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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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8 ロージーの告白


 話が逸れるが、どうしても言わずにはいられなかった。


「ロージー、変態の存在について、オレに警告してくれても良かったと思う」


「まずローゼスに相談したら、いいのよ、これも経験よ!って言っていたからいいことにしたんだ」


「ローゼス!」


「だって、あんなに分かりやすかったのに、分かってないユレスがいけないのよ!いいじゃない、アレク捜査官は紳士だし、アタシたちが見守っていることも踏まえて行動していたから、これも経験と思って様子見でいいかって結論に達していたのよ!ボーディなんて、<菩提樹>で二人を引き合わせたときから分かっていましたとか言っていたわ!」


「はい、とても分かりやすかったので、アレク班長がその後何度か<菩提樹>にいらしたときに、ユレスはデルシーで休暇の予定だと教えてあげました。デルシー支配人にも連絡して、ユレスを指導するようお願いしていたのですが、どうして事件を拾ってしまうのでしょうね。結局わたしも指導しろと、投げ戻されてきましたよ」


 ボーディとデルシーの支配人は、旧世界管理局職員でない人と交流して、結婚して子供を作った経験がある。

 局長だったり、観光宿泊施設の支配人である二人は、当然のごとく対外向けの常識と礼儀と社交性を身に着けているし、人との交流も指導できるほどの実力者だ。


 ただ、二人とも妻子より旧世界管理局のことを優先してしまうせいで、子どもが成人に達する前に別れている。円満に別れて、子どもが成人するまでは頻繁に連絡を取り合ってもいたが、その後疎遠になってしまうのは仕方がないと支配人が言っていた。


 AIの相棒が腕輪に組み込まれていて、監視役が常時ついている相手との結婚や家族生活を維持するのは、両者ともに努力と歩み寄りが必要になるからだ。

 代償行為というわけではないが、ボーディは旧世界管理局の職員たちを自分の子どものように可愛がって庇護したし、支配人も職員とドルフィーたちにその関心を向けた。


 同じ監視体制の下にあって、互いに相棒がいるのが当り前で、話が通じる職員どうしだと、歩み寄る必要はないし、気安く相談もできるし、結束も固くなるので、恋愛や結婚も職員同士となりやすい。

 変人や変態や特殊性癖も多いし、我が道を突っ走る職員も多いので、ローゼスが言うには、恋愛とか結婚をしている割合は低いようだが。


 新世界推進機構として再編成され、旧世界管理局が遺物管理局となった今でも、遺物管理局職員に監視役が付く状況は変わらない。

 ボーディが頑張って変革してきた結果、職員を守るためという側面が強くなっているので、あえてそれを外そうとする職員はあまりいないからかもしれない。


 監視役はそのままに、遺物管理局以外の人たちとの交流を積極的に支援したり指導することで、ボーディは引きこもりがちの遺物管理局職員たちを外に出そうとでもしているのだろうか。


「いいですか、わたしたち、遺物管理局職員には特殊事情と相棒のAIと監視役がくっついてきますが、それでも交流も恋愛も結婚も自由にできる権利がありますし、むしろ積極的にするべきだと思っていますよ。

 臆病だったり繊細な子たちが多いのは分かっていますけれどね、それで引きこもって変態性癖に走ったり、趣味に没頭する変人になるのはまずいと常々思っておりました。遺物管理局が変態と変人の巣窟とか言われるのを、甘んじて受け入れてはいけません。わたしは指導する覚悟を決めたのです」


「ボーディ……だったら、まず姉御から指導を」


「そちらは局長の担当です。話を戻しますよ。血族の血統は父親から引き継がれるので、同じ父親の子であるならローゼスとロージーは両方とも血族でなくてはおかしいのです。ローゼスが血族でない以上、ローゼスそっくりの父親も血族でないと考えるのが妥当です」


「え、ええ、分かってるわ。仲良し夫婦だと思っていたけど、ママが浮気をしてしまったなんて……」


「ローゼス、そこはママの名誉を守りなよね。それから、遺伝情報の資料を見せたじゃないか。ローゼスとボクがママの子どもだったら、兄弟って判定されるよ。でも、ボクたちの両親は全く別って結果になったわけだ」


「で、でも、パパとママは、ロージーの入った保護カプセルを庇って守り切ったのよ?アタシ、二人の最後を聞いて、哀しいより感動したくらいよ!」


「そうだね。ボクもローゼスから何度もその話を聞いて、ボクは二人の実子だし、記憶も無いときに別れたけど、愛して守ってくれたと誇らしく思っていたよ。でも、アレクさんから血族の話を聞いて、ボクとローゼスが兄弟ではないかもしれないと分かったときは……喜んでしまったんだ」


