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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第九章 獣姫と黒猫
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3 できる男


 オレが昏睡している間、デルシーでときどきオレを預かっていたことは聞いていたし、ドルフィー・セラピーを試してオレを目覚めさせようとしたことも知っている。

 新たな治療研究に協力するため、オレは昏睡中だが、デルシー勤務ということにして対応したのかと思っていたが、その実態は全く違っていたようだ。


 マークから事情聴取したところによれば、昏睡したままのオレを持ってデルシー海洋遺跡に入ってドルフィー寄せに使ったり、宿泊施設デルシーに設置したセラピー・ルームにオレを置いてドルフィーたちを呼んでいたのが実態だ。


 オレが昏睡すると同時にワトスンも休止状態に移行したから、子守猫が呼んだわけでは無い。

 昏睡しているオレを抱えてデルシー海洋遺跡に行ったら、ちょうどララが遊びに来ていたところで、昏睡しているオレを見て、慌てて仲間のドルフィーたちを呼んだらしい。


 以後、昏睡したままのオレを抱えてデルシー海洋遺跡に入るとドルフィーたちが集まり、その後もドルフィー遭遇率が通常の倍以上になるという効果が確認され、オレは昏睡しているのに定期的にデルシー勤務をさせられていた。


「……オレの人権ってどうなっていたんだ」


「これもユレスさんを目覚めさせるための試みだと思ってください!人権には最大限配慮しました。ユーリ捜査官かジェフ博士かアレク捜査官が抱えて連れて来る以外は許可が下りなかったので」


「待て、祖父さんと博士はともかくとして、そこにアレクが入ってくるあたりでオレの人権に配慮して無いだろ!?」


「ユレスさんはアレクさんとのお付き合いを了承したじゃないですか。俺たちはしっかり証拠の音声記録を聞かされましたよ。それはともかく、ユレスさんが職務に復帰したら、早めにララたちに会いに来てくれるようお願いしていたのに、雨の森で緊急任務が入ったそうじゃないですか。

 知能の高い動物の生態について相談したいというご相談が雨の森から来たので、リック博士が早急に解決してユレスさんをデルシーに連れて来いと俺を派遣しました。ユレスさんが来てから合流した方が話も早いと思って、森猿とか他の猿の情報とかしっかり調べて来たし、猿捕獲用の罠から仕掛けまで用意してあります!さっさと猿捕まえて、ドルフィーの楽園に行きましょう!」


「マーク、猿か人かはまだ確定していません」


「……ミヤリはもしかして、マークの計画を知っていたのか?」


「いえ、今初めて知りましたが、マークですから」


 そうだな、マークだしな……。


 取りあえずミヤリがいて助かった。

 マークの扱いが上手いので、宥めて誘導して必要な情報を引き出したが、マークは専門はドルフィーだが、オレの予定に合わせて雨の森に行くまでの間に、森猿についても他の猿についてもかなりの情報を調べて来た。


 マムがまとめた報告書を読んだマークの見解としては、森猿ではない猿の可能性が高いが、人である可能性は著しく低いそうだ。

 決め手は尻尾遣いである。ドルフィーでは無いが、研究局の専門家には分かるのだと納得することにした。


 だが、金色猿の背後に人がいる可能性もある。


 マークは目的のためにはどこまでもできる男なので、金色の猿と事前に聞かされていたので、ありとあらゆる金色の猿の情報を調べたが、リック博士に特別書庫の鍵まで借りて情報制限がかかった資料まで調べてきた。

 そうして見つけたのが、200年以上前に<知識の蛇>によって燃やされた森の記録である。


 その森には金色の体毛の賢い猿が生息していて、人の真似をする姿も見られたそうだ。そこに目をつけた<知識の蛇>が金色猿を捕獲して芸を仕込んで犯罪の手助けをさせた。


 警備局が、金色猿の生息する森に<知識の蛇>の秘密研究所があることを突き止めて突入したが、蛇は研究所を燃やして逃走した。消火が間に合わず、森は焼き尽くされた。


 その後、自然環境課が総力を挙げて森を再生し、保護した金色猿を森に返して様子を見守ったが、細々とであるが金色猿が数を増やしているのを確認している。


 だが、<知識の蛇>が再び金色猿を捕縛して使おうと考えることもあり得るという話だ。マムが感心したように何度も頷いて言った。


「マークったら、とってもできる子なのね。あたくし、感心しちゃったわ。しかも蛇にも詳しいとか、とっても頼もしくてよ。ええ、デルソレの件でも協力してくれたし、デルシーの支配人も褒めてたけど、ドルフィー専門とばかり思っていたの。猿もいけるなんて、素敵!今後は雨の森もよろしくね」


