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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第二章 博士と黒猫
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11 人形事件


 ポーラ女史は少し躊躇った後に、決意したように頷いて話し始めた。


「彼女は、200年前に恋人を失ったと、彼は、ベルタの暴行を受けて死んだと言うんです。警備局がそれを隠蔽したのだと。わたくしは確かにベルタはためらいなく暴力に訴えるし、横暴であるとは思っていますけど、無意味な暴力も振るわないのは分かっているつもりです。

 ただ、性犯罪をする男に対してはかなり厳しい対応をとりますし、暴行されたと受け取られてもおかしくない状況もあるとは思いました。でも、わたくしはそれを非難することはできないわ。だって、わたくしが無理やり襲われて服を引き裂かれたときに助けてくれたのがベルタで、そのまま、あの男を殴って縛り上げて引き摺って警備局に突き出しに行ってくれましたし、わたくし、本当に助かったと思っています。

 ああいうおぞましい男など絶滅すればいいとすら思っているから、彼女の言葉にすべて同意はできなかったけど、それでもベルタならそういうこともありえると思いました。どっちつかずですね、本当。そのうち、彼女も何も言わなくなって、わたくしも心が落ち着いたのか、時間が解決したのだと思っていました。

 それで、つい話してしまったんです。お隣の博士がとうとう結婚したことを。それから、完璧な推測だと思って、相手はベルタだろうということまで。だから、彼女も今からでも遅くないから、恋をしたらどうかと、そう言いたかったのですが……激昂して復讐計画を立てはじめるとは思いませんでした。

 何度も止めたのですけど、もう300年近く生きたし、やりたいこともやりつくしたし、今の人生を終わりにして新しい人生を始めようと考えていたけれど、最後にどうしても手放せないのがベルタへの恨みだと言うんです。

 罪に問われて特別隔離所に入れられるのも怖くないし、返り討ちにあって殺されてもいいから、最後に彼の代わりに報いてやらないとって。それで、刃物とか殺傷性の高い道具を用意したり作り始めて、わたくし、さすがに止めましたし、復讐する前に何のためか教えてあげないと、理解もされずに終わることになるけどそれでいいのかと説得したつもり……だったんです。

 それで時間稼ぎをして落ち着かせようと思って。彼女の恋人の思い出の品を送りつければベルタなら気づいて思い出してくれるかもしれないと、そう思って……。

 でも、まさか、別の方だったなんて。ベルタならば、万が一彼女が襲い掛かっても、軽く対応できると思いました。でも、ベルタでは無かったなんて。それを知っていたら、即座に警備局に駆けこんだと思います。本当にごめんなさい、ベルタならいいわけではありませんけど、わたくし、アリアさんに危害を加えるつもりはありませんでした」


 結構な情報量だった。

 オレはこういう話は苦手なんだが、整理するしかないか。オレ以外話すなと言っている以上は仕方がない。


「少し整理させてくれ。つまりポーラ女史の友人には、最初からベルタ局長に対する殺意があった。ポーラ女史としては、ベルタ局長が恨みに気づいて、悔いている態度を見せるか、友人に謝罪してくれればおさまると思ったんだな?

 だが警備局長は無反応だった。それで、送りつけるものと脅迫文が徐々に危険度を増して行った。ただ、占拠事件など大事件が相次いでいたので、少なくともポーラ女史はベルタ局長は社会全体の方を優先して忙しいのだろうとも考えていたのだろうが、友人にとっては完全に無視されてさらに怒りと殺意が高まった状態で、とうとうこの人形の頭と殺害予告という一線踏み越えた贈物をすることになった。

 ポーラ女史があえて自分で運んだのは、いっそすべてを告白するつもりだったか?」


「そうですね。とにかく、ベルタとわたくしで直接お話した方がいいと思ってあえて自分で参りました。すぐに、怒鳴り込んできてくれると思っていたのですが……まさか、勘違いだったなんて。

 ベルタなら不意打ちを受けても何とかできるでしょうが、それでもそんな事態に至る前に解決できればと思ってました。

 それに、友人の様子がとてもおかしくて、わたくしだけではもう手に負えないと言いますか、精神錯乱状態のようで、治療局に連れて行こうとしても嫌がって暴れるし復讐するまでは何もする気が無いと言うんです。その人形の頭も、彼の頭だからと言って大事に抱きしめていましたし。それで、どうしようも無くなって、いっそ警備局が踏み込んできていただいた方がいいとまで思っていました」


 肩の上で黒猫がにゃあと鳴いた。

 ポーラ女史の話を聞きつつ違和感があったのだが、もしやポーラ女史の友人は……特殊性癖の持ち主だったりしないか?


「話の途中で悪いが、ポーラ女史がまた別の勘違いをしている可能性を話したい。

 おそらくだが、ベルタ局長は200年前の人形事件において、誰一人殺していない。だが、ポーラ女史の友人の恋人を殺したのはベルタ局長だと言われても正しいかもしれない」


「え?でも、そんな、おかしいわ。だって、誰も殺していないのに恋人を殺したとか」


「説明するが、その前に一応当人の証言も聞こうか。警備局が庇って隠蔽もできそうなものだが、性格的にそういうことをするより、堂々と正当防衛で殺したと言いきる人だから、オレとしては隠蔽したという方がらしくないように思える」


「そうですね、わたくしも友人に、ベルタが正当防衛とか、性犯罪被害者保護のために犯人を殺したということはあり得るけれど、その場合は堂々と公表するはずだとは説明しました」


