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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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16 リリアの思惑


 事件後、ヨーカーン大劇場は現場検証のために封鎖された。

 そして、事件がすぐに解決しそうでいて理解不能の状況であったことから、何らかの手がかりか痕跡を消さないよう封鎖状態を維持していた。


 ヨーカーン大劇場の使用申請をしていた人たちも困るので、早急に事件を解決したい状況である。


 現場封鎖のために警備局警備課が人員を配置しているので、アレク監察官から連絡を受けて即座に調査に着手したそうだ。


 ボーディが、きっとすぐに連絡をくれるのでお酒の追加を注文して待ちましょうと仕切ったが、酒と追加の料理が届いた頃には第一報が来たあたり、警備局は頑張っていると思う。


 だが、アレクは憂い顔で報告してきた。


「痕跡を発見しました。取りあえず映像記録を先に送ってくれましたが、すぐに解析して結果を送ってくれるそうです」


「せっかく新たな手がかりが見つかったのに、何でそんな顔してるんだ?」


「何で気づかなかったのだろうと、反省しているからですよ。現場にいる警備課もそうですが、10年前のヨーカーン大劇場占拠事件のときに、私がキャットウォークを通って移動していたわけですし、思いついて良かったはずでした。当事者の私は今、とても恥ずかしい気分でいます」


「それ言われると、アタシとボーディも同じ立場になるわ!言い訳みたいなことを言うなら、大ホールは警備局が見張っていて現場に全員いたというなら、アレク班長みたいに潜んで天井を移動する人がいるとか思わなかったのよね」


「……一人、いましたね。更衣室に引っ込んでいたヒミコなら、潜んで天井を移動できました。ですが、10年前の事件ではヒミコは人質として震えていた側でしたので、ヒミコがキャットウォークを移動するという発想自体がありませんでした」


「ヒミコなら、それが可能だったって状況は納得したけど、でもボクには、何がどうなったのか全然見えてこないよ。まあユレスさんは分かっているのだろうけど、よく思いついたね」


「オレとしては、何で血族がそれを思いつかないのか疑問だ。血族って身体能力高くて何でもできそうな印象だから、ヒミコも血族ならそれくらいできて当たり前だと思ったんだが」


「ユレスさん、それは血族を過大評価し過ぎだって。アレクさんは血族の中でも飛びぬけてできる方だから、これを基準に考えたら駄目だよ」


「……ロージー、その評価は自信喪失中の私には追い討ちです。いえ、思い返せば、ユレス相手にはいつもそうだったので、10年ぶりにそれを思い知らされただけでした」


「謙虚で良いと思いますよ。だから、ユレスは追い討ちかけないように説明してあげなさいね」


「何をどうしろと言うんだ。普通に解説するが、オレとしてはこれは自爆事件だと言いたくなるが、害意があったのはヒミコだと思う」


 アレクが警備課が解析結果を送って来たと、オレの腕輪に情報を渡して来たのを見ても確信した。


「リリアに害意があったかどうか否定しきれないが、衣裳に刃物を仕込んでいたわけだし、ヒミコに対して害意があれば、眠り姫のための飲み物とやらをヒミコに取り上げられたときに、刃物を取り出しても良かったはずだ。だが、それはせずに掴みかかった。オレとしてはその方がリリアらしいと思う。頭がお花畑だが、偽証と妄想の証言はしても、直接刃物で切りかかるというのは違和感だ。

 そして、ヒミコの方はリリアから取り上げた酒瓶を振り下ろそうとしたんだろ?酒瓶も鈍器になるし、リリアに対して害意が無ければ、そういう真似はしづらいと思う。まともな理性があるなら、叩きつけたら怪我するかもしれない酒瓶よりは、何も持っていない方の手を使うはずだ。酒瓶を振り下ろすのは殺意認定できるし、だからこそ、シリスも慌てて取り上げたのだろう」


