表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第九章 獣姫と黒猫
204/371

13 昔の恋人


 ばばあの発言に、さすがに返答に困った。


 何故ならアレクがオレを窺っているからだ。下手な反応をしたら、どんな目にあわされるか分からなくて怖い。消極的な反応も積極的な反応もどちらも危険だ。


「……アレクをかっさらえるほどの猛者がそんなにいるとは思わないが、オレは誠意をもって盾役をこなすつもりはある」


「誤魔化そうとしていますね?ですが、安心しました。私たちの関係を尊重する気でいてくれるんですね」


「それで安心しちまうから、先に進めないんじゃないかい?変にすれ違う前にあたしが言っておいてやるけど、ユレスの性格は父親のフォウ似で、所有欲とかそういうのが皆無だよ。自分の男って発想自体しないさ。

 フォウは自由に生きている自然生物を見守る感じでエレンと付き合ってたけど、エレンが特務課の連中従えてわいわいやっていても嫉妬もしないわけ。エレンの方がもやっとしたらしくて、あたしに相談して来たから、フォウに聞いてやったらさ、ドルフィーも嫁が強い方が上手く行くし、自然生物は男の方が統率者になりやすいけど、女が統率する種の方が全体として上手く行くから、人もそうなんだろうなと思って見ていたんだと。

 警備局は女のあたしが仕切ってるから上手く行ってるんだって褒めてくれたけど、あたしゃ、何をどう言ってやりゃいいのかさすがに悩んだね」


 オレとしては父さんの意見に賛成なんだが、アレクがものすごく微妙な視線を向けて来たので、監視猫を撫でることに専念して誤魔化すことにした。


「ユレスも似たようなことを考えていそうですね?」


「血族が女王制というのは賢明な判断だと思う。アレクも女王様系の相手には行儀が良さそうだから、ばばあとか姫様がすごく頼もしい」


「なんだい、あたしを褒めてるのかい」


「……ベルタ局長が血族だったら、間違いなく強力な女王になると思いますが、私が局長とマリナを尊重しているように見えたのでしたら、それはユレスが尊重してるからですよ」


「?何でだ」


「ユレスが懐いている相手と喧嘩して、ご機嫌を損ねたくありません」


「言うじゃないのさ。でも、あたしとしちゃその方が安心さね。やりたい放題していたユーリも結婚相手には弱かったし、言いつけもちゃんと守っていたよ。抑止力として有効だから、あたしとしちゃユレスはアレクにやった方がいい。だから忠告してやるけど、監察局の連中には気をつけな。アレクとケイト監察官によりを戻させようって動きがあるし、監察局の大半はそっち側っぽいしね」


「……局長、私はそろそろ警備局に戻ってもいいと思っています。それから、ケイトのことはユレスにまだ言っていなかったので、配慮して欲しかったです」


「だろうと思って言う機会をやったんだよ。ユレスはちゃんとお聞き!」


 別に聞かなくてもいいし、さすがに察したが、監察局のケイト監察官はアレクの昔の恋人だった。10年ほどお付き合いしていたそうなので、オレよりも親密な関係だと思う。


 アレクの自供によれば、人生経験を積むためにと誘われて、結婚を前提としないならという条件で恋人関係を続けた。


 アレクが成人して数年の頃から付き合い始めたそうで、そのくらいだと結婚して子づくりするのは早すぎると考えるのが一般的なのでおかしいとまでは言わないが、念押しして付き合うのも一般的かどうか悩ましい。

 ベルタ警備局長は、アレクみたいなのは予防線を張っておかないと押し切られて大変だねと感想を言ったので、そういうものなのだろうと納得して流した。


 二人の関係が変化したのは、アリアがジェフ博士に一目惚れをしたのがきっかけだった。

 ケイトはアリアの友人であり、アリアから紹介されてアレクとケイトは付き合うことになったが、アリアはジェフ博士に一目惚れしたことを二人に打ち明けて相談した。


 だが、ケイトは反対した。


 理由は300年超えのじじいだからである。

 300年超えても浮いた話も無ければ、結婚経験もない頑固で偏屈なじじいだし、きっと何か大きな問題を抱えているはずだから、やめた方がいいと忠告したのだ。


 実に常識的な忠告だと思うが、その時点で、アリアとケイトの友情は終わった。

 ばばあが、女の友情は脆かったりするんだよと分かったような顔で頷いたが、アレクが言うには、血族は本気で惚れた相手以外は潔く関係を断つことも躊躇わない人が多いそうだ。


 アリアとケイトの友情が終わったところで、アレクもケイトと別れることにした。恋人のケイトより姉のアリアについたと言ってもいいが、仲のいい姉弟だから、そうなるだろうなとは思った。


 アレクの主張では、自分と同じく恋愛にも結婚にもさほど興味の無かった姉が初恋したので応援しなければと思ったのもあるし、アリアが毎日楽しそうにジェフ博士のことを語りつくしてくるので羨ましくなったそうだ。


 弟として複雑な気分になってもいいと思うのだが、血族的にはそこまで惚れ込んだ相手を見つけたというのは快挙だという父の教えがあったからである。

 ケイトと付き合っていてもそういう感じではないのでその機会に別れたが、恋人という盾がなくなったアレクはひっきりなしに誘いをかけられるようになり、仕事に逃げた。


 そうして警備局特務課の班長になって、ベルタ警備局長にこき使われる日々を過ごしていたが、ジェフ博士と結婚したアリアが惚気て来るので、アレクもそういう相手を探そうかと思っていた矢先に運命に出会った。


 姉のアリアについたアレクの判断は正しかったらしい。

 ジェフ博士の身内同然であり、ベルタ警備局長とも懇意の黒猫が運命の相手だったので、伝手はできていた……?


