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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第九章 獣姫と黒猫
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7 海浜自治区


 この大ラウンジでの食事は、大皿でテーブルごとに提供されるのを各自が取り分ける形式だが、オレ以外は良く食べる人たちなので、追加の料理と飲み物を頼んだ。

 ローゼスが美容ドリンクというものを頼んだが、海浜自治区の品だそうだ。


「これ、すごくいけてるのよ。お肌がぷりっとする感じなのよね。人気の品だからなかなか手に入らないけど、さすがマム、ここの料理長かもしれないけど、メニューに載せてくれたのね」


「海浜自治区は料理も飲み物も凝ってるし、自治区を丸ごと観光地にしているから、楽しめる場所なのは間違いないよ。ユレスさんは名前くらいは聞いたかな?」


 オレは名前は聞いたが、詳細までは知らない。それを察したロージーが解説してくれた。



 海浜自治区は五年前に設置された二番目の自治区だ。区長はラキア・リー・ラン。デルソレの事件の際に、<知識の蛇>とマキナによって主犯に仕立て上げられそうになった、元セイレーヌのリーダーである歌手だ。


 表向きはデルソレの大事故と公表されたが、裏事情的には大規模誘拐事件であった。未遂に終わったが、<知識の蛇>の計画通りにいけば、ラキアは主犯にされていた。

 大事故だったとしても、デルソレの責任者として対応しなければならないので、ラキアは災難だったと思うが、内心思うところがあったとしてもラキアは誠実に対応にあたった。


 それが評価されたのと、デルソレを宣伝して盛り立てた実績も認められていたので、新世界推進機構とデルシーからの推薦も受けて、残っていたデルソレを基礎とした一帯に海浜自治区を設置する計画に抜擢されたそうだ。


 海浜自治区の設置は、新王国自治区に対する牽制と監視の目的もある。


 新王国自治区は、海浜自治区と海を挟んで少し先に行ったところに設置されているし、そこにはラキアを嵌めて壮大な誘拐計画の犯人にしようとした人々、特にマキナがいるので、あえてラキアを区長にすることで新王国自治区に対する警戒を示したのだ。


 海浜自治区は恋愛と交流と娯楽を求める人々向けの観光自治区であり、自治区内で不作法を働く者たちを取り締まるためにしっかりとした治安維持部隊を置いている。

 裏向きには治安維持部隊は、新王国自治区が不穏な行動を取ろうとしたときに即座に対応するために置かれているので、警備局出身者が多い。


 裏の目的もあるので、海浜自治区に対しての新世界推進機構の支援体制は手厚いし、すぐ近くにあるデルシーからも協力を得ている。

 デルシーの指導によって、ドルフィーたちと良好な関係を維持するようにしているので、ドルフィーファンたちからの評価も高く、海浜自治区限定のドルフィー型人形の取引も許可されている。


「……なんで、最終結論がドルフィーなのかはともかく、海浜自治区は上手くいっているのは分かった」


「ユレスさん、ドルフィーは重要なんだよ。精神異常で治療を受けていた人がドルフィー・セラピーを受けたら、劇的に回復した事例もあってね。何度も検証実験した結果、効果ありと判断されて、デルシーには治療局専用の治療室と宿泊権利を設定して貰ったくらいだよ。効果が無かったのはユレスさんくらいかな」


「そうですね。ユレスを連れてデルシー海洋遺跡に行くと、ドルフィーたちが慌ててやってきて、ユレスを起こそうと呼んでくれていたようなのですが、ユレスは無反応で困りました」


「それ以前に昏睡状態のオレを連れて行くことに疑問を感じろ。精神異常の治療をするには意識があるのが前提だろ」


「んもう、不貞腐れないのよ。デルシー一同がユレスのために頑張ってくれたのは事実なんだから」


「オレを心配するドルフィーのためだと主張する」


「えっと、まあ、そこは否定しないわ。人魚姫も頑張ってるけど、ユレスがいるとドルフィーたちの注意は全部そっちに行っちゃうしねぇ」


「人魚姫?」


「あら、まだ誰からも聞いていないの?7年前に遺物管理局に入った子なの。でも、海浜自治区に住民登録しているからちょっと微妙な扱いね」


 自治区の制度については、試行してより最善な形に変更していくことになっている。


 新王国自治区に関しては、当初の住民たちは世界管理機構を離れて新王国を設立するつもりであったこともあり、自治区に永住する住民として登録されたし、新世界推進機構への移住申請は簡単には通らない。

