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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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9 ロージーの自白


 ロージーのとんでもない発言に、オレとローゼスは言葉も無かったが、ロージーとアレクは冷静に説明を続けた。


「ロージー、まずはそこに至るまでの経緯を話した方がいいと思います」


「そうだね。実は、ボクたちは8年?いや7年前には、ボクとローゼスが兄弟ではない証拠も捜査結果も取り揃えていたけど、新王国自治区関係で誰もが忙しかった頃だし、やむを得ない事情もあるから、ローゼスに打ち明けるのは後回しにしたんだよ」


「な、なんでよ。確かに衝撃の告白だから、アタシもあの忙しい時期に告白されたら頭が爆発しちゃったかもしれないけど、可愛い妹に関わることだし、ちゃんと話を聞いたわよ!ええ、まだ、全然実感無いけど、アタシたちが血統的に家族でなかったとしても、家族には変わりないもの!どういう事情があってそうなったのかさっぱりだけど、どんな事情があっても、アタシ、ロージーのことは大事な家族だと思ってるわ!」


「そう、それ。ローゼスは確実にそう言うから、打ち明けるのをやめたんだ。ローゼスに育てられつつ、結婚するならローゼスがいいなと思っていたけど、実の兄だし、それは無理なのも分かっていた。

 それでも諦めきれずに、女に性分化して実の兄で無ければ結婚できる方向に進んだわけだけど、実の兄弟でないと分かったら、別に悩む必要ないよね?ローゼスはいけてる男の話をするし、ボクが男になったらもっといけてるはずだと思っていたから、男に性別変更する治療を受けてから、打ち明けてそのまま口説くことにしたんだよ」


 オレは既に話についていけてないが、義務感から突っ込んだ。

 ローゼスが理解不能という顔で固まっているからな。


「ロージーが男になったとしても、ローゼスも体は男だから、結婚して子作りは無理では?」


「ローゼスの自己表現を尊重したいと思いつつ、心が乙女なら、体も女になってもらってもいいと思ってね。アレクさんを見習うことにしたんだよ」


 ロージーに何を吹き込んだんだ、この性犯罪者め!というオレの視線を正確に読み取ったアレクが口を開いた。


「言っておきますが、私は無理も無茶も無体も強いていません。私と向き合って交流して、女に分化するかどうかの機会をくれるはずのユレスが昏睡したのがいけないんです。私はアリス事件の捜査を進めて、約束を守っていました。ユーリ捜査官もそれは認めてくれて、葛藤の果てに私に機会をくれましたし」


「祖父さんのことはどうでもいいが、オレに何したんだ!?」


「落ち着きなさい、ユレス。何もしていないとは言いませんが、やったとしても民間伝承とか、古代の呪術とやらで女に分化しやすいとされていることを片っ端からやっていただけですから」


「古代の呪術とか、聞くからに危険そうだろ!?」


「特別療養所でユーリ捜査官に対してやっていた斬新な治療法とさして変わりませんし、効果もありませんでした。ただ、ロージーは効果があるものを持ち込んだようですね」


「ローゼスを女にしようと企んだのは分かるが、そこで何でオレまで巻き添えなんだ!?まさか、兄に使う前の実験台に」


「そこはボクを信じてよ、ユレスさん!ユレスさんは丈夫じゃないし、実験台にするなら迷わずローゼスを選ぶから。人体実験に使うなら、もみ消し可能な身内からっていうのが治療局の鉄則だしさ。

 ボクが性別変更治療を受けていたから、担当の治療官に治療に使う薬剤とか素材関係について話を聞いたり協力するようになったんだけど、男ではなく女になるのを促進する新規素材ができたって話を聞いたんだ。男に性別変更治療をしているボクには効果なくて残念だろうが、誰か治研協力してくれる男に心当たりがないかと相談受けてさ。花の芳香とか蜜に効果があると聞いて、ボクは花束を貰ってきてローゼスにあげたんだ」


「しっかりしろ、ローゼス!ロージーから花束貰った記憶はないのか!?ローゼスはときどき料理に花を散らすし、うっかり食べたりしていないだろうな!?」


 ロージーはそれを狙って、ローゼスに花束を渡したに違いない。

 オレに揺さぶられてローゼスがはっと我に返ったが、がくがくと首を振った。


「駄目よ、分からないわ!だって、ロージーはよく女の子に貰ったとか、渡そうと思っていた相手の都合がつかなくて会えなかったって言って、アタシに花束くれるもの!

