表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
190/371

18 帰る場所


 ボーディがオレのために秘蔵の青茶を出してくれたので、一息ついた。


 アレクとロージーは腕輪で忙しく連絡とりあっているし、そろそろお開きでいいのではないだろうか。

 オレの隣で甘味を食べているローゼスもそう思ったらしい。


「んー、事件のことはすっきり片付いたことだし、二人とも忙しそうだから、今日はここまででいいと思うわ」


「そうだな」


「……お見合いだということを忘れていませんか?」


「そうだよ、ローゼス。しれっとなかったことにしようとしないで欲しいな。ボクたちの関係を先に進めるために、事件解決が必要だっただけで、本題はここからだよ」


「無理、アタシ、もう疲れたわ。ロージーとシリスのことだけでも頭一杯になっていたのに、さらに訳分からないヨーカーン大劇場の事件のことまで聞いて、限界に至ったのよ。ボーディ、助けて」


「仕方ありませんね。今回はローゼスには不意打ちの話が多すぎました。よって、ここまでです。お見合いの席を設けるだけの理由と状況をローゼスに納得させただけで良しとすべきですよ、ロージー」


「ボーディさんに言われたら仕方ないかな。ま、後は家でじっくり話せばいいしね」


 ローゼスとロージーは仲良し兄妹だったし、ローゼスは妹の身を案じて成人後も同居していた。今もまだ同居しているのは、ロージー的計画の一環かもしれない。

 オレですら、このままでは親友の身が危険だと思うが、オレより分かっているローゼスは、オレの首にがっちり腕を回して叫んだ。


「アタシ、ユレスのところに泊まるわ!」


「……ローゼス、オレの家は無いぞ」


 オレが住んでいた自然区内の研究拠点の家から引っ越すことになっていたが、オレが昏睡した後、祖父さんとボーディで引き払う手続きを済ませていた。


 オレが昏睡から目覚めた後はしばらく遺物管理局の治療室にいたし、その後<菩提樹>に連れて来られて、ボーディから今までの経緯を聞かされた。

 それから治療局で精密検査を受けたり、警備局長宅で警備局長直々に事情聴取を受けて、昨日は特別療養所で精神波長の測定検査したりと、各地を転々としていた。


 オレが自宅を用意する隙も時間もなかったが、不要だと判断されていたとは考えたくない。それから、アレクの綺麗過ぎて怖い笑顔を見たくない。オレの発言に不機嫌になったのか、圧力をかけてきて怖い。


「私の家があなたの帰る場所ですよ、ユレス」


「ボーディ!」


「仕方ありませんね。ユレスにとっても事態は急展開過ぎるのは分かっています。ユレスが犯人を特定しましたので、わたしが追加の条件をつけますね。ローゼスとロージーはアレク監察官の家に居候しなさい。アレク監察官はそれを受け入れなさい。これでユレスの要求を補強できますし、ユレスにしてもローゼスにしても、二人きりの状況に置かれて追い詰められずに済みますよ」


「さすが、ボーディ!アタシはそれでいいわ!」


「私が不在のときにユレスを見ていてくれる人がいるのは助かりますので、歓迎します」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 ボーディとアレクとロージーは、そうなるよう裏取引でもしていたのではないかと思うくらいにあっさりと決まった。


 早速連れて行くとアレクが言い張ったので、場はお開きになった。


 ローゼスとロージーは身の回りの品を取りに家に戻ってから来ることになって、オレの早く来いという視線に、ローゼスは分かってるわ、最速で行くわ!という視線を返して別れた。


 オレは転送装置に連れ込まれたが、見慣れない部屋に移動した。腕輪で認証して扉から出ると、どこかで見たような廊下だった。


「ここ、どこだ?」


「私の家です。目覚めた後のあなたはぼんやりしていたので、あまり記憶がないのかもしれませんが、10年前にも来ましたよね」


 居間に連れて行かれたら、内装は結構変わっていたが、確かに見覚えのある部屋だった。

 特にソファの上にいる、オレ色の猫型人形には見覚えがある。その隣に座らされたら、監視猫がオレ色の猫型人形に擦り寄って、にゃあと鳴いた。


「まだ、無事だったのか」


「どういう意味ですか。ユレス猫は寝室に連れ込んでいますけど」


「無事じゃ無かった……」


 深淵な話題に踏み込みそうなので、話を逸らして、転送装置のことを聞いたら、監察局の監察官の家にも設置許可が下りるそうだ。

 職務上で緊急に必要になると判断されたのもあるが、ベルタ警備局長がそうした方がいいと進言した。


 そして、アレク捜査官に、監察官になれば転送装置を家に設置できることを教えて、昏睡しているオレの身柄を預ける最低条件は転送装置がある家だよと迫ったので、アレク捜査官は面倒な人たちがいる新王国自治区に関わりたくないものの、転送装置欲しさに監察官になった。


