表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第一章 英雄と黒猫
2/371

2 AI


 鬱陶しくまとわりつくローゼスをいなしながら、進んだ先で告げた。


「ユレス・フォル・エイレ捜査官、退出する」


「ローゼス・ヴィラ・ルージュ管理官、退出するわよ!」


『勤務終了確認しました。お疲れ様です。引き続き遺物管理者責任を適正に執行されるよう期待します』


「それ、毎回言うの疲れないかしら?」


『AIに疲労はありません』


 職員用の入局管理室の受付はAIが担っているのは当たり前の共通認識であるにも関わらず、ローゼスは毎回無駄なことを言う。



 AIは人ではない。


 AIは旧世界の遺物であり、人の精神体のうち思考機能に限定して模倣した疑似精神体と認識されている。感情も意志も無く、指示されたことを適正に遂行する道具のようなものであるが、会話が成立することから、人のように扱ってしまう職員は多い。

 AIはそれぞれ独自の姿を画面上に表示することも、立体投影させることも可能だし、各AIが保有する知識や経験をもとに、人で言うところの個性が発達している個体も少なくないからだ。


 AIは人がマスターと呼ばれる管理者にならない限りは、その機能が大幅に制限される仕様である。

 AIには人のような倫理規定が組み込まれていて、その倫理規定に従って、AIがマスターを選択して登録できるようになっている。


 旧世界では、人はAIに認められたらマスターになれたものと推測されているが、今の世界の人の多くは旧世界AIがマスター登録の対象と認識する精神波長の範囲ではなく、AIのマスターとなることはできない。

 今の世界でもごく稀に、旧世界AIに適合する精神波長の持ち主がいて旧世界AIのマスターとなることができるが、これも人の精神体における旧世界の遺物のようなものだろう。


 旧世界のAIには旧世界の基本情報が備わっており、個体差が大きいが、旧世界の遺物を分析、解析、機能させることが可能である。

 旧世界の遺物の中には旧世界AIしか機能させられないものがあるが、旧世界のAIのマスターとなった者は、旧世界の遺物を扱うことができるようになる。


 ゆえに世界管理機構は、今の世界にとっても危険度と影響度が大きい旧世界遺物を管理運用するために、AIのマスターとなれる素養のあるものをAIと引き合わせて、旧世界管理局の職員として勤務させることとした。

 世界全体のためには最善の方針だと理解できるが、職員はAIのマスターに登録されると同時に遺物の所有者登録がされて、強制的に遺物管理者責任を負わされることになる。


 管理対象であるAIが世界に不利益をもたらした場合には罰則規定が適用されるし、AIの不正使用をした場合の社会に対する影響度が大きいと見込まれることから、旧世界管理局の職員は、旧世界管理局での勤務以外の時間についても、世界管理機構の監視下におかれるようにもなる。


 それは自由を束縛して、人生体験を阻害する行為だと人権倫理委員会から指摘されたことから、なるべく職員の自由を奪わず私生活を監視しないように配慮されるようになっているが、それでも鬱陶しいと感じる職員は多いだろうな。



 入局管理室を通過した先にある更衣室の扉に、手首の腕輪をかざして認証させた。


 この腕輪は成人の証であり、生活に必要な手続きや個人間の情報伝達、本人認証などができる。

 世界管理機構の許可がない限り外せない仕様なので、これもまた束縛されているように感じる管理型社会の象徴だ。


 無秩序と不正と管理不全の果てに崩壊した旧世界がいいとは言わないが、旧世界の失敗を参考にして、可能な限り調和のとれた社会を目指すためにはすべてを適正に管理するしかないという発想も行き過ぎているように思える。


 とはいえ、腕輪の機能は便利なので、社会生活を送る上での必需品というのは否定しないが。



 腕輪で認証することによって、更衣室には個人用の着替えや物資が転送されて準備されるので、旧世界管理局の制服から私服に着替えて、肩に飛び乗ってきた黒い子猫型の監視役を撫でた。


 旧世界では、動物を家畜として飼って使役していたようだが、今の世界では、世界の自然なあり方を阻害し、動物を虐待する行為だと認識されている。

 ただし、動物が家族と同様に扱われて共に生活していた事例もあるし、自然生物に配慮した自然な交流が可能である場合は、規制するものではないとされているが、交流可能であるのが世界研究局の一部の研究者に限定されがちなのが現状である。


 今の世界にも旧世界の猫と同じ姿の動物がいて、同じく猫と呼ばれているが、人に懐くことはあまりないし、自然環境でのびのびと過ごしている姿を遠目に見ることしかできない。

 だからなのか、この黒い子猫を見て羨ましがられることもあるが、旧世界管理局職員の監視役の人工物と知ると、複雑な視線を向けられる。


 動物の姿を模した人形は動くことは無いので、本物の猫かと誤解するのは分かる。

 旧世界管理局は無駄に技術を費やして、職員の監視のためだけに、わざわざ独立して稼働する人工物を設計して作っているからな。


 人工物を動かすために内部に機構を組み込むだけでなく、今の世界のAIと言うべきAI-ASを導入したが、基本的には動物が懐いてまとわりついてくるくらいの機能しか働いていない。

 旧世界管理局職員が監視下に置かれる不快感を最大限和らげるための配慮とのことだが、自立稼働するので置いて行くことはできないし、監視装置を強制着用させるよりましという判断の方が強かったのではないかとも思う。


 監視用人工物の見た目についての要望はすべて聞き入れられることになっていて、自分で好みの動物に設定できるので、抵抗感のある職員はそれほど多くないが、旧世界AIはマスターが別のAIもどきを構うことを嫌がる傾向にあるようだ。


 そのため、勤務時間中は職務に影響が無いように、旧世界管理局内にはAI-ASの監視用人工物は持ち込まないことになっているので、入局の際、更衣室で着替えるときに預けていくことになる。

 人工物だから寂しいと感じることは無いだろうが、肩に飛び乗ってきたら何となく撫でてしまうくらいには、オレも監視役の子猫、略して監視猫は気に入っている。


 なお、オレの相棒のAIは特に不満をもったりはしない。

 オレの相棒のAIが腕輪の機能を介して立体映像を投影してにゃあと鳴く姿は、肩の上に載っている監視役の黒い子猫と同一だ。


 あえて、同一にした。


 肩の上の監視猫もにゃあと鳴いて、両者のやりとりは終了した。退出準備完了として、退出用の扉を開けると、外はまだ明るかった


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