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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第九章 獣姫と黒猫
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12 大猿再び


 オレが腕輪で通信文を送ったのを見て、ローゼスが瞬きして言った。


「あらやだ、何か思いついたの?ユレスが通信文送るのって珍しいわね。というか、誰に送ったのよ。あんたの腕輪に登録されてる相手って大物ばかりでしょ。騒ぎになる前に説明しなさいよね」


「確かに大物に送ったが、大した話じゃないぞ。ばばあは暇なんだろ?オレが目覚めた後、ばばあの家に預かられていたときもあったが、かなり散らかっていたから掃除していたんだ。ばばあは暇になったらやるつもりだったんだよとか言っていたが、ジェフ博士みたいに整理とか苦手な人だから放置していても進まない。オレが不用品を片っ端から処分していたら、見覚えのある品を見つけた。大猿だ」


 大猿と聞いて、お茶を飲んでいたアレクが咳こんだ。


「っ、なんてもの見つけたんですか。いえ、まだあったんですか?局長は、小さなレディから貰ったことになってるし、捜査終わったから持って帰るけど、そのうち処分するとか言っていたのですが」


「処分できないばばあだと言っただろ。埃かぶって酷い状態だったから、オレは綺麗にしてやったが、埃被るくらいの時間は経ったのだと少しだけ実感した。

 それはともかく、ミヤリは添い寝用ドルフィー型人形を持ってきているし、子どもには添い寝用ドルフィーが必要かもしれないが、その子はドルフィー派でなく猿派に違いない。落ち着かせるために、大猿を添い寝用にあげたらいいのではないかと思う」


「……」


「……想像すると酷い映像過ぎて思考が止まったけど、あんた、すでに通信文送っちゃったわけね」


「オレもばばあも迅速行動が基本だ。あ、返信が来た。……どうしよう、ばばあが大猿担いでこっちに来るぞ」


「どうしようって言うようなことを、要求するんじゃないわよ!?」


「いや、オレは単に大猿を梱包して雨の森リゾートに送ってくれと頼んだだけなんだが」


「……私のところにもベルタ局長から通信文が来ました。ローゼス、局長とポーラ女史の宿泊手続きをできますか?」


「本気で来ちゃうのね!?職員一人につき、6人までお客を増やせるから問題ないけど!」


 オレと一緒にいることが多いローゼスは、ばばあは決めたら即行動するし止められないこともよく分かってるので、直接行った方が早いと宿泊棟の受付に走って行って、大猿を担いだばばあとポーラ女史を連れて戻って来た。


 さすが、迅速行動が基本のばばあだ。


 雨の森リゾートには警備局の警備も増員しているし、支配人のマムからも連絡が来ていたので大体の事態は把握していたそうだ。

 そんな状況でオレから大猿寄越せという連絡があったので、ばばあは即座に理解して、大猿を担いで乗り込んで来たらしい。


 オレの理解の方が追い付かない。


 ポーラ女史は協力者にして同行してきたが、ほとんど全裸で何も持っていない少女を捕獲したと聞いて、服が必要だろという配慮だった。

 ついでに、ポーラ女史がオレ用の服のデザインをたくさん考えていたので、選ばせるのにちょうどいいと思ったそうだ。


 人権倫理委員会がうるさいから休暇を取ったし、ポーラ女史と一緒にどこかに観光でも行こうかという話をしていたところでオレからの通信文が来たので、じゃあ、雨の森リゾートで観光だねと即断したことは理解した。

 アレクたちが雨の森に行くことも把握していたので、即座にねじ込めると判断した警備局長の慧眼であった。


 眠っているというより眠らせている少女の顔を見て、その慧眼で見抜いたことによれば、アリスでもイーディスでも無いらしい。


「いいかい、人の顔ってのは筋肉でできてるし、良く使う筋肉とか表情筋っていうの?ああいうのって鍛えられて微妙に顔の形変えるんだよ。あのイーディスって小娘は小生意気で頭の足りないうるさい小娘だったけど、この子は野性味溢れるし、作り笑いとかしない自然な感じだね」


「とっても綺麗な子よね。わたくし、こういう子は短いスカートで大胆に足を見せたらいいと思います。ユレスには清楚系で足は見せないほうが似合うと思うけど、没にしたデザインがこの子にはいけそうよ」


