表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
35/373

9 大猿


 休憩所を出たときには、花姫のイベントは終了していた。

 アレクが言っていた通り、あちこちで取引が始まっているようだし、取引のために休憩所に入る人たちも増えた。


 オレはアレクに手を引かれて会場を歩くのに慣れてきたし、アレクが大人気な状況にも慣れたのだが、何故かオレまで声をかけられるようになった。

 ただ、警備局職員にして英雄が、視線だけで追い払ったり、鮮やかに牽制してくれたので、オレはやはり何もしないままだった。


 アレクが迷いなく歩きながら言うことには、そろそろティアラと天使人形の取引交渉が始まるらしい。主催者の出品なので、優先取引は無く、取引要望を出した人たちが競いあって手に入れることになる。

 遺物展示交換会で一番盛り上がるイベントであり、それ以外の品が欲しい人たちはイベント前に取引交渉を終わらせてしまうし、ティアラと天使人形が欲しい人は、ライバルの情報収集に忙しいそうだ。


 つまり、オレに声をかけて来た人たちは、最後に一つ残ってるオレたちの出品物の取引はどうなるのか、ティアラ狙いなのかというあたりを情報収拾したかったのだろう。

 大猿狙いだと言っていいと思うのだが、アレクとしては、どうしても大猿は駄目らしい。ときどきこれはどうかと聞かれるが、特に欲しいものが無いオレは、やはり大猿が気になってしまう。何故駄目なんだ、大猿。


 おそらくティアラのあるイベント会場に向かっていたのだろうが、角を曲がったところで大猿の展示場所が見えたので、手を引いたら諦めたようにそちらに足を向けてくれた。

 だが、立ち止まって眺めるのは駄目らしく、通り過ぎただけだ。大猿は取引終了という表示になっていないので、取引できる可能性は十分ある。残念ながら、出品者はいなかったが、支援班の報告では会場を出たのだったか。さすがにもう戻って来てもいいと思うんだが。


 休憩所に入ると合図されたので、そっちも確認しておくか。



「イベント会場に向かっているのかと思ったが、ティアラと天使人形の取引交渉中は最後の見回りか?」


「イベント会場に向かっているところだったのですが、あなたがどうしても大猿のところに行きたがるので、注意をひかないよう、こちらの休憩所に向かっていたように見せる経路に変更しました。打ち合わせする最後の機会でしたし。あの大猿以外に気になるものはなかったのですね?」


「アレクこそ、何か無かったのか?別にアレクが選んでもいいだろ」


「あいにくと欲しいものは出品されていませんから。そう言えば、猛獣の人形はもう博士の屋敷に届いたようで、姉がすごく可愛いと通信してきました。あなたもあの猛獣が可愛いと言っていましたが……」


「可愛いだろ」


「ユレスは姉と感性が似ているのでしょうか。姉もあの猛獣型人形が一番気に入ったようです」


「作り込みも違うしな。旧世界だと、ああいうものを子どもの玩具にしていたらしいし、あれは全部アリアにあげてくれ。オレは小鳥の置物を一つ貰えれば十分だ。猫は猛獣より小鳥の方を好むからな」


 服を引っ張って覗き込んだりはしないが、胸元を見たら納得したように頷かれた。


「ワトスンの玩具ですか?確かに、それなら小鳥の方が似合うとは思います。大猿はやめていただきたいですが。……あなたがどうしても諦めてくれないので、正直に白状することにしますが、パリラの家に残された資料やメモ書きからして、あれは良からぬ目的と言いますか、セクサロイド的用途のために作られたものだと推測しました。ベルタ局長も同意見です」


 少し考えてみた。あの大猿をセクサロイド的用途に使う……?


 さすがに冒険過ぎないだろうか。それ以前に性的欲求の対象にできるかどうか非常に疑問だ。未分化型だからそう感じるのかもしれないと思って一応聞いてみた。


「アレク捜査官、参考に聞きたいんだが、あれを相手にた」


「そこまで。何を聞きたいのか分かったことにして答えれば、無理です。少なくとも私には絶対無理ですし、たいていの男にも無理だと思います。それから逆です。人形師パリラの事件で、パリラの最愛の彼である人形の話をしましたよね。人形の男が大猿だと思ってください」


「……旧世界では動物相手にという特殊性癖もあったらしいが、特殊性癖の世界も旧世界なみに乱れてきているのだろうか」


「真面目に考えないでください。ベルタ局長の御意見は、そんなの喜ぶ女がいたとしても特殊性癖の極みだし、何がいいのかさっぱり分からない。だそうです。ぞっとするから、見つけ次第破壊すると宣言していましたので、あの大猿を入手しても局長の蹴りが入るだけですよ。

 幸いにも試作品だけあって、色々、余計なものはついていないようですが、あの中に動作機構を組み込むようですし、大猿の出品者の発明家がその設計と製作担当ではないかと推測しています。

 支援班の報告では、発明家が一度会場入りしてすぐに出て来た後の足取りはまだつかめていません。会場外で旧世界管理局と警備局が合同で大規模に動いているので、調査に回す人員が足りないそうです。

 発明家の行動は不審でもありますし、このまま行方不明となれば捜索対象となりますので、事情聴取なり自宅に捜索に行くなり、いくらでも対処できます。あの大猿もその流れで確保できますので、無理して取引する必要はありません。

 何にせよ出品者の意思表示が無いと取引もできませんから、大猿は諦めて、後は警備局に任せてください」


 断固たる口調と態度で説明されたので、どうあっても大猿は駄目だということは理解したとも。


「そこまで言われたら仕方ない。そう言えば、今頃確認することではないが、特に欲しいものが無い場合って、最後に残った出品物はどうすればいいんだ?」


「取引要望が一つもない場合や、あったとしても、対価が釣り合わない場合は、無理に取引せずに出品をとりやめることもできますし、会場を出るときに受付で返却して貰えます。ただ……私たちが出品した最後の一つに関してはどうあっても取引するしかないようです。

 私たちが他の二点を優先取引してしまった後、何もせずに会場散策していたのが噂や憶測を生んでなおさら話題になってしまったようで、現在、この会場内で最高評価の品として最も注目されています。とうとう主催側者が動いて、イベントの最後に競う品にさせてほしいと協力要請がありました」


「え、あったのか?」


「はい。ほぼ強制ですし、実は先ほどから、早くイベント会場に来るように何度も連絡が来ています。会場では、天使人形の取引は終了して、今はティアラを競っていますので、休憩所の外にお迎えまで来ているようですね」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