「そ、そんな……アタシがこんなだから、ロージーも苦労したと思うけど、まさか、そこまでアタシの特殊な自己表現に悩んでいたなんて」


「悩んでいたよ!だって、実の兄をお嫁さんにしたいとずっと思っていたから、ボクもこれはさすがに倫理的にも生物としても許されない変態嗜好と思って悩んでいたんだ。だからこそ、秘密主義の変態組織っぽいところが声かけてきたときも、これ以上変態の方向性に走ってはいけないと、断固として拒否したんだ。でも、実の兄弟でないなら、ローゼスと結婚できるじゃないか!」


「そ、そんな、ロージー!?正気に戻って!アタシ、パパとママにロージーはまともな子に育てるって誓ったのに!」


 兄弟なのに兄弟で無かったらしい二人は、すれ違ったまま盛り上がっている。

 オレは特殊な状況に唐突に巻き込まれてついていけないので、穏やかな笑顔で見守っているアレクに説明させることにした。


「アレク捜査官、説明しろ」


「無粋な職名は呼ばないでください。それにもう捜査官ではありません」


「監察官は捜査官権限もあると聞いたぞ。……分かった、アレク、説明してくれ。遺伝情報の詳細解析だけでなく、なぜそうなったかの捜査についても、ロージーに個人的に協力しているんじゃないのか?」


「鋭いですね、私のレディ。ロージーはローゼスと兄弟ではない可能性に気づいたところで、即座に私に取引を持ち掛けてきました。私も血族会合に関わっていない血族の協力が欲しかったので、すぐに協力関係が成立しましたよ」


 アレクが語ったところによれば、治療局には血族が多く所属していたし、治療局長が失踪した後もそのまま残っている人が結構いた。

 再び事件を画策されても困るが、アレクやロージーのように血族会合に参加しなかったり同意しない人たちも当然いるわけだし、血族だからと排除対象にしては、自分たちも排除されてしまうことになる。


 アレクとしては、そういう人たちは、普通の生活をしたいならそれでいいし、新王国に参加したいなら自治区制度ができるのを待つよう説得したかった。

 だが、元から激務だし、火宴祭襲撃事件のことや、新王国のことだけでなく、特にオレのことで忙しかったアレクは手が足りないので、治療局所属で血族会合を忌避していたロージーを協力者にしたかったわけだ。


 デルソレの事件のときにロージーの実力は分かっていたし、ローゼス狙いと知って心から応援することにして、ロージーが入手して来たローゼスの髪とロージーの髪の遺伝情報解析もアレクが手配した。

 そして二人で協力して血族への対応や捜査に当たっていたおかげで、ロージーの父親である血族も特定できた。


「って、特定できたのか」


「はい。ただ、特定したときにはすでに亡くなっていました。新王国自治区設置の際に暗躍して、自分に都合のいい制度設計をして実権を握ろうとしましたが、ベルタ警備局長とマリナに締められて、公衆の前に晒されました。怒り狂って頭の血管が切れて亡くなったことになっていますが、影でゼクスが始末したのだと思います。

 マリナの証言では、気に入った女を強引にものにする下種だったそうですので、人権倫理的にも問題は無いことになりました。ロージーの父親の可能性があると推測されていましたので、遺体から髪の毛採取して遺伝情報解析に回したら、ロージーの父親と判明したわけです」


「突っ込みどころが多すぎて困るが、そういうのが父親だと判明してしまったロージーにお気遣いして言えよ。それから、バロンも強引に状況整えて結婚迫る下種だったし、アレクもオレを罠にかけたことを思い出せ!血族の男ってそういう性犯罪者系ばかりなのか?」


 ふいっと視線を逸らしたアレクの代わりに、実は血族の男だと判明したロージーがオレに向き直った。

 こちらの話も聞いていたらしく、真剣な顔で言った。


「ユレスさん、ごめんね。ボクが見たところ、血族の男って特にそういう人多いみたいだよ。手段選ばないし、狙った獲物には執念深いから、気を付けて。ローゼスと茨姫にしっかり育てられたボクですら、道を踏み外してしまったんだ」


「血族の呪いだと思います。仕方が無いですよ、ロージー」


「いや、でもさ。ユレスさんを勝手に女の子にしたかもしれないから、人権倫理的に問題があると反省してるんだ」


「……は?」


 とんでもない自白をされた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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