 ええと、でも待って、アタシ、分かっちゃったかも!ユレスが昏睡している間は、ロージーがくれた花束をそのまま、あんたのところに持って行ったりしたのよ!眠り姫の寝台だから華やかに飾りたいじゃない?ロージーもユレスにもあげるために、たくさん花束くれているのかと思っていたわ!」


「うん、ユレスさんのところに花束が行くのは、それはそれでいいかとは思っていたけどね。あの花束がユレスさんのところに行くとは思ってなかったよ。ローゼスに、これをサラダに散らして食べたら美味しいと思うよって言ってあげたのにさ」


「あ、思い出したわ。アタシ、それ、ユレスのところに持って行って枕元に飾ったわ。だって、甘くて美味しそうなオランジェの香りがしたんだもの。ユレスはデルシーのオランジェ好きでしょ?美味しい匂いで目を覚ますかしらって思って」


「親友のお気遣いですね。私も、デルシーからオランジェを採取してきて絞りましたが、反応はありませんでした」


「デルシーの魚の匂いは部屋が生臭くなるって却下されたわよねぇ。……って、やだ、そう言えば、その数月後くらいに、ユレスが性分化始まったかもって治療官が言っていた気がするんだけど!?」


 思わず、ローゼスを揺さぶっていた。


「ローゼス、何してくれてやがるんだ!?」


「ユレス、ローゼスは花束を持って行っただけです。ばれる前に私も自白しておきますが、私はロージーから情報が回って来たので、眠っているあなたのところに行って花の蜜を舐めさせておきました」


「ボーディ!これ犯罪の自白だろ!?」


「落ち着きなさい、ユレス。実はわたしもその場にいたのです。アレク監察官が旧世界の物語のような真似をしましたが、眠っている子に同意なくキスするよりは紳士的な行為と判断して、いいことにしました。

 それから、ユレスが子どもの頃、花束を貰って花粉にくしゃみが止まらなかったのを思い出して、くしゃみで目が覚めることを期待しました。それで、わたしも花でユレスの顔をくすぐってみたのですが、無反応で残念でしたね」


「それ、ボーディも共犯だろ!?」


「ごめんね、ユレスさん。共犯者が意外に多いのが分かって、ボクは少し安心した。でも、研究していた治療官にこっそり相談したけど、強制的に性分化させる効果は無いって確認したから、きっとそういう流れだったんだと思うよ。ユレスさんには、女の子姿の方が似合ってるし、可愛いよ」


「無理やりオレを褒めるより、その研究内容を聞かせて貰おうか」


 ロージーが白状したところによれば、性別変更治療にかかる時間を大幅に短縮できる効果があるそうだ。

 大体10年から12年くらいかかると言われている性別変更治療だが、女への変化に限定して、その期間を5年から6年に短縮できるそうで、治療局で正式に治験が始まっている。


 固定された性別を変更できるようにする効果は無いので、ローゼスに食べさせたところで女になるわけでもなかった。

 ただ、未分化型という特殊な状態のオレが性分化するきっかけにはなったのかもしれないというのが、ロージーの見解だ。未分化型の子どもが摂取すると、本人意志によらず女に分化する可能性があるとして、研究している治療官には忠告はしたらしい。


「つまり、ユレスさんは子どもたちが望まずに影響を受けるかもしれない事態を、未然に防いでくれたんだよ」


「ええ、体を張った献身ですよ。立派になりましたね、ユレス」


「そういうことにして誤魔化そうとしているだろ」


「ユレス、私はいただいた機会を最大限活かしたのだと思ってください」


「そう言って流そうとしているな?オレは、血族は姫様以外、ろくでなし揃いだと想定して行動すべきではないかと思っている」


「そこで、マリナだけ例外にするのは不公平だと思います」


「でも、マリナさんは立派だし、いい人だよね。ボクも彼女だけは例外でいいと思うんだ。ユレスさんに言わねばならないことを自白して、少し気が楽になったから、ボクの実の両親のことについて、そろそろ踏み込んだ話をするよ」


 姫様の話にもなりそうなので、オレは真面目に話を聞く態勢を取った。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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