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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第二章 博士と黒猫
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9 不幸な勘違い


 オレたちは即座に隣家を訪問したが、ポーラ女史は快くというより唖然とした顔で応じてくれた。


 そして、茫然とした顔で言った。


「え?……ジェフ博士の奥方はベルタでは……?」


「無いって、こっち、アリアが儂の妻だ!マリア・ディーバと言えば分かるか?大騒ぎされるのが嫌で隠してたんだよ。それで妊娠が流れたら大変だろ。実は妊娠してるから、配慮頼む」


「ま、まあ、それはとてもおめでたいことですし、ええ、ええもちろん、配慮は必要、そう、必要ですわ、ど、どうしましょう、わたくし、なんということを!?」


 嫌な予感が確定したらしい。

 顔にまとわりつくように擦りよる黒猫を撫でて、アレクに言った。


「ベルタ局長を呼び出してくれ。黒猫が、即座に来ないと酷いことになると言っていると」


「分かりました。説明は、局長が来てからしていただけますか?」


「むしろ局長に説明させたいくらいだ。それから、ポーラ女史をジェフ博士の屋敷にご招待する。一階の応接室って使えるか?」


「え、あ、はい!わたし、ジェフのお客様がいつ来てもいいように整えていますわ」


「アリアは先に戻って用意してくれ。終わったら二階で待機。なるべく早く博士をそちらに行かせるから、その場を動かないように」


 ポーラ女史はうろたえていたものの、素直について来てくれた。


 勝手知ったるジェフ博士の家だし、押しかけてきて玄関から廊下の掃除してくれるくらいには、隣人付き合いがある。

 ポーラ女史としては有名な博士の隣人として自慢話にしていたり、面白いうわさ話が仕入れられないかと思ってやっているので、持ちつ持たれつかもしれないが、実はもっと根深い問題でもあったのだろうか。


 そこはもう、警備局長に投げよう、新人捜査官の訓練がてら何とかしてほしい。



 ポーラ女史の身支度と戸締りを待ってゆっくり博士の家に戻ったら、二階へ続く階段室の前でアリアが心配そうに待っていた。

 ジェフ博士が優しく何か言って二階に行かせたあたり、夫婦仲は円満だな。


 ポーラ女史がそれを何とも言えない表情で見ていたので、応接室の扉を開けて中に入れたところで、転送装置の部屋の扉が開いて、鋼の女が走り出て来た。さすが、緊急事態ほどに強い女だ。


「何があったんだい、黒猫!必要なら人員手配するからさっさと説明しな!」


「今はいらないし、話次第だが、隠蔽もありだと思う。誰にも何も言わずに一人で来たということでいいか?」


「当たり前だろ、あたしゃ弁えた女だよ」


 弁えた警備局長なら警護役くらい連れてくるところだが、弁えた女としては、こういうときは単独強行するのは分かってる。いいことではないが。


 全員応接室に入ったところで仕切った。


「今から、オレの発言に対しては、はいかいいえで回答してくれ。頷くか首を振るかでいい。それ以外の情報は不要。アレクは報告書でも作るつもりでメモを取っているといい。ベルタ局長は言いたいことがあろうが、はいかいいえだ。そうでないと話が進まない。

 まずこの家に何が起こったかを話すが、結婚後に何度も嫌がらせを受けて来た。具体的には、遺物ではない人の規格の大きさの人形の部品が脅迫文付きで送られてきたのだが、一例をあげれば、ヒビの入った人形の眼球に加えて、幸せになれると思うな。というようなものだ。結婚を祝福せず、むしろ不幸を望んでいることは誰にでも汲み取れる。ポーラ女史、心当たりがあるな?」


 必死に悲鳴と涙をこらえるようにしながらも、ポーラ女史は素直に頷いてくれた。

 さすがにベルタ局長が何か言いかけて、オレを見て口を閉じたが、理性を保ってもらいたい。


「何故なのかを説明する前に、大前提の話が必要だ。博士はアリア・リース・マンディと結婚したことが世界管理局で登録されて公表されているし、当人も結婚したことは身近な人たちに告げているが、嫁を紹介していないし、周囲もあえて踏み込もうとしない。