 オレが目覚めた後、ジェフ博士の屋敷にも連れて行かれたし、そこでアリアと博士の子どものジェイスにも会ったが、ポーラ女史もいた。

 いちいち隣家から来るのが面倒になって、博士とアリアの勧めもあって、屋敷の一階に同居しているそうだ。オレもポーラ女史を一人置いておくより安心だと思う。


 ジェイスもポーラ女史に懐いていて、祖母と孫のような関係である。

 ジェイスの服はポーラ女史とアリアで色々デザインしているそうだが、ジェイスの趣味はジェフ博士とそっくりなので、可愛い系を着せられないと嘆いていた。


 オレが女になったからと言って、アリアとポーラ女史が今まで使いたくても使えなかったデザインでオレに服を作ろうと盛り上がり始めたので、オレは早々に逃げ出したのだが、諦めていなかったらしい。

 アレクがごく自然にポーラ女史に服のデザインの要望をし始めたので、アレクの手配かもしれない。


 オレは放置された大猿を構うことにしたが、ロージーが微妙な顔で見ている。


「ユレスさん、ボクはこれはどうかと思うんだよ」


「毛を金色に染めたらどうだ?」


「……うん、そういう問題でも無いけど、その子にはどうかなっていう問題がね」


「もしかして、ばばあには似合うがオレには駄目とかそういう問題なのか?だったら、似合うかどうか試してみたらいい」


 大猿を眠っている少女の近くに置いてみたが、これは……ありじゃないのか?


「……何故かしら、アタシの美的センスが大猿は駄目だと訴えているのに、我が子を見守る父親のごとき抱擁力を大猿に感じてしまって、これはこれでありかもって思ってしまう!」


「母猿の映像記録を見た影響だと思いますが、何故か違和感がないですね……」


「あの映像が強烈すぎたね。マダム・ベルタは見たのかな」


「小さい動画で見たけど、ポーラには見せてないから大画面で見ようじゃないか。一応の事情はポーラに話してあるんだよ。身元不明の少女保護したのはいいけど、情報はかなり制限してるんだろ?事件だってなら、人の言葉が通じない子の面倒まで見てられないだろうし、ポーラに預かってもらいな。子ども服作ってるから、子どもの相手は得意だしね」


 有能なベルタ警備局長は先のことまで考えていたらしい。

 映像記録を見たポーラ女史はさすがに驚いたようだが、少女を預かってくれると頷いた。


「金色猿でしたか。あの手つきは絶対母親ですよ。手荒な真似はしてほしくないけれど、お母さんが捕まるまでわたくしがお世話します」


「取りあえずのお父さんはこの大猿でいいだろ。これの原型も子だくさんだったから、今さら一人増えても問題ないさ。金髪になれる髪用染料で染めりゃいいんじゃないかい?」


「そうね、こうなったらやるだけやった方がいいわね。じゃあ、アタシ、調達してくるわ!」


「待って、わたくしも御一緒します。衣服製造装置の場所を教えていただきたいし、雨の森限定の布地や染料もありましたよね?」


「ええ、素敵素材がたくさんあるわよ。じゃあ、そっちもご案内するわね!」


「そう言えば、雨の森限定の薬草もあったよね。ボクもちょっと見て来るよ。アレクさん、ここはよろしくね」


「はい。雨の森限定の干し果物があったらお願いします」


「了解!じゃあ、ユレスはいい子にしてるのよ!」


 それはアレクに言うべきだと思う。


 眠る少女とばばあがいるから大丈夫だと思うのは甘い。ソファにどっかり座った鋼の女はにやにやしながらオレに聞いて来たしな。


「それで、どうなんだい?同居してるし、少しは進展しないとねぇ」


「どうせ報告を受けてるんだろ」


「報告って言うより愚痴だね。その気になりゃ、どんな女でも落とせるアレクが、ここまで手こずるなんてね」


「オレは女じゃないから仕方ない」


「まだ成熟していませんが、女に分化しつつあるので自覚してください」


「そうそう、危機感持たないと、アレクを余所の女にかっさらわれちまうよ?」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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