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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
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10 競われるもの


 オレたちは、強制ではなく丁重にであるが、有無を言わさず寄り道も許されず、イベント会場に連行された。


 会場ではちょうど勝負が決まったところだったようで、ヘンリーが娘の頭にティアラを乗せていた。

 娘のために頑張った父親の威厳と信頼が示せた感じで、なかなかいい場面ではないだろうか。


 だが、司会に今の心境を聞かれて、自分のアピールをするのはいいが、そのままの流れで女を口説くのはどうかと思う。娘に配慮した方がいい。

 一際華やかな衣装をまとってヘンリーに口説かれているのが噂のヒミコなのだろうが、何とか笑顔を作っているが、嫌がっているのが割と分かりやすい。


 こういうときこそ英雄が割って入るのを期待されると思うし、治療局長が縋るような視線を向けてきているが、アレクはそちらを見ようともしなかった。

 オレのお守役をジェフ博士から任されている設定だから、間違った対応ではないと思うが、アレクに気づいたヒミコの縋るような視線も無視するのはどうなのだろうか。


 ヘンリーもアレクに気づいたようで、面白くなさそうな視線を一瞬だけアレクに向けたが、何故か治療局長を見て発言した。


「ああそうだ、ティアラは無事に確保したが、我が家の庭の置物に良さげなものを見つけてね。さっさと取引してしまいたかったのだが、出品者と連絡が取れずに困っているんだ。こういうときは主催者が代理で取引できる規定がなかったか?代わりに済ませてくれないかな」


「え?ああはい、可能ですが、次の品が控えておりますので、このイベントが終わってから取り扱わせていただきます」


「おやおや、今回の一番の品はこのティアラではないのかな。それに。ん?おや、ようやく出品者から取引要望通知が来たようだ。優先取引が成立したようだな。確認してすぐに処理してくれればそれで」


「ですから……え?そんな、一体どういう?」


「どうしたんだ、観客もこんな不手際を見せられてはつまらないだろう、早くしたまえよ」


「いえ、違います、優先取引が二件成立してしまいまして、これは一体、しかも、もうお一方は……!」


 こっちに視線が向いたが、もしかして保険が機能したのか?


 アレクが腕輪を見て、複雑極まりない顔でオレを見下ろして来たが、なるべくしてなった展開だ。

 オレもさして分かっているわけではない。こういう状況になってしまって、アレクも主催者側も災難だとは思うが。


 色々と諦めた顔で、アレクが口を開いた。


「それはおそらく私のことですね。こちらにも取引要望通知が来ました。優先取引が成立するはずですが、出品者はどちらと取引するつもりだったのでしょうか」


 さすがに会場がざわめいたし、察する人たちは新たなる競争が始まる予感に盛り上がっているが、期待しない方がいいと思う。アレクに散々駄目だしされた品を競うことになるからな。


 会場の熱気と要望に押されて、主催者側がうろたえつつも、姿を見せない出品者の代わりに代理として取引することを宣言して、競われる出品物をその場に展示したとき、さすがに会場も絶句した。


 そうだな、分かる。


 何故に、これなのかと。

 ほとんどの人が、会場内でこれを一度は見たことがあるだろうが、まさかこれが最後に競われる品になるとは思いもしなかったに違いない。


 強烈な違和感を放つ大猿を前にして、盛り下がる戦いは始まってしまった。


 競うものが大猿にも関わらず、アレクは躊躇いもなく、この会場最高評価の品を出した。こうなったらもう確保するしかないと覚悟を決めたようだ。

 オレが欲しがったことにしてほしいと囁いてから勝負に出たが、さっきまであんなに却下していたのに、真逆のことを言わねばならない心中は察して余りある。


 なお、ヘンリーの心中も混乱と混沌と理解不能で荒れ狂っていると思われるが、男として勝負を降りられないのか、自滅にまっしぐらに駈け込んで行った。

 大猿にはそれなりの品で十分と思ったのかもしれないが、こちらの出品と比べて明らかに落ちるので競り勝つには追加するしかなく、入手したばかりのティアラを娘の頭から取り上げてまで差し出して来た。


 親としての信頼も威厳も色々台無しである。


 さらには自分が身に着けていた宝飾品だけでなく、娘の宝飾品まで追加で出して来たあたりでは、やめてやれよと会場中の心が一致しただろう。

 もう男としての誇りとかそういうのも皆無になった気がする。そこまでして大猿を入手しなければならない裏事情があるのが分かりやすくなったとも言えるが、見ている側としては痛々しいと思うくらいだ。


 そしてヘンリーがこれ以上差し出せるものがなくなったところで、静観していただけのアレクが動いた。


「私も何か追加しないといけない気分になりましたので、一点追加します。一応遺物に該当しますが、評価はそれほど高くないかもしれませんね。

 実は、姉が夫の博士に習って旧世界時計の修理を嗜んでいまして、初めて修理したものを私にくれました。ある意味記念の品かもしれませんが、他にもいくつも修理していますし、本日エスコート役を仰せつかったこちらの小さなレディをがっかりさせるくらいなら、さっさと出すようにと怒られてしまいますから」


 ……追い討ちか。


 アレクが差し出したものは、汎用品といえ、修理されて動くようになった旧世界の時計。

 しかも修理したのは、明言しなかったもののマリア・ディーバ。付加価値がものすごいことになると思う。


 会場全員の拍手をもって完膚なきまでの圧勝を決めたアレクは、そちらには軽く応じながらも、わざわざ屈んでオレに微笑みかけて来た。

 任務だと言いたいのは分かるが、そんな怖いくらいの圧力かけなくともいいと思うのだが!?


 仕方ないので、監視猫みたいにアレクの肩にそっとすり寄って抱き着いてありがとうと言ってやった。


 感動の光景と言うには、背景に見える大猿がごつすぎるが、オレたちが動物系のものばかり取引していたのはほとんどの人が知っていたし、白熱しない戦いを観戦しつつ、観客の間で情報共有があったようだ。


 オレが大猿を欲しがったが出品者不在で今まで取引できずにいたのだろうとか、小さなレディは動物が好きだし、英雄は対価が釣り合うかどうかよりレディの望みを優先した男の中の男という評価で落ち着いたようだな。


 いい感じに終わったということで、アレク捜査官には納得してもらいたい。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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