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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第三章 天使と黒猫
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1 強制任務

第三章開始。更新速度を落とします。



 その獣は、天使を喰らって世界を終わらせてやったのだと告げた。



◇◇◇旧世界管理局遺物管理課捜査官日誌◇◇◇

63410428 0800 ユレス・フォル・エイレ捜査官、捜査官席に待機開始。

63410428 1200 特段の変事なし。ユレス・フォル・エイレ捜査官勤務終了。




 本日の日誌を登録したあと、速やかに走り抜けたので、誰に捕まることもなく旧世界管理局の受付館に出ることができた。


 監視猫を外套のポケットに放り込んでの強行であったので、何とか抜け出ようとしているのか、もぞもぞしている。

 それに構わずに転送装置に飛び込もうとしたら、警備局職員が立ちはだかった。


「同行願います」


 不審尋問されるほど怪しい行動はとっていないはずだ。

 祝花祭に浮かれて、勤務が終わったとたんに遊びに飛び出すローゼスのごとき行動を見習ったはずなのに、オレがやったら不審だとでも言うのだろうか。


 考えるまでもなく不審だと即座に答えが出たので、逃走は諦めることにした。

 オレが拉致されるように引き摺られて行くのは無視する癖に、無駄に仕事をしやがってと思いつつ連れて行かれたが、納得はしていない。


 だから、面会室で待っていたアレク捜査官が困惑した顔を向けるくらいに不機嫌でも仕方がないはずだ。

 オレを案内してきた警備局職員に礼を言って送り返した後で、アレク捜査官がオレにおそるおそる尋ねてきた。


「あの、何か無礼な真似でもされましたか?」


「今現在されているが?」


「……警備局長は、旧世界管理局長にご了承いただいたと言っていましたが」


「オレは了承しなかったし抵抗したにも関わらず、局長権限で強制任務を言い渡されたことは聞いていないようだな」


「申し訳ありません、聞いていません。それから、警備局長ではなく旧世界管理局長がそのようなことを?」


「そのようなことをだ。いいか、冤罪かけられるのはごめんだが、危険視されるくらいには、旧世界管理局には変人と変態が揃っている。局長はオレに女装させたいがために強制任務くらい命じる女だ。前局長であるボーディは、旧世界管理局の最後の良心とまで言われていたことを証言する。つまり、あれを基準に考えるな」


「分かりました。それでは、任務の背景情報から説明させていただきますが」


「自然に流して話を進めようとするな。ばばあの入れ知恵だな」


「……申し訳ありません、ですが、他に人材がいないので、どうかお付き合いください。警備局の人員でどうにかならないかと検討はしたのですが、黒猫さんに協力要請するほうが賢明だという結論に達しました。女装を試みた職員もいるのですが、違和感甚だしくて無理がありました」


 ……試みたのか。うっかり、先ほどの警備局職員で想像してしまったが、無理があった。いや、おそらく別のもう少し自信がある職員が試みたのだろうが、違和感はどうしようもないだろう。

 ローゼスはいつも女装的服装であるものの、見慣れたからと言って根本的な違和感が解消できるものでもないし。


 個人活動中の服装はその人の独自表現として尊重されているのだが、それぞれの性別に似合う服装はあるし、逸脱し過ぎると違和感はどうあっても消せるものでもないのは実体験で理解している。

 そのあたりを突き詰めると深淵な領域に踏み込みかねないので、流すことにしているが。


 オレも自分の服装の自由は守りたいからな。女物の服は絶対に着たくない。ローゼスをはじめとした旧世界管理局の連中に、散々に玩具にされた恨みはいまだに忘れていない。


「……女装に挑んだ警備局職員の勇敢さに敬意を表して、話は聞くだけは聞いてやる。オレが女装する以外の解決手段があったら、強制任務だし取引無用で即座に提示して説明する」


「感謝します。では、時事情報放送を表示して説明させていただきます。ちょうど関係情報が放送されるかもしれませんので。あと、ワトスンを出してあげたらどうですか?」


 外套のポケットで監視猫が蠢いているが、これは暴れているわけではなく、単に気に入っただけだ。

 旧世界の猫は狭い場所にはまりたがるものらしいが、その設定を忠実に守っているのかもしれない。だから、ポケットから出したら不満そうに唸って、オレの顔に頭をぐいぐい押し付けて来た。