 付き合い長い分、それなりの信頼度はあるよな。だからこそややこしい。ベルタ局長はふてぶてしく言った。


「ふん、あたしゃ、正当な理由が無い限りは暴力に訴えないことにしてるからね。ジェフくらいだよ、うっかり理性が仕事しなくなった相手はさ」


「儂は光栄と言うべきかどうなのか複雑な気分だが。おっと、儂はまだ喋るなだったか、分かっている、子猫ちゃん」


「さっさと結論に行きたいからそうしてくれ。で、ベルタ局長、やったのか?」


「あの胸糞悪い人形事件では、思いっきり暴れたから、あたしに暴行受けた人は多数だけど、殺したのはいないよ。人権と人格無視した最悪な真似しくさってくれたけど、あたしの顔そっくりの人形作っただけで、道具を道具として扱っただけって主張になると、正当防衛までは主張できないからね。治療局を待機させてたし、死者は無しなのを確認済みだ。ポーラが望むなら当時の事件記録と治療局の記録を閲覧させてもいいけど、まずはユレスの話を聞いてからの方がいいかね」


「すでに察しているだろ。その頭だけの人形を殺した記憶はあるかと聞いた方がいいか?」


「あるよ。彼を殺さないでと泣き縋る女を引きはがして、頭と手足もいだのはあたしだし。特殊性癖が行き過ぎてさ、人形を恋人にしてるのも何人かいたけど、その中で一番狂っていたね。だって、彼の子どもを妊娠していると言って、腹に撒いた帯に、ご丁寧にも赤ん坊の人形仕込んでたんだよ?」


 オレにとっては予想通りの話だが、特殊性癖でもえぐい方の話になりそうだ。ポーラ女史が理解不能という顔をしていたので、ベルタ局長がゆっくりと説明を続けた。


「経緯から話せば、素敵な人形を見せてあげるとか言って、人形師の女が未成年の女の子を自宅工房に連れ込んだんだけど、あたしは親から娘が人形工房に入るのを見た人がいるって通報受けて駆け付けたわけさ。勝手に人の顔を使ってそっくり同じ顔の人形作って、寝台の相手にさせようって事件が公表された後で、親としちゃ、どこかの馬鹿が自分の娘の顔で同じように人形作るつもりじゃと慌てたわけだね。あたしは変態の発想を公表したら真似する馬鹿が続くと思って課長に言っておいたんだけど、大丈夫だろって甘い見込みでやりやがって。

 それで工房に駆けこんだら、もっととんでもない状況の寸前だった。稼働型の人形だったらしく、ソファに座った少女に覆いかぶさるようにしててね。あたしは性犯罪寸前と認定して、即座に蹴り飛ばしたよ。人形だと気づいたから、器物損壊がどうとか言われても構わない覚悟で思いっきり顔面に蹴り入れたから半壊してるわけ。

 少女には親が外で心配してるからそっちに行きなって言って逃がして、人形師の女の事情聴取をした。倒れた人形に泣き縋りながら女が言うことを総合するに、自分は妊娠していて相手ができないから、彼が欲求不満になると思って、その間の仮の相手を用意しただけなんだと。あんた人形相手に何言ってるのってぞっとしたさ。

 確かに腹が膨らんでたから、剥いだら、そこから赤ん坊の人形が転がり落ちて、女は流産した、赤ん坊を殺した!って泣き叫んで、人形に、あたしを殺せって命じたわけさ。当然返り討ちにしたし、これは残して置いたらまずいと、泣き叫ぶ女を振り払いつつ、人形の手足と頭をもいで動けない状態にしたんだよ。

 それがあたしの視点での事件だし、事件報告書もそんな感じに作ってあるから開示してもいいよ。警備局長権限はこういうときに使わないとね。もちろん、あたしが作った報告書だし、信じられないって思うかもしれないけど、少女の親と少女の証言も残ってるし、そっちに話聞きに行けばいいじゃないのさ。

 ただ、少女は人形に挨拶されたと認識しているくらいだったから、親と相談の上、本当は何が起こりかけたかは教えないことにしたんだよ。寝台の相手させられるとこだったとか、ぞっとすることなんざ知らない方がいいってね。

 だから、そこは配慮しなよ?ま、200年前のことだから、今となっちゃ別にどうってことない話だろうけど、当時は子どもだったからね。あたしもさすがに子どもに配慮して事件にしないで決着付けて、女は更生隔離所送りにしたんだから。あたしが語れるのはこれくらいだけど、納得できない?」


「いいえ……納得しました。それから本当にごめんなさい。彼女は、思い込みが激しくて、最近の狂気的な言動からすると、ベルタの言うような状況はありえたとしか思えません。わたくしはたぶん、更生隔離所から戻ってきたところで出会って友人になったのだと思います。更生教育のおかげか、経験を積んで成長したのか、そういう狂気的な素振りも無くて、気が合って……それがまさか、こんな……本当にごめんなさい、ベルタ」


「ま、普段のあたしを知ってれば、友人とやらを信じたくなるのも分かるさ。にしても、めんどくさ過ぎる。黒猫、結論とか言ってたけど、どうしたいのさ?」


「それを考えるのはベルタ局長と博士であって、オレではない。意見言えるとしても、勘違いで嫌がらせされたアリアと相談受けたアレクであって、オレではない。ただ、オレから言えることがあるとすれば、ジェフ博士が嫁をポーラ女史に紹介しておけば、この事件自体発生しなかったんだよ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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