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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
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13 映画撮影


 半分冗談のつもりでヘンリー王国と言ったが、ベルタ局長が乗ってきた。


「頭おかしい発想だけど、ありそうだね、それ。そっちの方向でも追及した方がいいか。そういう推測に繋がる情報でもあるのかい?」


「無いし、旧世界情報というか、人類皆兄弟とか家族だという発想のことを思い出しただけだ。そうすれば平和で協調した社会になるという理想も込められているのだろうが、兄弟だろうが親子だろうが相容れないのは相容れないし、喧嘩するのはする。だから、旧世界では理想論で終わった」


「悪い理想論じゃないけど、人の精神がそこまで進化してないだけなんだろうね。それは今の世界でも同じことだけどさ。AIの方がむしろ兄弟とか家族っぽい発想じゃないかと思うときもあるさ。黒猫がにゃあにゃあ訴えると、大体のAIは聞いてやるだろ?」


「そのせいで騒動が起こることもあるんだが。覚悟はできているから言ってくれ、今回はどれくらい大騒ぎになった?」


 ワトスンがオレにセクサロイド型人工物を近づけないよう、他のAIたちに追い払ってくれと頼んで回ったようだし、セクサロイド型が大好物の姉御をはじめとして、オレの女装を見に来るくらいに暇な旧世界管理局職員が動員されたとなれば、大騒動になっていてもおかしくない。


 アレク捜査官が腕輪で情報を確認していたが、少し困惑した顔で答えてくれた。


「大騒ぎにはなっていないようですが、局長がおさえたのですか?」


「いんや、堂々と大騒ぎしたさ。黒猫に訴えられたAIの相棒の旧世界管理局職員が走り回り、警備局職員が同行して、到着した先で不審尋問して持ち物確認して捕縛して回る感じで大忙しだね。

 それが問題になってないのは、別の理由にすり替えたからだよ。ボーディがいて助かったね。この事態を想定していたわけじゃないだろうけど、ユレスの女装を見に来るにあたって、その場にいる理由を作るために、映画撮影用機材を担いで来ていたんだよ。女装映像もばっちり撮影したってさ」


「人権侵害で訴えてもいいと思うが、なるほど、映画撮影してるふりして誤魔化す手法に出たのか。……それで後の騒動が抑えられたのなら、流すしかないか」


「祝花祭が終わったら次は火宴祭だし、ちょうどいい話題になるだろ。火宴祭は新作映画公開がイベントの中心だし」


「そうだな。……アレク捜査官のために一応説明しておくが、遺物は周囲に与える影響が大きいものもあるし、時に異変を起こすこともある。旧世界管理局の遺物調査課が確認しに行くときに、遺物による異変として大騒ぎになるのを避けたいときによく使う手法が映画機材を担いでいくことで、映画の撮影中と言えば多少の異変や異常事態があっても納得してくれたりする。もちろん、後始末というかつじつま合わせも必要になるが」


 旧世界の映画作品は別世界が舞台だったり、想像上のものや架空のものが出て来ることも多く、旧世界の実情を把握する研究の妨げになったり、惑わされる原因ともなる。

 だが、旧世界映画に出てくる進歩した架空の技術が、今の世界の技術進歩のきっかけになったりもする。


 転送装置とか空間拡張機能による収納は、旧世界の映画作品から発想を得て開発された技術だ。


 旧世界では普通にあったものとして研究が始まり、実は映画の中だけの架空の技術だったと分かった頃には、実用化されていた。

 崩壊した旧世界の情報から再構成されたのがこの世界なので、そういう想像上の革新的な技術も実現できるように世界が構成されたのではないかとする見解もある。


 旧世界の芸術作品も、現実にはいなかった幻想の生物をモチーフに作られているものもあるし、旧世界人の想像力と発想力が高かったのは間違いないだろう。


 今の世界でも映画作品は製作されるが、旧世界の遺物映画の印象が強いせいか、想像力に溢れたものや、日常には起こりえないものを題材にする作品が多い。

 だから、通常ではあり得ない事態が発生しても、映画撮影用の機材を持っていたら、映画撮影のための演出だと誤解して納得してくれやすいようだ。


 知っていたのかアレク捜査官も頷いた。


「警備局の特務課も似たような手法で誤魔化すことがありますが、局長の指示だそうですが」


「あたしゃ、使える手口は遠慮なく取り入れる女だよ。旧世界管理局は警備局に配慮してっていうか、隠蔽工作じゃないってのを主張するために、事前にしろ事後にしろしっかり報告入れて来るから、参考にさせて貰ったのさ。

