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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
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3 遺物展示交換会


 オレはローゼスのように真剣に時事情報放送を見ることはないが、職務に関係がありそうなものは、目に留まったら一応見ている。


 画面に遺物と大きく表示されたので注意を向けたが、アレク捜査官の反応からして、これが見せたかったものらしい。

 遺物展示交換会開催のお知らせだが、大祭ではときどきこういう企画をするので珍しくもない。それから遺物と宣伝しつつ、テーマは宝飾品と人形(動物型も可)で、遺物でないものでも持ち込み可能となっている。


 主催者である世界管理機構が出品するものが、旧世界でティアラと呼ばれていた豪華な髪飾りと、旧世界で天使と呼ばれていた背に翼を持つ人の姿をした幻想の存在の人形だ。

 天使の人形は手で持てる大きさだし、動作機構が組み込まれていない芸術品に該当するものだな。


 両者ともに希少性と芸術性は高いが危険度が低い安全な遺物なので、個人所有可能だし、好きに交換しても問題はない。

 一応は遺物であるので、世界管理局に所有者情報登録をする必要があるだろうが、主催が世界管理機構である以上、その場で登録させるだろうし、後回しにしても軽い注意を受けるくらいで済む。


 会場への入場条件が男女のペアとなっているので、お見合い推進政策の一環かもしれない。

 綺麗な人形や宝飾品を欲しがる女は多いし、上手く取引成立させて相手の気を惹くか、もしくはイベントを楽しむことで距離を縮めることが目的なのだろう。

 

 この会場に自然に入りたいのであれば、入場条件のとおり男女ペアで入ればいいし、そのために共に潜入捜査をこなすパートナーの女役が必要なのは分かったが、遺物展示交換会のお知らせが終わっても、何のために潜入捜査が必要なのかは分からなかった。


「こういうイベントには旧世界管理局の職員が立ち会って、持ち込まれた遺物の鑑定もしている。規定違反のものであればその場で差し押さえるし、遺物でないのに遺物と表記した場合も厳重注意だ。

 宝飾品と芸術品扱いの人形の場合、危険度が低いのはいいが、受付でひたすら鑑定し続けたり、あちこち呼ばれて遺物の解説をさせられるので、管理官の間で押し付け合いになる仕事だな。遺物管理課の管理官でくじ引きして行く人を決めようとしていたが、誰が行くことになったかは知らない」


「遺物管理課長が行く予定と聞いていますし、そちらにも協力要請しています。ですが、通常の参加者として会場内を自由に動き回って捜査する必要がありますので、ごく自然に男女ペアで参加するために私のパートナーが必要です。

 何故、潜入捜査が必要なのかについて説明しますが、まずは人形師のパリラとヘンリーの話をします。パリラはヘンリーから人形製作の依頼を受けていました。正式な取引契約を交わしていて、ぎりぎり規制に引っかかるものでは無いのですが、大型の猿の人形、それも滑らかに動くことができるようなものを50体注文されています」


 それはまた……特殊なものを。しかも50体?


「AI-ASを搭載しないと、監視猫のような複雑な行動は無理だが、単純な動きの組み合わせなら、ぎりぎり規制に引っかからずに組み込めると思う。だが、動かせる猿型人形を50体って、不審というか、目的が気になってくるな」


「契約書に書かれていた目的は、旧世界にあった動物園、猿山を模したものを、ヘンリーの宮殿の庭に作るためでした」


「……確かに旧世界にはそういうのがあったが、旧世界の猿は人の半分以下の大きさだし、宮殿の庭に相応しいかどうかは疑問だ。個人の趣味の範疇だし、猿型人形は大きい方が目立つし見栄えがするからそうしたと言われたら追及できない話だが、警備局の要注意リスト上位の男という先入観のせいか、不穏な思惑がありそうだという疑惑の目で見てしまうな。もしかして、その猿型人形が遺物展示交換会に出品されると?」


 大きい猿の人形だとすれば、遺物展示交換会の出品条件に当てはまる。テーマに合っていれば遺物でなくても問題ないし、人形(動物可)の範疇に該当するだろう。

 猿は人型に近いが、規制されているのはあくまでも人の大きさで人型の人形を作ることなので、大きい猿型人形は規制の対象外だ。


「出品されるかどうかは不明ですが、パリラの家を調査した結果、パリラが試作品を一体納品済みなのは確定しています。試作品の出来栄えを確認したヘンリーの了承が得られれば、大量生産する予定だったようですね。

 問題は、パリラが得る対価なのですが、ヘンリーは取引契約では用心深く人形用資材としか提示していませんでしたが、パリラの個人的な手記というか妄想日記と呼びたいくらいですが、そちらの内容から取引が禁じられた物品であると推測されました。

 妄想日記には、とうとう彼を生き返らせてあげられる。から始まって、ヘンリーが警備局長がいる間は困難だが警備局長がいなくなればセクサロイドの部品を融通してあげられると言ったことから、今度の遺物展示交換会でその交渉をすることや、それまでに邪魔な警備局長に消えて貰わないとならないことまで、妄想と犯罪計画と狂気に満ちた情報が詰まっていましたよ。

 狂気に満ちていたのでそのまま証拠物件として使えないことが残念ですが、妄想日記の内容を手がかりに犯罪現場を押えればいいだけです。ヘンリーが遺物展示交換会で、旧世界の人型人工物の取引交渉をする、というのは確実なようですから」


 遺物展示交換会の会場では当然のごとく取引交渉をするわけだし、それに紛れ込ませて禁じられた取引交渉もしやすい。

 旧世界の遺物である人型人工物の規制は厳しいので、遺物展示交換会に出品することは不可能だし受付で引っかかると思うが、絶対はないし、ヘンリーなら、何か抜け道でも用意している可能性がある。


