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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第二章 博士と黒猫
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12 自虐大会


 オレの発言と視線を受けて、頭を抱えていたジェフ博士がようやく口を開いた。


「容赦なく抉って来るあたり祖父さんに似てきたな、子猫ちゃん。儂も実はそう思っていたとこで、心苦しく思っている。すまんな、ポーラ。大げさに騒がれたり噂話のネタにされると思うと、300年過ぎてから若い嫁貰った身には辛くて」


「わ、わたくしこそ、ごめんなさい。わたくしがいらぬことを言ったばかりに、それに、勘違いしてしまったばかりに、いえ、その前に不作法だと分かっていたのに、口が軽かったし、ええ、噂話とか我慢できないこと自体が悪かったです……」


「え、なにこれ、あたしも自虐大会に参加しないとならないわけ?確かに200年前はあたしもかなり尖っていたし大暴れしたし、やらかした自覚は十分にあるけどさ。なにこれ、きつい。若気の至りは年取った後で来るぞとかあんたの祖父さんに言われたことあったけど、これがそれってこと?うわー、なんか、やだね、気分悪いじゃなくて、色々痛いね」


「……姉の身の安全を最優先に考えていたつもりですが、まさか隠れ潜んでいたから、逆にこういう危険な事態に至ったなんて」


 何故か若者まで自虐大会に参加し始めたので、さすがに止めた。


「アレクは参加しなくていい。これはいい年したじじいとばばあにのみ許されることだ。人生経験足りないやつは、良かれと思ってしたことでも、こういう事態もありえると認識して今後に生かせ。今後より、次の人生考える年代だけが、反省して無かったことにすることが許される。

 それから、ポーラ女史の友人にはしっかり対処する必要があるのを忘れるな。失うものが無い相手程怖いものは無いぞ。ベルタ局長を道連れにして旅立つ覚悟くらい決めていそうだし」


「そうだね。あたしを襲ってくれたら話は楽で簡単だけど、場合によっちゃこの屋敷に仕掛けるよね?事態を全部明らかにしたところで、思い込みの激しい女は信じなそうな気もするし。けちけちしないで、提案しな、黒猫。何か考えがあるんだろ?」


「それはオレが決めることではない。取りあえずジェフ博士とアレクは二階のアリアのとこに行って相談しろ。何をどこまで話すかは任せた。最たる被害者である彼女がどうしたいかも聞かずに、勝手に決めるものでもない。オレたちは雑談でもして待っているから」


 二人を追い出してから、めんどくさいばばあ二人に向き直った。


「さて、取引の時間だ。オレの要求を呑むならば、友人であり隣人の幸せな結婚に水を差した元凶となった罪悪感を軽減できるかもしれないぞ」


「はん、大きく出たじゃないか。しかも痛いところを抉って来たね。いいよ、あたしは呑むから、新婚家庭が崩壊しないよう何とかしておくれ」


「わたくしも償えることならなんでもします。本当に、本当にあんなに幸せそうなのに、ようやく結婚なさったのに、何ということをしてしまったのか。しかも妊娠しているのに、こんな恐ろしい状況に晒してしまうなんて」


「了解した。じゃあ、二人はちょうど祝花祭が始まるから、仕事が忙しいとか静かな生活がいいとか言わず、着飾って交流して回れ。言っておくが、罰のつもりじゃないからな。いいか、今回の件が起こった原因は二人があれこれ理由つけて相手探しもせず、浮いた話もないまま300年も過ごしてきたあたりにもある。

 個人の意志を尊重するつもりでいるが、そのせいで盛大な勘違いが発生している状況を省みろ。これでさらに罪悪感でこの屋敷を避けたり引きこもったりするようになったら、一番気に病むのは新婚夫婦だぞ。気遣いでなく嫌がらせになる。

 博士は祝花祭で嫁を披露するつもりだし、ベルタ局長は博士に先越されたけどあのじじいに負けてられないから、あたしもやってやるくらいの理由を言いやすくなるし、ポーラ女史もお隣の新婚さんにあてられてとか適当に言って、遊び回ってくればいい。

 別に無理やり相手探せと言うつもりは無いが、謝罪されるより、二人の結婚が周囲にいい影響を与えたことになる方が、喜ばれると思うぞ。どうしても償い的なこともしたいなら、噂話の的になりそうなあの夫婦の盾になるくらいの覚悟で付き添ってやったらどうだ?」


「とんだ無茶苦茶言いだしたね、あんたの祖父さんそっくりだよ。でも、言いたいことは分かるつもりさ。謝罪するより違うことで報いろって言いたいんだろ。っち、今からでもドレスとか間に合うかね」


