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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第九章 獣姫と黒猫
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11 休暇勧告


 オレの相棒であるAIワトスンは、にゃあとしか言わない。


 これは遺物管理局では常識である。


 オレの腕輪には、今までの経験と他のAIとマスターたちの尽力の結晶でもある、ワトスン語というかにゃあ翻訳機能が組み込まれているが、それでも翻訳は困難を極める。というか、翻訳機能はほとんど役に立っていない。


 ワトスンがにゃあとしか言わないからだ。うぉうぉとか、うぉうとか、少しでも変化をつけてくれれば、判別の幅が広がりそうであるのだが。


 にゃあ翻訳に尽力した一人であるガンド捜査官はその難易度の高さをよく分かっているので、ソファに座って真剣な顔で言った。


「僕の経験から語ると……ワトスンに事情聴取するより、親猿捕まえて事情聴取した方がいいと思うんだ。にゃあよりうぉーの方が解読できる可能性が高いよ。

 子どもを誘拐したような状況になっているけど、そこはきっとワトスンが説得してくれるはずだ。僕たちには状況がさっぱり分からないとはいえ、子守猫はとても賢いし、マスターのユレス君のために何とかしてくれるのは信じていいから」


「ガンド捜査官、色々投げ過ぎだと思う」


「いいのよ、ユレスちゃん。もはや上手く収まればそれでいいじゃないの。えーとね、リマちゃん、警備局としては、この常識で対応不能の事態に思うところがあったり、まともな説明が欲しいと思うのはわかるけど、あたくし、局長さんにもちゃんと説明するから、ここは協力してくれないかしら」


「大丈夫です!あたし、ユレス捜査官とワトスンの実力はよく分かっていますから!だって、ドルフィーたちと仲良くお話してますし、猿と話せて当然だと思います!この事件は、ドルフィー誘拐事件も解決したユレス捜査官以外は解決できません」


「そうです。ユレス捜査官に不可能はありません」


「ユレスさん……猿に浮気したらドルフィーたちが悲しみますけど、俺、ユレスさんならできると信じてます!」


 オレの話を聞け!


 ガンド捜査官が仕切って、当初の予定通り雨の森で捜査活動しつつ、親猿捕獲作戦を決行することになった。


 取りあえず親猿を捕まえないことには事態も進展しないし、子猿を誘拐された親猿がどこかで暴れないとも限らない。

 マムは本日の観光ご案内は取りやめにして、警備局の増員も全員投入して、親猿捕獲を優先することにした。


 オレは昨日決まった役割分担どおり、待機である。


 休暇で来たはずのアレクたち三人は、緊急事態につき協力要請受けたことになって、オレと一緒に少女の見張りをしつつ待機組となった。

 少女に睡眠薬を盛ったわけだし、治療官でもあるロージーがいてくれるのは助かるが、アレクとローゼスは猿捕獲作戦に参加しに行ってもいいと思うが。


 マムがフルーツタルトを差し入れに持って来てくれたので、遠慮なく食べながらローゼスが言った。


「んー美味し!ここの果物は絶品だものね。ユレスも食べておきなさいよね。事件に備えてこまめに補給しないと体がもたないわよ」


「事件が起こるフラグを立てるのはやめろ」


「あら、だって、昨日の捜査会議では、<知識の蛇>が聖堂遺跡狙って天使型使って襲撃してくることも想定していたんでしょ?ガンド捜査官から聞いたわ」


「はい。その場合は、ユレスが天使型を受け持つこともお聞きしました。天使型人工物を相手にするなら私も御一緒すると言いましたよね?」


 アレクはオレに怒った顔を見せることは無いが、笑顔向けられる方がかえって怖いぞ。


「確定していなかったし、猿を捕獲してから考えるところだったんだ。その子の目撃情報があったら連絡していた。イーディスというかアリスそっくりだし、蛇と無関係とは思えないしな。姉御はマムが怖いから呼んでも来ないだろうし、他に現場にいた誰かに見てもらうしかない。さすがにお忙しいベルタ警備局長よりはアレクを呼んだ」


「お気遣いのようでいて私にお気遣いしていませんので、他の選択肢を考える前に私を呼んでください。それから、ベルタ局長は、今はお暇だと思います」


 少女を簡易寝台に寝かせて生体観測装置を設定していたロージーも頷いた。お茶の道具を持ってこちらに来たが、同居して分かったがロージーが一番お茶を淹れるのが上手い。


「マダム・ベルタも、ボクとシリスの出生登録の変更とかその後の取材に立ち会ってくれてたんだけど、同じく立ち会ってくれていた人権倫理委員会の人に、連続勤務が続きすぎだから休暇をとるようにって強く言われていたよ。

