2 潜入捜査
オレが画面に表示されているバトルドレスを見ていたからか、アレク捜査官が解説して来た。
「このドレス、警備局でも評判がいいですよ。動きやすくて警護任務にも使えそうだと」
「……そう言えば、当然のことながら、警備局に所属する女の職員は局長以外にもいるよな?何故、オレに女装させねばならないのか意味不明過ぎる」
「今回の任務が急遽発生したのは祝花祭に入った後だったので、任務をこなせそうな方たちは皆、祝花祭中のパートナーを確保済みだったからです。念のため確認ですが、大祭中のエスコート役を途中で変えるのは大変不作法で社会的信用も落ちることくらいは……ああ、知らなかったんですか。いえ興味も無かったのですか?」
社会的信用を落とさないためには、女装もありなのか?
個人的信用の方が落ちそうな気がするが、複雑すぎて深淵なので追及しないことにした。都合の悪い話題は流して無かったことにした方がいい。
だが、じっと見られているので、一応言い訳のようなことを言っておいた。
「オレは未分化型だから、パートナーがどうこうという話をすること自体が不作法にあたるとされるからな」
「それは……確かに失礼しました。でも、興味も無かったんですね。あなたは大祭中も出歩かないと、ジェフ博士が言っていましたが」
「めんどくさいから、家にいたほうがましだ。大祭中は丸ごと休暇扱いになる課や局がある一方で、警備局は逆に仕事が増えるだろ?捜査官資格があるというだけで、オレにも待機要請がかかるんだ。
人手が足りなかったら、警備局長の強権で強制任務に突っ込まれることになる。今回のようにな。たいていは何事もなく大祭が終わるが、一応待機要請かかっていたことになるので、オレは大祭が終わってからまとめて休暇を取ることになる」
「そうですか、私も大祭が終わってから長期休暇の予定です」
休暇が楽しみなのか笑顔を向けられたが、アレク捜査官はオレと違って激務続きなのは理解している。
オレがごねて無駄な時間を使わせるのも悪いので、さっさと本題に入ることにした。
「そろそろ説明を。局長からは、潜入捜査のためにパートナーになる女役が必要であることしか聞いていないが、捜査官を指名するくらいだから荒事も想定されるし、それなりに危険な案件だな?」
「はい。どうしてもユレス捜査官の手を借りたかった裏事情もお話します。あなたも無関係な話ではありません。まず、ポーラ女史の友人にして人形作家のパリラは、無事にと言うのは変ですが、ベルタ局長を襲撃して返り討ちにあって捕縛されました。明らかに精神に異常をきたしていたので、治療局の隔離房にいます。動機の解明も含めたパリラの住居の捜査任務は私が受けました」
「つじつま合わせもあるし、妥当だな。先に情報も入れておいたわけだし」
「はい。警備局内では、局長は襲撃される予感があって、私に過去の事件記録を調査するよう命じておいたことになっています。祝花祭中ですし、それで大事にせず片付くと思っていたのですが、パリラの家を捜索した結果、別の事件を見つけました」
「捜査官として優秀だという評価と、お気の毒にという同情をやろう。人の大きさの人形パーツを持っていた段階で、規制を無視した製作活動を続けていたことは想定できたが、事件とは穏やかではないな。
人の大きさの人形の製作も、それを取引することも罰則規定が適用されるから、かえって証拠残さないよう注意していると思うが……復讐に夢中で隠蔽工作に気が回らなかったとか?」
「そうかもしれませんし、狂気のせいかもしれません。復讐に関しても、取引相手にそそのかされた可能性も浮上しています。ヘンリー・サード・ロードという名を知っていますか?」
さすがのオレですら知っている名前だったし、肩の上の子猫もにゃあと鳴いた。
「別名ハーレム王。ベルタ局長が言うには、博士は少しは見習えと言いたくなるくらいの色事師で、結婚回数126回、子どもは200人以上いる猛者だ。最新情報でないだろうから結婚回数に自信は無いが、強引に迫ってはものにする手口は割と悪辣らしく、警備局長に蹴られた回数も群を抜いて多く、警備局の要注意リストの上位に来る男だと思う」
「局長に蹴られた回数で上位に来ているわけではないのですが、警備局が注視している男なのは間違いありません。
なお結婚回数は149回です。姉もしつこく結婚を迫られたことがありましたが、ジェフ博士が追い払ってくれたそうです。あっさり引いてくれて助かりましたが、局長が言うにはヘンリーはジェフ博士が苦手らしいですね。
ヘンリーは姉に対してそれほど本気で無かっただけかもしれませんが、現在は本気の相手を追いかけています。成人する前からご執心で、成人したら即座に結婚しようと迫っていたようですが、ヘンリーは、150回目の結婚相手として、治療局長の娘のヒミコ・ハナ・サクラを口説いています。ヘンリーは要職にある者の親族を結婚相手に狙うことが多いのも要注意とされる理由のひとつですが、注視しているのは警備局だけではありません。
ヘンリーが宮殿と呼ぶ広大な屋敷に、結婚を解消した今までの相手を住まわせて子どもも育てさせているあたりも倫理的に問題視されています。結婚を解消して片親だけで子育てをする場合、その分世界管理機構の支援内容も手厚くなりますし、物資も融通されますが、その制度を悪用とまでは言いませんが都合よく使っています。
加えて、子どもを介した今までの結婚相手との繋がりや、その過程で蓄積して来た所有物を使用した取引で強引に自分の目的を達成する手法から、政治的にも危険視されています。復古会のように独立王国でも作って、好き勝手をしようとしているようでもありますね。復古会はヘンリーに比べれば、高尚で真面目な団体に思えますが」
「どっちもどっちだ。結局のところ、自分の思い通りにできる小さな箱庭が欲しいし、その箱庭だけで自分の世界が完結できると思っているのだろうが、そう上手くいくものでないことは、崩壊した旧世界が証明している。ん?」
時事情報放送が次の映像に切り替わった。
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