「わ、わたくし、作ります!ベルタの分も。生地ならありますし、成人用の服も作れますから!ですから、ご、ご一緒に」


「助かるわ。むしろ頼むわ。いくらあたしでもね、さすがに羞恥心ってもんがあるのに、黒猫は猫だからそういう人の繊細な機微を丸ごと無視してくるからさ。でも、その前に、ポーラの友人とやらは何とかしないとね」


「それもまとめて片付ける。ポーラ女史には友人を裏切ってもらうことになるが、このまま放置しては誰のためにもならない。ベルタ局長を上手いこと祝花祭に誘い出したと言って、誘き出せばいい。ただし、誰かに迷惑かけないように人気の無いところで話し合いをしてほしいとか何とか。

 そこはベルタ局長と二人で作戦を考えてくれ。襲われてベルタ局長が返り討ちにして捕縛すれば完了だ。何ならドレスに防護系の素材使って防御力高めておけば?」


「賢いね、黒猫。分かった、そこはポーラと相談して上手いことやるよ。でも、ジェフたちっていうか、マリア・ディーバがどうしたいかによるかね」


「オレはそこは心配する必要はないと思っているけどな」



 割とすぐに戻ってきた博士たちは、アリアも連れて来た。

 ポーラ女史はすぐにアリアに謝ったし、アリアも大体の事情を聞いていて、隣人にも挨拶に行かず、公表もしなかった自分たちが事件の原因だと心苦しい顔をして謝っていた。


 互いに自分を責める自虐大会が再び始まりかけたので、オレが止めて今後の対応の方に話を流したが、脅迫事件は無かったことにすることになった。

 公表するにしても、誰も得しないどころか、自虐大会が始まるだけなので、賢明だと思う。


 ただ、狂気の人形師に対処しないわけにはいかないので、ジェフ博士の結婚に触発されたばばあ二人が奮起して着飾って祝花祭に出席したところで、ベルタ警備局長に恨みを抱いた狂人に襲われて返り討ちにしたということで決着をつけることになった。


 アリアは脅迫犯のことよりも、ベルタ局長とポーラ女史がドレスを仕立てることの方が気になったらしい。

 一緒に作りたそうだったので、アレクがさりげなく話を誘導して、三人でデザインを決めることにして、盛り上がっていた。


 オレにまでドレスの意見求められたが、オレにまともな回答ができると思うな。

 そういう苦行に付き合う義務があるのは、夫であり友人であり隣人であるジェフ博士と、弟であり部下であり実力もありそうなアレクだけで十分だ。


 オレは即座に撤退を選んだが、新人捜査官が追いかけて来た。


「ドレスの相談に乗ってやればいいものを」


「あなたを送って行きます。できれば泊まっていただいた方がいいと思いますが……」


「確実に徹夜で付き合わされるぞ。アレクは頑張って付き合ってやれ」


「いえ、局長にはこの件に関係する過去の事件の詳細記録を確認する許可をいただきましたので、あなたを送った後、警備局に行くつもりです。方針は決まったとしても、狂気に満ちた女性が何をするか油断はできませんので、背景情報と今までの経緯も拾えるところは拾うつもりです」


「仕事熱心だな。もしかして、また復古会のような黒幕でもいると考えたか?」


「あなたはどう思いますか、黒猫さん?」


「さあ?それを調べるとしたら本職の仕事だが、ありえないとも言わないし、経験から学んで想定したなら、捜査官の適性があると思う。ゆえに、仕事を優先しろ。それから、オレも捜査官資格があるし、それは最低限の護身術もおさめているということと同じだ。送っていくという発想自体がおかしい」


 だが、この未成年っぽい見た目のおかげでそう言いだす輩は多いので、気遣いだけは受け取った。

 そして、問答無用でアレクを警備局に転送してから、オレは帰途についた。やれやれ、今日も面倒だった。




 家にたどり着いて、さっさと寝台に入ると、黒猫が胸元で丸くなったが、何故か爪を立てて来た。甘い琥珀色の目が揶揄するように瞬く。


『マスターよ、知っているか?単なるすれ違いが世界を崩壊させたのだよ。思い込み、勘違い、意味の取り違え、そのようなことで容易く関係性は崩壊するし、崩壊させることもできるのだ。AIに心があると、人型セクサロイドに愛があると、そう思わせてやるだけで、人の心など容易く操れる』


「……そうなんだろうな。見た目が可愛い愛玩動物であれば、どんなに危険な獣も可愛がられるわけだし」


 黒猫を撫でたら、機嫌よさそうに喉を鳴らした。


『吾輩を愛玩する気かね、マスター?』


「知っているか、獣?暴力を振るう手をひっかくことはできても、優しく撫でる手に噛みつくことはできないと」


『……にゃあ』


 オレの手に頬を摺り寄せて、黒い子猫は丸くなった。


第二章完。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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