7 博士の相談
猫が冤罪捜査官に不機嫌に反応したせいか、冤罪捜査官の話題になってしまったが、捜査官に相談したかった件についてははぐらかされたというより、言いづらそうな空気を感じたので、待つことにした。
博士からオレを連れて帰ると聞いて、アリアがオレのことを歓待しようと、料理を用意してくれていたしな。博士が秘蔵の逸品を開けると言い出したのも、そのためでもあるのだろう。
アリアが用意した料理は美味しいうえに、手作りらしい。
本当にこの偏屈博士と結婚してよかった人なのか疑問に感じてしまうが、目を逸らしたくなるくらいに夫婦仲がいいのを見せつけてくれるので、流すことにした。
こういうときは、ローゼスを連れてくればよかったとつくづく思う。会話が続かないわけではないが、何を話題にしていいのか分からない。
ローゼスを思い出したところで、別の情報も思い出したので、聞いてみることにした。
「……そう言えば、ローゼスがマリア・ディーバはオレと同じ年と言っていたが」
ジェフ博士がさっと顔を逸らしたあたり、自覚があるらしい。言い訳のように言い始めた。
「儂も抵抗したんだ、孫、いや、親友の孫と同じ年の子というのは、儂のまっとうな倫理観が若すぎないかとな」
「まあ、またそういうことを言って。惹かれあい愛し合うのに年なんて関係ありません!」
「当人同士がいいなら、オレはいらん口出しする気もないんだが……つまりアレクは年下だったのか。倍くらいは年上だと思っていた」
オレと同じ年のアリアの弟となれば、当然年下だ。
アレクに視線を向けたら、笑顔のまま微妙に固まった。
「……褒められたのかどうかすごく疑問です。あなたは、未分化型で成人かどうか悩むくらいの容姿ですから、見た目では私の方が明らかに年上に見えると思いますが」
「成人しているなら見た目は個々人の選択だから、どうでもいいだろ。年で判断するより実力で評価されることの方が多いし……いや、そう言えば、花王の選考基準に年が入ったとか警備局長が悪態ついていた気がするな。過激派の馬鹿どもは、若い花々を散らそうと盛り上がった外道どもだとかそんな感じのことを」
「そうなんです、今回は新鮮さを表現したいと選考委員長、あ、元ですが、あの人が言いだして、選考基準に加えられましたけど、まさか、自分がいいようにしたいからだなんて、本当に見損ないました!新しく決まった選考委員長は、何度も花王役を務めた方なのですが、本当に呆れたと言っていましたわ。
ただ、前任者の発想自体は悪くないと、花王役は一人選んだものの、他にも磨けば輝く素材が多いということで、補佐役として7人の花姫役を置いて、祭りを盛り上げてはどうかと提案してくれました。
わたしは選考までのご協力になっていたので、その後は関与していませんが、祝花祭に向けてレッスンもしてくださっていると聞きました。三日後の祝花祭のはじまりは、いつも以上に華やかになるそうです」
「博士は毎回、開始式典に招待されていなかったか?隠していた嫁を紹介するいい機会になるだろうし、二人で行ってきたらいい」
「それがな、そうしてもいいんだが、悩んでいたりもする。アレクが捜査官に相談したかった件ってのが関わるんだが、追加の結婚祝いと思って相談に乗ってくれよ、子猫ちゃん」
肩の上でオレの代わりに黒い子猫がにゃあと返事してしまったので、仕方ない。博士には世話になっているし、相談されたら応じるつもりはあったからな。
博士の依頼ではあるが、まずはアレクが口を開いた。
「お二人からは言いづらいことになりますので、私から話しますが、姉の周囲の方たちは、二人の結婚を、表面上はともかく内心は祝福していません。自分が姉の相手として選ばれたかったという嫉妬や、高名な研究者を射止めたやっかみや、様々な理由ですが、結婚生活の破綻を望む方はそれなりにいると思います。
私は心から賛成していましたが、そういう妨害も想定して、姉には誰と結婚するかは最小限の人にしか言わないようにと言っていたのですが、姉の行動が分かりやす過ぎて、お相手がジェフ博士だと即座に察した人もいますし、姉が祝福してもらいたいと思った相手に打ち明けたのもあって、それなりの人数に知られてしまいました。
選考委員長もその一人ですし、あんな爺さんより自分の方が満足させてやれると、姉に迫っていましたよ」
「花王の選考会を台無しにしてでも、かっこよくマリア・ディーバを守る姿を見せれば取り戻せるとでも思ったくらいにご執心なのだろうと思ったが、正直に言えば妄想癖のある自信家だとも思った。だが、相手がこのじじいなら、それくらいで勝てると踏んだのだろうと、今は納得したが」
「そこはじじいに気を使えって、子猫ちゃん。儂もこんなじじいより、いくらでもいい相手がいるだろうと説得した身だから、むしろ分かるが」
「わたしは全然わかりません!ジェフ以上の方なんていませんわ。それなのに、年の差だの見た目だのどうでもいいことばかり言い募って来る人たちばかりで、わたし、こういう人たちと今後もお付き合いするのは無理だと思ったのもあって、活動休止して結婚生活を満喫すると即座に決めましたし」
「変態性癖もないし、まっとうな成人であることは保証するから、アリアはその点では見る目があると言っておく。ただ、じじいは早く退場しろと願う連中がいるのも理解できる。馬鹿な真似するのが出て来るくらいには、マリア・ディーバは魅力的だし、ジェフ博士は偏屈爺だし。それで、選考委員長以外にもそういうのがいると?」
「そうなんだろうが、どこの誰ってのも分からんし、心当たりもなくて困っててな。アリアをお披露目したらそういうのがまた増えるかもしれんし、思いつめて行き過ぎた行動に出るのがいるかもしれん。儂はともかく、妊娠したアリアに何かあると嫌だからな。
実は、儂らが結婚した後に、この屋敷に届き始めたものがあって、それがまあ、嫌がらせってのは分かるんだが、何したいのかいまいち分からんかった。だが、一番最後に届いたもんが、なかなか危険な感じでな」
博士が妙に言いづらそうなので、アレクに事情聴取することにした。
「このじじいに限ってないと断言したいところだが、まさか過去にやらかした男としての過ちみたいな物品が」
「違います。そこは博士を信じてあげてください。それから何を想定しているんですか」
「オレに想定できない何かだ。性分化していない未分化型のオレに対しては、倫理的に問題があるから言えないと配慮されることがときどきあるのだが、博士は特にうるさいし、オレに説明したくないとこういう不審な態度になる」
「違うっての!そういう類のもんじゃない。だが、ぎりぎりかもしれんし、そこは見てもらった方がいいと思うんだが、アリアが最後に届いたもんを見て怯えていたから、言いづらかっただけだ」
「なんだ、嫁に対する配慮だったなら、そう言えばいいものを。じゃあ、アリアがいないところで」
「わたし、大丈夫です!あのときは、ジェフに何かあったらと思って取り乱しましたけど、今はうろたえるより、冷静に立ち向かって夫の身を守らねばならないと思っていますわ」
「アリア。妊娠してるんだから、無理するもんじゃない」
夫婦の絆に感動するところだが、何故オレはこんないたたまれない空間で、おそらくは事件の相談を持ち掛けられているのだろうか。
何とかしてくれとアレクを見たら、穏やかに微笑まれた。
「取りあえず、届いたものを見ていただいた方が早いと思います」
ここまで読んでくれてありがとうございました。