「そんな理由で監察官になったとか、知りたくなかった……」


「私にとっては切実な理由です。転送装置があるせいで緊急呼び出しが多くて面倒ですが」


 呼び出しが多いのは、この家の転送装置に移動できるよう設定してある人がごく限られているからだ。

 アリアとジェフ博士一家と警備局のベルタ警備局長、ボーディと祖父さんとローゼスとロージーくらいに限定している。アレクの交流関係というより、オレの交流関係を意識した設定なのが分かりやすい。


 それ以外の客は玄関から来るが、オレは基本的に対応しなくていいと言われた。

 私室は二階にあるし、二階の階段室にはジェフ博士の屋敷のような認証機能ついているとのことで、アレクに来客があるときはそっちに退避した方がいいのは理解した。引きこもりには親切な設計だ。


 オレが外出したいときには、必ず転送装置から出かけるように言われたが、転送装置が使用されると、誰がどこに移動したかが、アレクの腕輪に報告されるそうだ。

 監視されているに近いが、オレにはそもそも監視猫がついているので、今さらである。監視猫はオレ色の猫型人形に擦り寄って満足そうだが、これは監視役なのだ。


 アレクがオレの反応を窺っているので言っておいた。


「オレは監視役が増えても何とも思わないから気にするな」


「いえ、気にしてください。監視では無く保護していると解釈して欲しいですけど」


「監視猫も一応職員保護のためのものでもあるし、同じだろ。職員が行方不明になったら、監視役の発信信号から居場所を探すこともできる。だが、旧世界遺跡は発信信号を無効化するものもあるし、旧世界遺物で発信信号が攪乱されることもあるので、絶対は無い。祖父さんが行方不明というのは、監視役の発信信号も追えなくなったということだ」


「ユーリ捜査官の手がかりも見つかっていないと聞いていますが……探しに行くのはクレア捜査官にお願いした方がいいです。私も新王国自治区の問題を片づけたら協力しますから」


「オレは自分の実力を弁えてるし、オレが探しに行ったところで見つかるものでもないと思っている。アレクも察しているだろうが、祖父さんは自ら姿を消すくらいやってのけるぞ」


 危険視されそうなことを言ったが、アレクもあっさり頷いた。


「知っています。<知識の蛇>の監視から逃れて不意打ちするために、味方からも隠れるそうですね。それだけでなく、未発見の旧世界遺跡を見つけて、勝手に単独調査してから連絡してくる、大変な問題児だと聞きました」


「オレとワトスンが出会った未発見遺跡も結局そうだったしな。祖父さんは報告より先に目的優先で行動するから、ボーディ前局長は祖父さんのことでかなり苦労していたようだ。

 祖父さんは、即座に動かないと間に合わないだろって主張なんだが、ボーディも9歳の孫が旧世界遺跡に一人で落ちた状況だと叱れませんと諦めた溜息をついていた。

 祖父さんは緊急事態の渦中にあるほど判断が冴えている。ボーディもそれが分かっているから祖父さんは野放しになっていたが、ベルタ警備局長がろくでもないじじいと言うくらいには手に負えない祖父だ。オレにはなるべく隠していたようだが」


「そうですね、孫が生まれてからは自重しているとかまともになったというご意見多数でしたが、孫が昏睡しているとろくでもないじじいになるようです。孫に対しては、しっかりと保護者をしていましたけれどね。鬱陶しくユレスの周りにいましたし、職務に出かけても寄り道せず戻って来たので、ボーディ前局長も褒めていました。ユーリ捜査官にとってユレスは帰る場所だから当然だとも言っていましたけれど」


「オレも祖父さんも、お互いしかいないからな」


「私のことを忘れていませんか?ろくでもないじじいも引き受けるつもりでいますので、私を帰る場所にしてください」


「え……さすがに祖父さんまでって、特殊性癖過ぎると思うんだが」


「何を変な方向に解釈しているんですか。……ボーディ前局長が言うとおり、あなたの視点では事態が急激に変化し過ぎてついていけないのも分かります。一度に多くを求めないよう努力しますから、まずはこの家があなたが帰る場所だと認識してください」


 アレクがかなり譲歩しているのは分かったので、素直に頷いた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