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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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15 怪しい二人


 ロージーが説明している間に、アレクが警備局の捜査資料をオレの腕輪に丸ごと寄越してきたが、これで何をどう捜査しろというのだろうか。

 現場にいた警備局が万全の体制の元ですべてを目撃していて、即座に現場確保して事情聴取までしているのに、オレに何をどうしろと?


 オレが資料を展開して確認しているのを横目で見ながら、ローゼスが言った。


「アタシね、これはユレスでも分からなくて仕方ないと思うの。というか、シリスは災難にも巻き込まれただけで、怪しいのはヒミコとリリアとしか思えないし、二人を締めあげて証言取るしかないわよ。

 でも分かってるわ。両方とも顔面潰されて精神錯乱状態でまともな証言は期待できないし、何か企んでいたとしても絶対言わないか、誰かのせいにして泣いて誤魔化す子たちだものね」


「はい。大変厄介ですし、ろくな証言も得られないので、事情聴取しない方がましだと思っています。捜査資料は新王国自治区側にも渡してありますが、優秀な捜査官であったはずのアーデルも解明できず、リリアは被害者だ、だから、リリア以外が犯人だと主張するだけです。

 ただ、捜査資料を見て貰えば分かる通り、リリアは衣裳に刃物を隠していました。アーデルは護身用だと苦しい言い訳をしましたが、現場に凶器を持ち込んだ事実は否定できませんでした」


「え!?刃物隠してたの?何で舞台稽古に刃物持ち込む必要があるのよ!?」


 ローゼスが捜査資料を覗き込んで来たが、凶器のようなものを持っていたのはリリアだけでは無かった。


「ヒミコも手に鈍器持っていたぞ。ただ、ガラスの棺を壊したものではないと解析されているが」


「ええっ!?何なの、その殺伐とした状況は!?んー、これ、旧世界遺物の銅像じゃない。そう言えば、ユレス捜査官の旧世界事件記録で、金の像で撲殺事件みたいのがあったから、そう思っちゃうのも分かるけど」


「ローゼスからその話を聞いたことがあったから、ボクも凶器かもしれないって思ったけど、ヒミコの父親は、旧世界でやっていた映画作品審査会で優秀な役者に贈られるものだったから、舞台に出る娘にお守りがわりに持たせたって主張してるよ。娘は更衣室でその銅像を持って演技に集中しようとしたところで襲撃されて、舞台袖に引きずり出されたに違いないって推測だね。

 ヒミコが更衣室に入る前も後も関係者全員舞台にいたのに、誰がどうすれば引きずり出せるのかについては、何か仕掛けがあるんだ、舞台にいても真っ暗になっている間にヒミコの足首に巻きつけた茨のロープを引っ張って、舞台袖まで引きずったんだって苦しいこと言ってるけど」


「それ、無理があるわ。だって、衣裳を変えるために更衣室に行って装飾の茨を巻きつけたんでしょ?やるならその後じゃないと無理よねぇ。でも、警備局がしっかり監視していたから、誰にもその隙が無かったわけだし。大体、ヒミコの顔面を潰したのはどう説明するのよ。

 んー、捜査資料だと、茨のロープは結構長いみたいだけど、更衣室と舞台との距離もちゃんと確認してあるわよね?」


「はい。更衣室からヒミコを引きずりだした可能性も一応検討されましたが、ロープの長さが足りません」


 オレの代わりにローゼスがあれこれ突っ込んで聞いているが、どれも警備局とアレクも検討済みらしく、すべてに回答が返って来た。


 そして、ローゼスが降参と言いたげに手を挙げて言った。


「駄目だわ、警備局が監視している最中の事件だから、証言はしっかり取れてるし、証拠の映像記録もあるにも関わらず状況がまったく説明できないわね。ロージーが言った通り、証言と状況が錯綜してるって感じねぇ。

