触します。

 困ったことにデルソレの方たちはそれを試みておりますな。ドルフィーたちは見向きもしないようですが」


「え!じゃあ、取り締まり対象ですか!?」


「リマ、抵触するだけだから、そこまでいかないと思うわ。支配人の言う通りぎりぎりで、言い逃れできてしまうんじゃないかしら」


「冷静な分析で大変よろしいですな、ミヤリ。魚で釣って、ドルフィーに何らかの干渉をした場合は規制対象となっても、ドルフィーに相手にされていないとなれば、難しいでしょう。

 ドルフィーたちは賢いので、相手を選んでおります。魚を貰うとしても、交流して仲良くなった相手に限定しているようですな。ドルフィーの子ども誘拐事件があってからは、警戒していると思いますぞ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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