 それって、ヨーカーン大劇場の事件と自治区関係で忙しかった人たち全員に共通なんだけどさ。アレクさんとボクもしばらく休暇取るようにって、職場からも言われていたんだよね。マダムも雨の森に誘えば良かったけど、慰労のために警備局の人たちと大宴会すると言っていたからやめておいたよ。アレクさんはそっちに誘われなかった?」


 ロージーが入れてくれたお茶を優雅に飲んでから、アレクが答えた。


「昨夜は警備局裏手の食堂で宴会をしていたはずです。私は事件が一応の解決をした段階での宴会には参加しましたよ。昨夜は警備局の自治区関係の職務に当たっている人たちで宴会する予定だったはずです。監察局の人たちも招待されたようなので避けました」


「?何でだ?」


「あ、ユレスには説明した方がいいわね。監察局と他の組織の関係って微妙なのよ。以前の警備局と遺物管理局の関係に近いって言うか、監視する側とされる側って感じね。あんまり慣れあうのは良くないし、警備局としては監視される側に回ったから複雑な気分でもあるかしら。

 でも冤罪捜査官みたいなのがいると困るだろってベルタ局長が言って受け入れているから、警備局も確かに外部の目は必要だって納得してるし、反発まではしていないの。

 ただ、警備局出身のアレク監察官の立場だと、ちょっと板挟みね。冤罪捜査官を告発したのもアレク監察官だから、警備局の肩を持つと思われているわけではないけど、警備局としては自分たちの英雄を監察局に持っていかれて面白くないし、監察局としてもアレク監察官がときどき警備局の捜査に協力しているのも面白くないわけ。

 ヨーカーン大劇場の事件が即座に解決にまで至ったのは、アレク監察官が情報提供したからだってことは監察局の人も把握してるし、まずは自分たちに言って監察局から情報提供すればよかったのにって意見もあるみたいね。つまり、めんどくさいのよ」


「めんどくさいですね。あくまでも個人活動中のことですので、監察局が口を出すことではないと切り捨てましたが、絡まれるのが嫌で宴会はご遠慮しました」


「……個人活動と言えばそうだろうが、思い切り捜査活動していたと思うが」


「私はお見合いしていたんです。ボーディ前局長にも証言していただきました」


「ボクも証言したよ。アレクさんとボクはあくまでも見合いをしていたし、その過程でちょっとした問題ごとを解決して話を進めようとしただけなんだ。眠り姫に助言してもらって、事態が急展開したけどね」


「事件捜査はともかく、ロージーの衝撃の告白はちょっとした問題ごとじゃないと思う」


「アタシもそれには同意するわ。でも、眠り姫とアレク監察官のお見合いを見守っていた人たちには、いい感じに見えてたみたいよ」


「ボクとローゼスのこともいい感じに見えて欲しかったんだけど、そこは残念だな。まあ、アレクさんと眠り姫の方が話題になるのは分かるけどね。アレクさんは念願かなって推理が冴えわたったから、事件解決に至ったのかと言う人もいたけど、ボクはユレスさんの圧倒的な実力のおかげって言っておいたよ」


「そうですね。不愉快な人の話をしたくありませんが、アーデルも誰が事件を解明したか分かったので、あっさり受け入れて引き下がったのだと思います」


 アーデルと聞いて、監視猫が不機嫌そうに警戒の姿勢を取った。

 仕方ないので撫でまわしてやったら、オレの膝の上で転がり始めた。無駄に猫設定を追及しているな。


 アレクが穏やかな微笑みでそれを見ているくらいに猫の癒し効果は高いから、いいことにするが。

 フルーツタルトを食べ終えたローゼスが、監視猫を眺めて言った。


「そう言えば、あの子、監視猫にも反応していたわね。野生の猫でも見たことあるのかしら。旧世界で動物に育てられた人の事例があったけど、アタシ、そういう感じで金色猿に育てられたのかしらって思っちゃったわ」


「オレもそう思ったし、ミヤリがマークにそういう話をしつつ、資料取り寄せると言っていたから任せておけばいい」


 今後の行動計画が決まった後、マークがオレに猿語翻訳の相談をしてきたときのことで、話題についていけない連中はオレたちの周囲から逃げた。ミヤリとリマとライルは当たり前のごとく猿語問題に挑んだあたり、勇敢だし将来性があると思う。


 だが、全員揃って猿よりドルフィーらしい。猿に配慮してやれよと思ったところで思いついた。 

 あの名前も不明な少女は、ドルフィーより猿に違いないと。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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