 確定してるところはきっちり確定してるから、ヒミコとリリアが怪しいとしか言えないし、この二人のどっちかが犯人か、二人とも犯人で相討ちしたんじゃないかって考えちゃう」


「その二人の身内以外は全員そう思っていますが、証拠も証言も無いから確定していない、冤罪だというのが二人の身内の主張です。お互いに自分の娘なり妹は犯人にしたくないので、なすり付け合いをしていますし、二人の対立が新王国自治区の安定を揺さぶっている状況です」


「何があったのか、なんとかつじつまの合う説明をつけたくても、確定している証拠や証言が強固だから、それを繋げて上手く話を作ることもできなくてさ。

 ヒミコとリリアから事情聴取しても、何も判明しないどころか、事態はさらに悪化するだけかもしれないし、ユレスさんに助けを求めるしかなくなったところなんだ」


「オレに無茶振りし過ぎだと思う。ただ、気になることはあるから、茨姫に聞きたいんだが」


「え?イバラに?さっきからマスターのアタシが奮闘しているのに、馬鹿ですかとか、無意味なことを検討していますねって毒吐いていたのよ。イバラは女の醜い泥沼抗争とか大嫌いだから仕方ないけど。協力してくれるとも……あら、ユレスが助けを求めるなら仕方ないって言ってるから、呼ぶわね。イバラキ、ユレスに協力してあげてちょうだい」


 怜悧で美しい女性の立体映像が優雅に一礼してきた。


 話を聞いていたせいか、ドレスに茨の模様を映し出しているあたり芸が細かい。茨姫は礼儀作法に厳しいのでオレも一礼して、猫様を呼んだ。

 茨姫は猫様至上主義なので、ワトスンのマスターであるオレには結構甘い。ワトスンが甘えるように、にゃあと鳴いたので機嫌よくオレに言った。


『わたくしに何を聞きたいのですか?』


「以前、リリアが冤罪をかけてきた事件のときに、茨姫が言っていた話を聞きたい。リリアは我が身を傷つけてまで誰かを犯人に仕立てあげないだけ、理性が残っていると言っていたな?」


『愚かで醜い女には変わりないとも言いましたが、旧世界では傷は即座に治らないので、人々は怪我に対して敏感に反応して、注意を強く引き付けます。自傷行為を繰り返して離れて行こうとする恋人の心を取り戻そうとした事例は、多種多様なものを記憶しています。結婚してくれないと死んでやると迫る事例すらありますし、死んで相手の精神に傷か記憶を残す意図でもって自殺をした者の事例もかなりあります。このようなこと、高貴なる猫様のマスターは知らなくて良いと進言します』


「ありがとう、オレも心底関わりたくない」


 オレに同意するように子守猫がにゃあと鳴いたので、茨姫は満足そうに一礼して立体映像を消した。

 ワトスンがオレを見てにゃあと鳴いたので、立体映像の相棒に手を差し出したら、擦り寄って来た。


「ワトスン、仕事だ。ヨーカーン大劇場でアレクを案内したときのように、オレを案内しろ。場所は舞台の上だ」


『にゃあ』


 にゃあとしか言わないが、AIと遺物管理局の職員たちが皆ワトスンは賢いと証言する通り、腕輪に組み込んだ機能を使って大きめの画面を展開してオレの望む映像を表示してきた。


 アレクがくれた捜査資料も取り込んだのか、リリアが用意した棺の位置情報も表示してある。

 黒い子猫が先導するような映像も構成しているが、ときどき芸が細かい。アレクにとっては見覚えのある映像だろうが、途中で気づいたらしい。


「……まさか、そういうことだったんですか?」


「分かったなら、オレの代わりに解説してくれても」


「いえ、細部が分かりません。取りあえず、追加調査を手配します。舞台の上、キャットウォークの資料はありませんでしたから、調査していないはずですし」


「え、え、ちょっと、もしかして、ユレスったら、分かっちゃったの!?」


「黒猫さんはときどき仕事するからな」


 子守猫がにゃあと鳴いた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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