表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
40/374

14 よからぬ道具


 どうしても疑問なので、聞いてしまうことにした。


「オレが分かっていないだけかもしれないが、パパのことが大好きな娘が、パパが成人したばかりの女と結婚しようとしてるのに、怒ったり窘めたりするんじゃなくて、応援するというか、むしろ当然って発想するものなのか?」


「ヘンリー一族に突っ込むと頭がおかしくなるよ。ヘンリー宮殿で洗脳教育してるようなものだからね。パパ至上主義に育ててるんじゃないかって人権倫理違反の疑いもかかってるけど、そういう育て方されてる子たちはそれが当り前だから、おかしいと指摘すると逆効果なんだよ。パパから引き離そうとしてると泣かれると、指摘した側が人権問題になりかねないしさ。

 ヘンリーのやつは本当に悪質でぎりぎりな真似するわけ。で、弱み握った相手のこともとことん使いつくして、自分の身の安全保ったまま犯罪行為をさせるんだよ。

 脅された発明家がやらされたのは、大猿の中身の駆動装置部分を作ることさ。単純動作だけでなく複雑で高度な動きもできるようにしろと無茶振りされたようだね。さらには、そのために窃盗もしてこいと強要された。

 発明家はあちこちから仕事請け負っていたけど、そのうちの一つに治療局の研究開発への技術協力ってのがあってね、これが」


「局長、それはユレスに話さねばならないことですか?」


 警備局長の流れるような説明を、アレクが唐突に遮った。


「なんだい、お守役としてお気遣いでもしてるのかい。潜入捜査のための設定はともかく、中身は黒猫だよ?見た目はともかく、成人済みの捜査官に変な気遣いするもんじゃないよ。

 で、察しただろうけど、治療局はセクサロイド的なものを作ろうって研究をしているのさ。表向きはいい感じに取り繕ってるけどね。

 性欲って基本的欲求だし、抑える方が不自然だし、我慢させたら機能不全の原因になるし、行き過ぎたら犯罪の原因になるから、治療局では、自分で欲求解消できない連中のために治療行為として道具使って解消させたりもしてるわけさ。

 でも道具は道具だし、いまいち良くないし、治療行為というなら道具じゃなくて職員が相手しろって迫る馬鹿もいるんだよね。警備局に通報が来るくらい悪質な馬鹿もいるから、代替えの道具を研究開発しようって発想はわからないでもないけど、ぎりぎりだね。

 こういうのは結局のとこ、人の形した道具に行きついちまうから、少しでも規制に引っかかりそうになったら、即座に潰すって治療局長には釘刺しておいたのさ」


「治療目的だとしても、行きつく先が分かりやすいから、研究開発の計画段階で人権倫理委員会の指導が入りそうだが、もしかして秘匿している研究か?」


「上手いこと誤魔化してるけど、警備局は把握してる研究ってとこだね。治療局はなるべく秘匿しておくために、研究局に協力要請せずに個人の技術者と契約して開発してるわけさ。それで発明家が動作機構関係の製作を委託されたし、研究開発に必要な情報も入手できたから、ヘンリーはありったけ持ち出してこいと要求したんだよ。

 正確には窓口役の娘の口から伝えられたから、ヘンリーが脅して盗みさせたとまでは言いきれないぎりぎりのとこだね。いつものことだが、ほんと腹立つ。脅迫で捕まえられるとしても娘の方だけだし、娘は大事なパパを庇って証言しないだろうし。

 発明家は割と頭使って、治療局から情報も装置も結構持ち出したようだね。それで、ヘンリーの娘からは、ヘンリーが罪に問われないように引き渡すために凝った手法を指示された。そのためにこの大猿を使うことになったわけだけど、この猿は試作品で、本当のところは人型というか、ヘンリーの形で作る予定で」


「局長」


 再びアレクが遮ったが、博士に何か言われているのだろうか。

 ジェフ博士はオレにこういう話はしたくない派だが、ベルタ局長は教育する派だ。


 旧世界より今の世界の方が性犯罪に係わる事件が多いので、知らない方が危険だと思って教育するばばあは間違っていないと思うが、未分化型のオレにはいまいち実感できないことも多いので、奥手なじじいの配慮もまた間違っていないとは思う。