 ボーディ前局長は熟練の技だから、今日は丸投げさせてもらったけど、旧世界管理局と警備局合同で防犯とか捕縛系の映画製作中ってことで誤魔化したようだね。

 ボーディがため込んでいた旧世界の遺物映画用の器材も引っ張り出して、あちこちで映画撮影してる感じにしたし、クレアにはあたしのバトルドレスを着せて、大立ち回りしても自然な感じに仕上げた。いい感じに真に迫った映像が取れてるし、本当に編集して作る方向で合意してるのさ」


「真に迫ったじゃなくて本物の犯人と本物の警備局職員だし、実録映画だろ。ところで、ヘンリー一族はともかく、取引相手も21人いたのか?」


「そこは分からないんだよね。取引現場を抑えたのは二件くらいで、あとはヘンリー一族が移動してるところを押えたし。取引相手は最初に捕まえた一人と合わせて、三人いるけど、今のとこ全員何も喋ってないよ。

 ヘンリー一族の方は軟弱で、少し尋問したらめそめそ泣きながらあれこれ喋ったし、他の兄弟を誘き出す通信文まで送ってくれたから21人捕まえられたわけだ。ユレスの言う通り、兄弟だからと言って仲がいいわけでもないね。積極的に罠にかけようとしたのもいたらしいしさ。

 それから、指示は基本的にヘンリーパパから出るようで、他の兄弟の通信文を見ても、お前の言うことなど聞くかとか、パパに確認するという反応もあった。つまりパパに事態が知られたらそこで終わりだったんだけど、あんたたち二人がいい仕事してくれて助かったよ。

 会場中を攪乱してくれたし、高評価の出品を一つ残したままだったから、ヘンリーの奴、あれを出されたらティアラは持っていかれると焦って、追加の宝飾品を取り寄せたり、あんたたちの狙いの品の情報収集するのに忙しかったようだね。

 最初に捕まえたヘンリーの娘に、パパに相談があると通信文送らせて様子を見たら、今はものすごく忙しいから、遺物展示交換会が終わってから聞くし、他の子たちにもそう伝えなさいって回答だったさ。すごく助かったよ」


「そう言えば、そのヘンリーの娘と発明家の関係は?恋人どうしか?」


 ベルタ局長が肩をすくめた。


「その方がまだ救いがあるさ。二人の関係は脅す側と脅される側だね。脅すのがヘンリーの娘で、監視役として発明家に同伴して会場入りしたわけさ。

 本人はパパのお気に入りの娘で一番信頼されてると言い張っていたけど、遺物展示交換会でティアラ貰ったのは別の娘だから、思うところがあるらしい。次は自分が宝飾品をもらうつもりでいて、そのためにたくさんパパのために働こうと、発明家の監視役だけでなく、セクサロイド型の部品の運搬役も請け負ったわけさ。会場の外に荷物取りに行く振りすれば両方こなせると考えたようだけど、欲張るものじゃないね。そういうことするから黒猫にふしゃーとされるってのに。

 発明家がなんで脅されることになったかと言えば、ヒミコを狙ってつけ回していて、当時は未成年だったヒミコを襲ったからさ。その場に来たヘンリーの娘が悲鳴をあげたから発明家は逃げたけど、遺留品を残しちまったのをヘンリーの娘が確保してパパに報告したんで、未成年に対する性犯罪の証拠をヘンリーに握られることになったってわけさ。

 なんでヘンリーの娘がその場に来たのかと言えば、せっかくパパが150回目の結婚相手にヒミコを選んだのに、断り続けるなんておかしいと、パパと結婚するよう説得しようとヒミコに付きまとっていたからだね。ん、なんだい?」


 話の邪魔をしたいわけではないが、顔に思いっきり疑問が出ていたらしい。ヘンリー一族が理解不能だ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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