「じじいとばばあは大して役に立たないと思うんだが」


「ユレスが手強すぎたからです。お二人ともあなたが可愛いので、紹介してやるけど強制する気はないとか、自分が恨まれるのは嫌だと言う姿勢でしたから。それはともかく、ケイトとはすでに別れています。分かってくれましたか?」


「オレとしてはアレクは数十人くらいと付き合って来たと思っていたんだが、まさかの一人だったことに驚いた」


「私の評価が酷くないですか!?」


「その気になりゃ数十人くらい軽いと思うけど、大騒動になってただろうね。ケイトって女は警備局に来ては、周囲の女に牽制かけることもしてたしさ」


「盾としてすごく優秀だと思う。アレクの実力からして、昏睡している使えない盾でも華麗に使いこなすとは思うが」


「盾が昏睡してるから、ここぞとばかりに勝負かけて来る女もいたよ。ケイトは頑張っていたと思うんだけどねぇ」


「姉が牽制してくれて助かりました」


 アリアとアレクは仲良し姉弟だし、アリアは反対する人が多かった中、弟のアレクだけはジェフ博士とのことを応援し続けてくれたことに感謝していた。

 だから、かつての友人の前にも立ちふさがって、弟の相手は眠り姫だと宣伝して回り、アレクが無事に結婚できるように立ち回った……。


「そんな、アリアまでオレを罠にかけたなんて……」


「姉は私の側だとあなたも分かっていたはずですよ」


「アリアはケイトに苛っと来たらしいよ。ジェフのことをあれこれ言っておきながら、結婚が上手く行って良かったわね、昔みたいに仲良くしましょうって迫ってきたそうでさ。アレクを落すにはアリアの方からってのは賢い判断だと思うけど、やり方間違えたね。

 アレクの眠り姫は小さなレディだってのも知ってたなら、当然ジェフの身内ってのも分かっていていいはずだってのに、ジェフのことは手のひら返して褒めながらも、眠り姫のことは何もできない子とか大した仕事もしていないらしいわねとか言ってたんだと。むしろそっちで切れたってあたしに訴えて来たよ」


「遺物管理局のユレス捜査官の評価としては間違っていないと思うんだが。オレが黒猫だとばれていないなら、捜査官日誌を登録するだけの仕事しかしてないし」


「あなたの安全のためとはいえ、隠蔽工作と情報攪乱が優秀過ぎましたからね。実は私の眠り姫が目覚めたことを知って、ケイトはうるさく絡んでくるようになりました。ヨーカーン大劇場の件で私が呼び出されてほぼ拘束されているに近い状態におかれたのも、監察局とケイトが画策したようなものでもあります。

 さすがに切れました。ユレスとのお見合いのために<菩提樹>に行くときも、事件が解決していないのにとか、捜査官とは名ばかりな子と会うよりは自分と一緒に捜査した方が賢明だというようなことを言われていたんです。私はつい、私のレディに会ったら一晩で事件は解決しますと答えたのですが、本当に解決しましたね」


「おい、何を無茶振りしていたんだ。だから、取引に積極的だったんだな?」


「まあ、あたしがけしかけたのもあるけどね。ヨーカーン大劇場の事件は、被害者の三人はもちろん加害者になれるのも自治区の連中だけだったろ?新王国自治区との調整は必須だしめんどくさい案件だし、監察局がうるさく言いだす前に、捜査資料をすべて監察局に渡して、そっちで捜査してくれても構わないって言っておいたんだよ。

 監察官ってのは、捜査官資格も取得する規定になってるしさ。だから、ほぼ全員がかりで捜査してたみたいだね。ヨーカーン大劇場の現場に配備してる警備課にも監察官が来たら、すべて開示して捜査協力してもらえって指示してたし。報告によりゃ、ほぼ全員が来てたよ」


 ばばあとしては、面倒ごとをぶん投げたな?


 それで解決すれば良しと思ったのもあるだろうが、どちらかと言えば、警備局が誠実に協力して対応したにも関わらず、監察局は解決できなかった状況を作りたかったのだろう。


 証拠に、にんまり笑いながら続けた。


「解決してくれるなら助かるから、協力は惜しまなかったし、監察官がせっかく来てくれたし、何かいい見解を聞かせて欲しいって監察局に訪ねて行くこともしたんだけど、残念な結果だったねぇ。

 ケイト監察官は頑張ってたんだろうけど、あたしゃうっかり、本当に捜査官資格あるのかい?って突っ込んじまったよ。そしたら、警備局の捜査官でも解決できていないじゃないかって逆切れされちまってさ。

 まあ事実だ。だから、あたしも覚悟決めて他のとこの捜査官に頼もうかって思ってるって、正直に言ってやったんだ。ちょうど、遺物管理局の捜査官が目覚めたしねって」


 ……ばばあめ、煽ったな!?


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