 だが、オレも成人済みだし、最低限の教育は受けているし、ばばあが言った通り、捜査官相手に変な気遣いはいらないのだが。

 ばばあも呆れたように言った。


「アレク、あんたは過保護すぎ。いいかい、旧世界にはもっとえぐい事例なんざ、いくらでもあるんだよ。旧世界管理局の捜査官やってりゃ、どうしたって知ることになるし、ユレスは大して何とも思わないさ。ま、分かってないだけってこともあるけどね。

 話続けるけど、本当はこの猿は、ヘンリーが宮殿に囲ってる元妻たちを満足させるための道具として発注されたようだね。人型で作ると規制に引っかかるから、動物の猿を模したということで基礎部分作らせて、毛をなくしたらヘンリーの体になるんだと。顔は元妻や娘たちで心を籠めて作るとかヘンリーの娘が言っていたけど、気持ち悪いし、ぞっとする発想だね」


「オレには理解不能だが、人形を恋人にしていたパリラとは意気投合するかもな。だが、それすらも表向きの隠れ蓑で、実は戦闘用の道具にするためということもあり得ると思うが。ある程度複雑な動作機構を作って組み込めるなら、いくらでも転用は可能だ」


「あたしもそっちの方が納得できるし、ゆくゆくはそのつもりだったと推測してるさ。旧世界のセクサロイドもそういうのが結構あるしね。戦闘用兵器的なもんを作っているとなったら罰則も重くなるから、ヘンリーは言い逃れしやすいように、色呆けして狂った感じの理由をヘンリー一族に言っているってこともあり得るね。

 アレク、捜査官やってくつもりなら、頭がおかしい特殊性癖のところで足を止めずに、黒猫みたいにそこまで推測してみせな」


 新人捜査官にそこまで要求するのは酷だと思うが、アレク捜査官は難しい顔をしつつも会話に参加して来た。


「私の考えが至らなかったのは認めますが、ユレス捜査官が未分化型であることに対しての配慮は必要だと思います」


「そういうとこ、ジェフ並に頑固だね。悪いとは言わないけどさ。はいはい分かったよ、この話はここまでにして、この大猿をどう使うつもりだったかって話に戻るけど、まず、ヘンリーの娘が発明家のとこに大猿を持ち込んで、この中に動作機構を組み込むための寸法を取らせた。その後、大猿の中に治療局から持ち出した品を詰め込んで、発明家に遺物展示会に出品させたんだよ。

 ヘンリーの方も宝飾品の小箱を出品して、その中に発明家がヒミコを襲った時に落とした遺留品を入れて返してやる予定だったそうさ。

 両者が取引要望出して優先取引となったら、横やり入れられることもなく、正当な流れで互いの品を交換できる。ヘンリーは大猿の中に盗品が入っているなんて知らず、たまたま目について気に入ったから取引しただけと言い張ればいい。

 治療局としても秘匿していた研究を盗まれたとは公表しづらいし、追及もできないと見込んだんだろうね。治療局長のあの様子だと盗難に気づいて、発明家を追ってきたのか、秘密裏に回収しようとしていたのかもね」


 そう言って警備局長が扉、というよりその向こうに追い出した治療局長の方を見たが、あの必死さからすれば、大猿の中に治療局の機密情報が入っていることは分かっていたのかもな。


「ばばあも回収しに来たんだろ。治療局長より後に来たのは、少し意外だが」


「あたしらはセクサロイド型の部品持ったヘンリー一族の大捕り物に忙しかったし、最初に捕まえたヘンリーの娘には、情報攪乱したり誘き出すための通信文送らせることを優先していたから、発明家の事情聴取は後回しにしていたんだよ。

 ヘンリーから娘のところに、どこにいるんだ、そろそろ大猿の取引を終えてしまいたいって連絡が来たから、ようやく大猿のこととか尋問したんだけど、ヘンリーからはしつこく催促が来るし、会場からはヘンリーがティアラを入手した後、出品者が不在で取引できない出品物を主催者が代理で取引しろと要求してるって報告も来た。

 ヘンリーが大猿確保したらめんどくさいことになるって、ちと焦ったんだけど、発明家のとこに来てる取引要望通知見たら、何故か二件あるじゃないか。しかも、一つは、あんたたちが出品した最高評価の品の番号だ。そんなわけであたしは閃いた。二件とも取引要望だして時間稼ぎしようとね」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