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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
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4 女装


 オレの逃亡を警戒しているのか、アレク捜査官に問答無用で転送装置に連れ込まれたが、警備局の警備は無反応で見送った。

 奴らは警備の仕事をしていないのではないだろうか。オレも大して旧世界管理局的仕事をしているわけではないので追及するつもりは無いが、何故かそれ以外で働かされているのが納得がいかない。


 そして、ジェフ博士の屋敷に用意されていた服を着せられた後での、ワトスンの態度が最も納得がいかない。これは監視猫の方だが。


「……ワトスン、お前それでいいのか」


 女装するにあたって重要なのは胸元のふくらみだろうし、そこに詰め物されるのは想定していたが、まさかそこに猫を詰めてしまって色々誤魔化そうとする発想はオレには無かった。

 監視猫が素直に詰め物にされるとも思っていなかったのだが、今現在、上手いこと丸まって詰め物になっている。


「あの、気になるのは分かりますが、明日も、いえ、今も、そうやって、服を引っ張って覗き込むのはやめてください」


 アレク捜査官が視線を逸らしながら言ったが、見えたとしても猫だぞ?残念極まりないと思うが。

 オレたちのどうでもいいやりとりを余所に、アレク捜査官の姉のアリアは楽し気にオレに鬘を被せて髪型も整えて、見事に女装を完成させた。


 黙って見守っていた博士が、無駄にかっこいいポーズを決めて言った。


「可愛いぜ、子猫ちゃん。自信もって行ってきな」


「この姿でじじいにまとわりついて、時事情報放送に新婚早々浮気か!?と流させてやろうか」


「冗談にならん真似はやめろ。こっちの若い男狙えよ。それから、儂が遺物を持たせてやるから、欲しいものがあったら遠慮なく交換して来な。孫的なものに甘い爺として予防線張っておくぜ」


「こういうときは、嫁のために似合いそうな宝飾品見繕って来いと言うところだ。嫁の弟の鑑定眼に期待しろ」


「わたし、宝飾品とかいりませんし、それよりもワトソンのような可愛い動物のお人形があったら、そっちの方がいいです。動物も可ってなっていましたよね?」


「あればいいんだが、アリアは天使人形の方が似合いそうだな。ローゼスに、マリア・ディーバが旧世界の天使っぽい服装で歌っている音楽映像を見せられたが、世界管理機構が出品する天使人形に似ていた。旧世界の信仰に関わる音楽をアレンジした曲だと聞いたが」


「あ、あれは、その、あのときは気に入っていたんですけど、今は、もう絶対しません!」

 

 え、何かあったのだろうか。もしや旧世界で言うところの黒歴史というやつか?

 ローゼスですら、昔の服装を見ると黒歴史を思い出して身もだえするとか言うときがあるし。まずいことを言ったかと思って博士を見たら、弟の方が答えた。


「姉がジェフ博士を口説くために頑張ったうちの一つで、博士の気を惹こうと旧世界の天使のモチーフを使ったようですが、残念なことに博士は天使がお嫌いだとか」


「おい、じじい」


「別にアリアが嫌いと言ったわけじゃねぇが、仕方ないだろ、儂の趣味じゃない」


 その言い方だと誤解しかされないと思うが、情報制限かかってるので言えないことは分かっている。

 博士が何故天使を嫌うのかを知っているオレとしては、不用意に天使人形の話を持ち出したのを少し反省した。


「300年も生きてる偏屈爺だから、趣味にうるさくて悪いな。旧世界の遺物調査をしていると、ときどき危険な目にあうし嫌な体験もしてしまうが、博士は天使を見るとそれを思い出してしまうだけだ。それから、アリアは翼とかいらんものついてない方がいいと思う」


「おいおい、子猫ちゃん、儂の妻に口説き文句みたいなことを言うんじゃない。お前の祖父さんもときどきやらかしてくれるがな。だが、子猫ちゃんが言う通り、アリアはそのままでいいぞ。人は人の形でいいし、不自然に翼をくっつける必要なぞない。翼は鳥のものだからな。儂は人も鳥もそのままなら好きだが、不自然にくっつけて合成したら台無しだと思うだけだ。

 ああそうだ、小鳥の人形みたいのがあったら、調達してきな。からくり時計の鳥がけっこうくたびれてるから、取り換えようと思っていてな。ほら、お前の部屋にある奴だ。ちと調子が悪いし、調整ついでに寸法もはかってから行きな」


 じじいが割と強引に誤魔化して流して来たが、オレがいらんこと言った自覚はあるので、じじいとアリアのお使い任務は真面目にこなすことに決めた。


 女装服は細部を調整すると言われたので、着替えてから渡して、オレ用となっている部屋に向かった。

 明日は任務の都合上、ここから出発するしかないし、二度手間になるので、ここに泊まる方が賢い。新婚の家に泊まりたくないが、強制任務ならばしかたない。


 からくり時計を開けて確認したら、部品が歪んでいたので、取り換えて調整した。ついでに掃除して、小鳥の寸法を測り終えてから動かして、からくり時計の小鳥が囀ったところに、アレクが食事の用意ができたと呼びに来た。


「可愛いですね、その小鳥も。綺麗だと思いますが、それを取り換えるのですか?」


「違う、時刻ごとに違う小鳥が出て来るようになっているが、そのうち一つがかなり傷ついているだけだ。ここを開けると待機中の小鳥が見えるぞ」


 アレクを手招きして、からくり時計の中を見せようとしたら、アレクは何故か部屋に入るのを躊躇っていたが、扉を開けたまま固定してから入ってきたところで、ようやく理解した。