 ヘンリーが取引交渉している現場を押さえたほうが確実だし、そのためには、会場に潜入して自然に近づく方が賢明だ。

 旧世界遺物、それもセクサロイド型人工物が関わるのであれば、旧世界管理局も無視できないし、警備局から要請があるなら職員を派遣して当然なくらいだが、それだけでオレは納得しないぞ。


「旧世界のセクサロイド型の人型人工物が関わってくるとしたら、旧世界管理局も協力した方がいいし、局長が捜査官派遣を決定してもおかしくはないが、人選がおかしい。

 オレの他に捜査官は二人いるし、クレア捜査官は人型人工物、特にセクサロイド型の専門家と言ってもいいくらいだ。しかもれっきとした女。彼女を差し置いてオレが指名されるわけにはいかない。遺跡調査の長期任務を終えて帰還したばかりだから、休養が必要と判断されたのかもしれないが、ここはオレからも説得を」


「それは旧世界管理局長から却下されています。こちらの都合もあって、最初からユレス捜査官を指名したことは否定しませんが、旧世界管理局長がユレス捜査官の派遣に難色を示していたところ、セクサロイド型と聞いて即座に了承していただけたそうです。

 旧世界管理局長はクレア捜査官を派遣する方向で検討していたようですが、対象がセクサロイド型人工物となると、クレア捜査官の方が問題を起こしかねないから却下とのことですが、どういう意味ですか?」


 どういう意味か説明したくないが、局長の理性的すぎる判断は間違っていないとしか言えない。

 アレク捜査官がじっと待っているので、説明せざるを得なかった。


「……クレア捜査官はセクサロイド型が大好物なんだ。好みだったら、現場で理性的な行動をしてくれる可能性が激減し、下手したら現場を武力制圧して確保しかねない。潜入捜査に向かない人材だということを、忘れていたかった」


「今回は潜入捜査したいのであって、現場を制圧するのは少し、いえ、かなり問題になります。現場は一種のお見合い会場ですし」


「そこに未分化型のオレを行かせるのも冒険過ぎるが、残りの一人は男だし、結婚しているし、小さい子どももいるから、女装させてお見合い会場に送り込みたくないのは同意する。分かった、オレが行くしかないのは理解した」


 オレが一応の理解を見せたからか、ほっとしたような笑顔を向けられた。

 アレク捜査官なら笑顔1つでいくらでもパートナーが見つかるだろうに、よりにもよってオレを連れて潜入捜査という何の楽しみもない任務にも関わらず、職務熱心だな。


「ご理解いただけて良かったです。ヘンリーは慎重だからこそ、警備局の追及や捕縛から逃れ続けて来た男です。警備局の職員を警戒して動かない可能性もありますので、できる限り自然に潜入したいので」


「それを言うなら、アレク捜査官が行くのは駄目だろ。目立つし警戒されて当たり前だ、英雄様」


「それ、やめていただけますか、黒猫さん。警備局長の読みによれば、一周回って一番警戒されないのが私だろうとのことです。その理由が、英雄色を好むとかいう旧世界的常識をヘンリーは信じているからだと」


「ああ、なるほど。旧世界の言葉の中でもヘンリーみたいなタイプには好まれる言葉の上位に来るな。なるほど、英雄様になったからこそ、お見合い会場的なところに来ても、むしろ納得されるわけか」


 不本意そうな顔で頷かれたが、この顔と実力で恋人もいない方がおかしくないか?


「今さらだが、恋人とか結婚相手はいないのか?姉のことが心配でそれどころでなかった印象もあるが、アレク捜査官はもてるだろ。そういう相手を潜入捜査に連れ出せないのは分かるが、恋人を差し置いて別の誰かを連れて行くのもまずいと思うが」


「お気遣いに感謝しますが、結婚相手も恋人もいません。だからこそ、あなたを連れて、自然に参加できます。

 私の姉がマリア・ディーバだということは割と知られていますし、姉に近づく迷惑な男たちを私が追い払って来ましたので、ヘンリーは確実に知っています。時事情報放送でジェフ博士と姉が結婚したことが公表されましたが、博士が私もそろそろ相手を探したらどうかと配慮して、遺物を持たせて会場に送り出してくれたという設定で会場に行きます。

 あなたはジェフ博士の遠縁の子で、入場条件が男女ペアだし一緒に行ってきたらどうかと、私が付き添いを頼まれた設定です」


 オレの成人には見えない見た目を最大限利用して、捜査目的というのをかなり誤魔化せそうな設定だ。

 ヘンリーがアレク捜査官を警戒しても、さすがに子ども連れで捜査しに来たとは考えづらいだろう。


「なるほど。新婚のじじいが遠縁とはいえ余所の子のエスコートをするわけにもいかないから、妻の弟に保護者役を頼んだという設定か。確かにそれだと、警備局の仕事とは考えづらい」


「はい。あなたであれば、あまり人付き合いされないジェフ博士の話題を持ち出されても難なく答えられますし、怪しまれることはないと思います」


「残念ながらそうだな。その配役で行くならオレしかいない。ただ、分かっているだろうが、オレは女装用の服など持っていないし、監視猫がくっついてくるから、誤魔化さないと旧世界管理局職員だとばれるぞ。猫でなく、装飾品型の監視装置に切り替えてきてもいいが、予定は明日だったな?」


「それについては、先にこちらで検討の上配慮させていただきましたので、これから一緒にジェフ博士の家に来ていただけますか?」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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