「ワトスンをポケットに突っ込んで、急いで来ていただいたと思いたいところですが、もしや、逃亡するおつもりでしたか」


「逃亡しないとでも思うのか?警備担当職員にオレが来たら連行するように先に手を回して置いたとは、なかなかやるなとだけ言っておく」


「いえ、私がここで待っているのを伝えていただくようお願いしただけなのですが……」


 ちょうど時事情報放送の画面が切り替わったので、話が途切れた。


 派手というより攻撃的なドレスを堂々と着こなした、一応美女の範疇の女性が、見事な脚線美を晒して男を踏みつけている映像だ。

 こんなものを放送していいのか大変疑問であるが、何故か好評な感じのことを言われている。

 

 ドレスは想定していたよりもベルタ警備局長にお似合いなので、その点だけは良かったとは思う。



 とんでもない勘違いの果てに凶悪事件が起こりかけていたことに気づいてしまった翌日、ジェフ博士が自宅でのんびりしていたオレを拉致して博士の屋敷に連れ込んだ。


 事件は本職に任せておけばいいと主張したのだが、オレがばばあ二人に無茶振りした責任をとれと逆切れされた。

 仕方なく事情を聞いたら、徹夜でドレスデザインに付き合わされた挙句に、最終決定を投げられたらしい。


 世界管理機構が支給する生活物資のなかに当然衣服も入っているし、自分でデザイン登録して、サイズも設定すれば、その通りに仕立ててくれる。

 ただし、ドレスのように手がかかるものは一年に何着までと決められているし、大祭の頃にこぞって注文されるので、製造施設の手が足りなくてさらに制限がかかるようだ。


 具体的に言えば、祝花祭の前々日に注文するなら一人一着が限界であるが、体裁を整えるためにはせめて三着は必要らしく、残りの二着はポーラ女史がアリアを助手にして、自宅で頑張って作ることになった。


 三人分の二着だ。できるものなのかと聞きたいところだが、ポーラ女史の家にある衣服製造装置は最新型なので、ぎりぎりいけるとのことだった。そこまで無理しなくてもと言いたかったが、二人に取引条件を呑ませた立場としては言えなかった。


 アリアは手持ちのドレスで祝花祭に行くつもりだったが、せっかくだからベルタ局長とポーラ女史と合わせたドレスにしたくなったそうだ。

 愛する夫の身近な人たちと親交を深めたいのは分かるし、勘違いしたり暴走するばばあたちであるとはいえ、人生経験深いし割とまっとうなので、頼りになる人生の先人と付き合うのもいいだろう。


 アリアはなるべく隠れていようと引きこもっていた反動か、それとも気の置けない会話を求めていたのか、出会いから事件がらみで遠慮や礼儀に気遣ってる余裕が無かったせいか、ベルタ局長とポーラ女史とあっという間に仲良くなったらしい。


 不幸中の幸いだが、ドレスのデザイン相談も盛り上がり、勢い余り過ぎて、それぞれ10着以上のデザインを考えて設定までしてしまった。

 最大三着が限界なのに、どれを選べばいいのか悩んで、エスコート役のジェフ博士がその大任を任されたのは理解したが、オレまで巻き添えにしないでほしい。


 オレも一応ばばあたちには責任を感じていたので、相棒を呼び出して任せたら、機嫌が良かったのか、選んでくれたので助かった。

 たとえ選択にしくじって文句を言われようが、選んだのは猫だ。猫のすることだから仕方ないで逃げ切れる。


 祝花祭が始まって二日後には三人のドレス姿が時事情報放送でもお披露目されたが、想像以上に迫力の画面になっていた。

 エスコート役は添え物とはいえ、ジェフ博士の服装もなんとかしておくべきだったと少しは思ったが、ド迫力美女三人引き連れて歩くには、どれだけ派手に盛っても追いつかないと考え直して流した。


 博士は逃亡しなかっただけ勇敢だと褒め称えてもいいくらいだ。


 その翌日あたりに、警備局長がドレス姿で事件解決したとか、祭りだと浮かれて狂う馬鹿が出るから仕方ないねというコメント付きの情報も流れたので、ポーラ女史の友人にして狂気の人形師も無事に捕縛完了したのだろう。


 そういう武勇伝もあってか、攻撃的なデザインが話題を呼んだのか、ベルタ警備局長が纏っているドレスは、バトルドレスと呼ばれているようだな。

 本当に防護関係強化してるので、戦闘用にもいけると自信たっぷりに言っていた。だが、正当防衛ならともかく、自ら襲いにいくのはどうかと思う。


 時事情報放送は、大祭に浮かれて強引に女性に迫ろうとした男を成敗したと、いい感じに言ってくれてはいるが。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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