 子づくりのために結婚したわけだし、うるさく騒いで邪魔するものではないという礼儀と常識が特に上の世代には浸透しているし、ほぼ同年代のジェフ博士、ベルタ局長、ポーラ女史の世代だと、ひどい不作法だと感じるらしいな?オレの祖父さんもその世代だが、なかなか衝撃的な事件があったせいだと聞いている。

 加えて、博士は300年超えて初めて結婚した男だ。失敗しろと思わないが、本当に大丈夫かという気遣いでオレは見守っていたし、嫁が妊娠したら盛大に祝うつもりでいたのがベルタ局長だ。睨むなよ、もう言っていいだろ」


 祝うつもりでいたことをばらしたオレを睨みつつも律儀に頷いたあたり、ベルタ局長は割と素直なところもある人だとは思う。


「つまり、ジェフ博士の身近な関係者側としては、せめて嫁が妊娠して結婚生活がうまくいくまでは、嫁を紹介しろと言わないというか、そっとしておきたかったんだ。それが、多大なる勘違いを生んだ。

 オレは紹介されるまで待てるし、調べたりしないが、ポーラ女史はこういう話は大好物だ。礼儀作法と配慮の狭間で悶々とした挙句、とんでもない推理をしたんじゃないのか?

 浮いた話など無かったジェフ博士が結婚したし、世界管理局に登録されている以上、虚偽ではない。ただ、知らない名前だし、出会いの機会があったようにも思えないから、ジェフ博士の身近にいる女の誰かかもしれない。

 そこでだ、旧世界で芸名と言われるものを、今の世界でも公称として使っている人はいる。歌姫マリア・ディーバのように多くの人の目に触れる活動をする場合、本名と同じだと私生活にも悪影響が出ることに対する配慮だったか。

 それは、職務柄有名になる人にも適用される制度だ。たとえば、警備局長は、犯罪者やその身内から恨まれやすいし、私生活に踏み込まれて荒らされることもあり得る。100年以上も警備局長の座に君臨し続けた鋼の女ベルタは有名になり過ぎたし、恨まれまくっているので、その名は当然のごとく公称と思われている。

 名前は個人識別のために三節の名前で登録されるのが基本なのに、警備局長はベルタと一節でしか名乗らないからな。公称を使うときは、個人識別の名前と区別するために、一節か二節の名前にするのが基本だ。

 ということで、警備局長のベルタという名は公称で、本名は実はアリア・リース・マンディであるとポーラ女史が推測したとしても論理破綻は無い。そう推測したのか、ポーラ女史?」


 オレたちが見守る中で、ポーラ女史は泣きながらもはっきり頷いた。


 約束通り口を開かないものの、警備局長が珍しくだれた顔でソファに沈み込んだし、ジェフ博士が勘弁してくれと言いたい顔で頭を抱えた。


「不幸な勘違いだが、ベルタ局長は本名だ。単にめんどくさいからベルタとしか名乗らず、それがそのまま公称として扱われているだけだ。

 オレも博士にマリア・ディーバを妻だと紹介されて自分の目の異常を疑ったが、この博士がまさか、芸名を使っている方の有名人と結婚するなんて、想定外どころか、ありえない事態だったから、ポーラ女史が一番ありえそうな可能性に走ったのもよく分かる。

 勘違いしたままになった理由はもう一つあって、それがこの屋敷にある転送装置だ。

 これが自宅にある人は少ないが、高名な博士が遺物関係の研究所を併設するこの屋敷には設置許可が下りたし、警備局長宅には設置義務があるくらいだ。屋敷の外で見かけなくても転送装置で行き来していれば、嫁の姿を見なくておかしくないし、激務の警備局長が呑気に庭いじりするわけもないから、むしろ屋敷で見かけなくても当然だと納得できる。

 実際のところは、マリア・ディーバがいると周囲に騒がれたり、ファンが屋敷に押しかけてこないように、博士の妻はひっそり隠れるようにして屋敷から出ないで新婚生活を満喫していたし、外出するときは屋敷の一階にある転送装置で出入りしていただけだ。

 アリアが注意して振る舞っていたせいか、見事にばれなかったのだろうな。だから、ポーラ女史はかえって確信してしまって、我慢しきれずについ話してしまった。噂話にするつもりはなかったし、不作法なことをもしたくなかったが、身近で信頼できる相手にだけはこっそり打ち明けないと、どうにもおさまりがつかなかったのでは?」


 ポーラ女史は、震えながらであるものの、しっかりと頷いた。 


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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