「確かにそうだね。この訳の分からない事件の捜査してる関係者も、どちらかと言えばヒミコの方に殺意があったという意見が多いし。アーデルも、ヒミコの殺意を感じたからリリアは護身用に刃物を忍ばせていたんだって意見だけど、まさかそれが正しかったってことかな?」


「違うと思う。リリアはあくまでリリアだ。ローゼスはオレが茨姫に何を聞きたかったのか分かっただろ?」


「ええ。アタシもリリアはヒミコに対して害意は無かったと思うわ。でも、アレク監察官に害意というか思惑はあったと思うの。さっき、イバラが愚かな女の話をしてくれたけどね、なけなしの理性も無くなったリリアならやりかねないと思うのよ。自治区の外で自治区の住民が怪我を負わされたとなったら、アレク監察官が来て心配して助けてくれるわ!的な妄想の発想ができるのがリリアよ」


 アレクがものすごく嫌そうな顔をして、オレをじっと見つめて来たが、オレじゃなくてローゼスに訴えろよ。

 

 ロージーが宥めるようにアレクに言った。


「アレクさんには嫌がらせでしかないだろうけど、ボクもその可能性は高いと思ってしまったよ。リリアを担当している治療官が、リリアの妄想が入り混じった発言を取りまとめて報告してくれるんだけど、こんなにひどい怪我を負ったのに、どうして王子様が助けに来てくれないのかしら。でもこんな怪我をした姿を見られたくないから、王子様に来たら駄目って伝えてちょうだい!ああ、でも王子様を心から待っているのも本当なのって錯乱したこと言っているみたいだ」


「……精神異常としか思えない発言ですが、そういうことだと納得して先に進みましょう。こういうのはね、深く考えてしまうと、引きずられて精神に異常をきたしますよ。どうして、わかっていないはずのユレスが分かるのか、わたしも疑問ですが」


「それも考えちゃ駄目だと思うわ、ご隠居様。えーと、リリアが何をしたかったのか、アタシも混乱してきたから解説よろしく」


「オレだってリリアの思惑なんて、さっぱり分からん。単に確定した情報を繋ぎ合わせて、リリアらしい物語に仕上げただけだ。

 一応頑張って推測してみると、リリアはアレクの眠り姫になりたかった。そのためには昏睡する必要があるので、高濃度の睡眠薬を仕込んだ特別な飲み物を用意したと仮定する。

 ただ、それを飲んで昏睡したとしても、リリアが自分で睡眠薬飲んだに過ぎないから、アレクに連絡が行くことも無い。アレクに振られて睡眠薬を飲んだとなれば別かもしれないが、接点が全く無いならそれも無理だ。

 リリアがそこまで考えたかどうか悩ましいが、自治区の外で自治区の住民であるリリアが怪我をさせられた事件でも発生したら、監察官のアレクに連絡が行くと考えるのは妥当な判断だと思う」


「そうだね、実際、アレクさんはそれで引きずり出されたようなものだし。でもユレスさんが言う通り、リリアがそこまで考えたっていうのはすごく違和感だけど、取りあえずそういう状況って仮定して話を続けてよ」


「リリアの計画としては、遅効性の睡眠薬を飲んでおく、照明係が照明を消して真っ暗になったところで、衣裳に仕込んでいた刃物を取り出して自分に傷をつけてガラスの棺の中におさまる、そして照明がついた時には棺の中で血を流して昏睡している眠り姫がいる、という流れだったと推測した。暗闇の中で刃物取り出して傷をつけられるのかとか、都合よく昏睡できるよう場を制御できるのかとか、突っ込みどころはたくさんある杜撰な計画だけどな」


「そうね。でもアタシ、リリアが完璧な計画を立てる方が違和感だから、そういう杜撰な計画立てて、絶対上手く行くと自分を過信してやらかす方が納得よ。それから、杜撰な計画過ぎて、リリアが予定していた方向に行かないこともね」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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