「俺はドルフィー専門ですよ。ただ、ドルフィーのために、できる男でいたいだけです」


 相変わらずのドルフィー愛だが、マムはマークを指導すべきだと思う。

 何故か意気投合してしまった二人は、猿を捕まえたらオレを即座に引き渡すことで合意に至った。オレの人権はどうなっているんだ。


「じゃあ、早速猿捕まえる罠仕掛けてきますから、ユレスさんは待っていてください!」


「あたくしも御一緒するわ!あなたたちは、ゆっくりしていていいわよ!」


 二人がきゃっきゃっ騒ぎながら勢いよく出て行ったが、オレたちは一体何をしにここに来たのだろうか。ガンド捜査官が遠い目をしながら言った。


「うん、ユレス君を連れて来て正解だった。捜査するまでもなく事件が解決した感じだね」


「現実逃避しないでくれ、ガンド捜査官。オレの身柄と引き換えに猿捕まえさせたところで、そこで終わりじゃ無いだろ」


「うん、分かってはいる。<知識の蛇>が何か計画してるかもしれないしね。新人のライルは蛇の話を聞くのは早すぎるけど、聞いてしまった以上説明するよ」


「ご安心ください。私がすでに説明済みです。私も新人の頃にユレス捜査官とデルシーに御一緒して、デルソレの事件に遭遇しましたからね。こういうこともあろうかと、先んじて説明しておきました」


「説明しておいたの!?いや、さすがに早くないかな、それ」


「10年前のことになりますが、マイクルレース場でプロメテウス工房相手にクラフター勝負をしましたが、そちらも背後に蛇がいたわけですし、クレア捜査官が新人だけど私も知っておいた方がいいと教えてくれました。ユレス捜査官と御一緒する以上、次がまたあると」


「……なんかごめん。オレが蛇を引っかけているわけではないが、何故かそういう事態に突入するのは間違いない」


「ユレス捜査官のせいではありません」


「そうだね、ユレス君は蛇を引っかけてるわけじゃなくて、知らない間に踏んでるだけだし。姉御も絶賛するくらいの不意打ちだよ」


「それ、踏んでることに気づいていないオレにも不意打ちなんだが。大丈夫か、ライル。なんか目がうつろだが」


「だ、大丈夫っす。あれがマークさんすか。さすが、姉ちゃんが絶賛するだけの男っすね」


「あれはまだ序の口です。ドルフィーを前にしたときにマークの真の実力が発揮されるのです」


「10年の間にマークに何があったのか、怖くて聞きたくない。話を戻そう」


「そうだね。<知識の蛇>の捕縛は警備局の仕事だけど、雨の森で何か企んでいるとしたら、その狙いを推測するのは僕たちの仕事だ。頼んだ、ユレス君」


「オレに投げたら新人指導にならないし、オレの蛇の認識も10年前で止まっている。まずは、そこをまとめて説明してくれ」


「分かりました、ライル」


「はいっす」


 ミヤリに指導されているというより、躾けられているという風情のライルだが、さすが指導が行き届いていて簡潔にまとめてくれた。


 <知識の蛇>は現在3つの勢力に別れている。


 新王国設立に協力した大半の<知識の蛇>は、新王国自治区にそのまま組み込まれて、マリナ区長の管理下にいる。

 犯罪をした場合の苛烈な罰則規定に慄いたのもあるが、まっとうな研究生活を送りたいと考える蛇も意外に多かったようだ。


 自治区設立までの間に旧王国遺跡の拠点から抜け出した蛇もいるが、ごく少数の集団だけだった。祖父さんが言うところのドクター・マッド直属の配下とか、好き勝手やり続けたい生粋の<知識の蛇>構成員だ。

 少数ではあるが、ドクター・マッドと合流して、別の拠点に潜んでいると推定されている厄介な勢力である。


 新王国設立計画に参加せず、世界管理機構に留まっていた<知識の蛇>も一つの勢力となっていて、数は少ないが大物もいた。

 過去形になってしまうのは、オレが昏睡している間に、イーディスと天使型人工物とドクター・マッドの行方を探す祖父さんとアレクに襲撃されて、壊滅状態になったからだ。


 新世界推進機構内に残る<知識の蛇>は片っ端からやったらしい。


 警備局と遺物管理局が合同捜査し、新たなセクサロイド型の人型人工物が秘蔵されていないかと狙う姉御と、書類仕事の鬱憤晴らしに暴れ回りたかったばばあもバトルドレスで参戦した。


 そこまでいくと、うっかり蛇に同情したくなるが、一応人道的配慮はあって、更生できそうな人は世界研究局なり治療局でまっとうな研究をする道も用意したそうだ。


 リック博士は荒んで自分本位に暴走する精神もドルフィーが癒してくれると主張し、捕まった蛇たちで人体実験、いや、更生教育をした。

 助手のマークの献身的な教育もあって、見事に改心して、新たなドルフィーファンとなった……って、話が何か違う方向に行っている。


 ライルは絶好調で語ってくれた。


「姉ちゃんが、感動の光景だったと何度も語ってくれたんすけど、マークさんの熱い情熱に感化された犯罪者集団がですよ、海で跳ねまわるドルフィーたちを追いかけて浜辺を走るとか、俺、聞いているだけで胸が熱くなったっす」


「……ミヤリ」


「はい。ユレス捜査官のお勧めもあって、マークとリマには旧世界のイルカ系映画を片っ端から見せました。アドニス管理官が次から次にお勧め作品をご紹介してくれましたので、かなりの数を見ましたね。その中に夕日に向かって浜辺を走るのもあって、二人ともとても気に入っていたのです。

 種族を超えた友情とか熱い青春物語系も多かったので、マークの説得演説が心に響いたのも納得です。私も見守っていてうっかり涙しました。そこまで見越してお勧めしていたとは、さすがユレス捜査官です」


「そんなの見通せるわけが無いことに気づいてくれ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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