 新王国自治区内で新たに生まれた子どもに関してはその範疇にないそうだが、世界管理機構を自主的に捨てた人たちは戻って来るなという規定になっている。


 海浜自治区が設置されるに至る経緯は新王国自治区と全く違うので、自治区へ、または自治区から移住する手続きはそこまで厳しくない。

 ただ、出入りが激しいと自治区の意味もないので、永住目的で移住した永住住民は、移住してから五年の間は、特段の事情が無い限りは移住が許可されないことになっている。


 新世界推進機構の職務として海浜自治区に派遣される形で移住できるようにもなっているので、海浜自治区の治安維持部隊の大半は派遣住民として登録されているし、派遣住民の移住規制はさらに緩いそうだ。


 遺物管理局職員に関しては特例が規定されていて、相棒のAIがいる限りは遺物管理局職員として扱われるので、自治区には派遣住民としてしか住民登録ができない。永住住民となるには相棒のAIと別れる必要がある。

 

 人魚姫と呼ばれているアミラ・リラ・レラは、後進の歌手育成のためにラキアがレッスンしていた中でも将来の歌姫として期待されていた。

 旧世界のAIに適合する精神波長の持ち主であることが判明して、相棒のAIと引き合わされたときに音楽系AIのマスターに選ばれ、臨時職員として22歳で遺物管理局に入った。


 <私たちは世界だ>の歌が大人気になって、旧世界の楽曲にも注目が集まっていたので、遺物管理局は歌手として活動できる職員を歓迎した。

 だが、5年前に海浜自治区が設置されたときに、アミラは世話になったラキアが区長を務めることと、海浜自治区に歌劇用の大ホールが作られたこともあって、遺物管理局からの派遣住民として海浜自治区に移住することにした。


 失恋したのも移住の決め手となった。


 人魚姫アミラが歌うとドルフィー遭遇率が少し上がるらしく、デルシーでの勤務も多かった。

 そこでマークと出会って恋をしたのだが、アミラはふられてしまい、アミラはドルフィーたちを多く引き付けるほどの歌手になってマークをふりむかせようと、海浜自治区で修行をすることにした……?


「なんか、最後の結論がおかしくないか?マークはいまだにドルフィー一筋だろ。つまり、ドルフィーたちが恋敵なのに、ドルフィーたちを引寄せてどうするつもりなんだ。まさかマムのように恋は戦って勝ち取る方式を実践する気か?ドルフィーファンたちが知ったら大変なことになるぞ」


「違うわよ、恋敵は眠り姫よ。実情知ってるアタシたちは、マークは愛するドルフィーたちのために、昏睡しているあんたのことを気にしてるだけって分かってるけど、普通の人にそんな特殊事情が分かる訳ないでしょ!

 デルシー関係者も誤解を解こうとしたのよ?でもね、人魚姫が来ていても、眠り姫がいるだけでドルフィーがやってくるから、どうしてもあんたの方を優先しちゃうわけ。複雑な気分になっちゃうのは仕方ないと思うわ」


「オレは何もしてないのに、冤罪だろ!」


「だって、マムから情報来たけど、マークはユレスの身柄を確保するために、やる気に満ち溢れて雨の森に来たんでしょ!?アタシたちにはドルフィーのためだって分かり切ってるけど、傍から見たら情熱的な行動にしか見えないわ!」


「そうですね。私もマークとはライバル関係ではないかと聞かれることもありました。マークは同志ですし、むしろ親友に近いですと正直に答えましたけど」


「余計に事態が錯綜するとしか思えない」


「ユレスさんのせいじゃないけど、そうだね。眠り姫はアレクさんもマークも手玉に取った悪女っぽい感じに言う人もいるけど、ボクは昏睡しているのに何をどう手玉に取れるのかって諭しておいたよ」


「そうよ。アタシも眠り姫とマークはむしろ戦友って答えたし。でも眠り姫が不動覇帝ってことを誰も分かってくれないから、余計に事態は混乱したわね」


「それ、情報攪乱したって言えよ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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