「アリアがジェフ博士は弟なみの紳士と言っていた理由がよく分かった。もしや、あの博士と同類か?見た目に反して奥手すぎるぞ」


「ジェフ博士に思うところがあるわけではないと前置きして言いますが、私はそれなりに経験は積んでいるつもりですよ。ただ、職務柄、誤解される行動は慎みたいのと、気乗りのしない関係になし崩しにされないように、礼儀上の配慮は欠かさないことにしているだけです」


「なるほど、ジェフ博士と違って、アレク捜査官は逆に部屋に連れ込まれかねないか」


「今は職務中ではありませんし、明日も潜入任務なので、アレクと呼んでください。それから、明日はあなたは女の役であることも忘れないように。今のように気軽に男を部屋に招き入れてはいけません」


「オレは女では無いからな。特に今は」


「そうですね、でも男でもありません。あなたには実感できないのだと思いますが、男にとっては男以外はそういう対象です。踏み込んで言えば、男であってもそういう対象にできる人もいますから」


 なるほど、そっちでも苦労して来たのかもしれない。さすがにそこは流して話題をからくり時計の鳥に戻した。


「この右端の小鳥が取り換える対象だ。直してもいいのだが、そもそも壊れたものを似たような別物に取り換えただけだったのだろう。内部部品の関係上、この位置の小鳥は破損しやすくなっている。構造上の欠陥だな」


「確かにこの小鳥だけ雰囲気が違いますね。分かりました、明日は色々見て回りましょう。今は食事に行きましょうか」


「そうだな」


 明日の練習ということでエスコートされたが、慣れているのは理解したから丸投げすることにした。どうせ明日のオレの設定では、上手くできない方が自然に違いない。



 食事の席に行ったら、ジェフ博士がアリアと一緒にドレスのカタログでも見ていた。と思ったら、展開されていたのは公開遺物情報のデータベースだった。


「何してやがる、じじい!」


「おっと、落ち着け子猫ちゃん。これはアリアたちのドレスの参考にするためのもんだぞ?ついでに女装用の服の参考にもなるだろうし」


「絶対いらんこと喋っていただろ!?」


「え、あの、いけませんでしたか?これは、誰でも閲覧可能な安全な遺物情報だとジェフが言っていましたけれど。旧世界の少女用ドレスもとっても素敵ですよね」

 

 しまった、いらんこと喋ったのはオレの方か。

 博士は知らないふりをしたが、オレの不審な行動は新人捜査官の目に留まったらしい。食事しつつ尋問されて、オレではなく博士が白状してしまった。


「まあ!これはユレスが着ていたのですね」


「おう。おい、子猫ちゃん、自分で説明した方がましだと思うぜ」


「もしかして、これがあなたが妙に女装を嫌がる原因だったりしますか?」


「そうだと言ったら、オレに女装させるのをやめるか?」


「いえ、任務ですから」


 あくまでも任務優先するあたり、捜査官の鑑と言ってやってもいいかもしれない。じじいが優秀な捜査官に尋問されて、さらにいらんことを白状するよりはましだと思って説明することにした。


「旧世界の遺物として衣服関係も発見されるし、旧世界の普通の服のほとんどは危険度が低いが、旧世界人の人権を尊重して、服飾の参考にするための映像情報しか提供されないことになっている。

 衛生面の問題もあるが、自分の顔の人形を作られるほどではないが、自分が着ていたものを、見知らぬ他人が勝手に触って着たら気分が悪いだろうという発想だ。同意があるなら構わないと思うが、すでに滅びて消え去った旧世界人から同意を得ることはできないからな。

 それで、衣服の映像情報はぎりぎり人形の範疇にない形状の人工物に着せて撮るわけだが、ときにそれでは対応できないものもある。

 さっきのデータベースの少女用ドレスは、腰回りを締め付けつつボタンを留めるという凝ったもので、結論を言えば、伸縮性のない人工物には着せられなかった。それで、職員が着用して映像情報を取ることになったが、サイズの問題で着用できる職員がオレしかいないからと、ローゼスをはじめとする馬鹿どもが、抵抗するオレに無理やり着せたんだ」


「おいおい、犯罪っぽい言い方するんじゃない。職務の範疇だ、捜査官的任務だっての」


「博士はわざわざ見に来たのに、助けを求めるオレを見なかったことにしたよな?窒息死狙ってるのかと思うくらいに苦しかったんだぞ。オレは二度と女装などするまいと心に誓った」


「それは大変だったと思いますが、とてもお似合いだったのでは?」


「おう、儂も含めて皆で褒め称えてやったってのに、逆に拗ねてな。データベース登録用に顔とかの個人情報削除した映像情報を作った後に、原本は消去されたぞ。鬘も被せて髪型も凝って、いい出来だったんだがな」


「オレを玩具にしたと言え。まさしく人権倫理問題だし、オレは旧世界管理局すべてを敵に回しても、戦い抜く覚悟を決めていた」


 オレの覚悟を感じ取ったのか、さすがにアレクの笑顔も固まった。


「そこまで思いつめないでください。あなたの人権には配慮しますから」


「そうです。それに、用意した服は締め付けないものだから大丈夫です!わたし、腰回りが余ってるから手直ししましたけど、それでも絶対苦しくないですから!」


 アレク捜査官とじじいはともかく、任務に無関係なのにそこまで配慮してくれたアリアにはお気遣いしてその場は流すことにしたが、オレは服装の自由と人権については強く主張するつもりでいる。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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