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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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7 兄弟ではない証拠


 ローゼスは20歳のときには実家を出て一人暮らしをしていた。


 体は男、心は乙女という特殊な自己表現に加えて、旧世界のAIに適合する精神波長の持ち主だと分かって、ローゼスのママが情緒不安定になったためだ。


 両親がこっそりと、次の子どもを作ろうという話をしていたのを聞いてしまったのもあって、ローゼスはお気遣いした。


 ローゼスのパパは、息子の自主性を尊重していたし、ローゼスのお気遣いを受け取ってローゼスのために新たな生活環境も整えた。

 旧世界管理局が助言者や相談役となるように手配もしていたので、ローゼスはパパの配慮に感謝して円満に別居した。


 ママもローゼスを拒絶しているわけではなく、ときどき通信文でやりとりしていた。


 ローゼスの両親の間に子どもができたことを知ったときは実家でお祝いしたし、子どもが生まれたと通信文が来たときにはローゼスはすぐに会いに行こうとした。

 だが、生まれた子どもの体調が悪く、母子は治療局の療養所に入ったのですぐには会えなかった。


 そして、三月ほど経ってからようやく安定したと連絡があって、母子が家に戻るときに会う予定を立てて楽しみにしていたローゼスの元に、両親が死亡したという知らせが来た。


 療養所の二つ隣の部屋で火事が発生して、ローゼスの両親は保護カプセルにロージーを入れて逃げようとしたが、煙を吸い込み過ぎて力尽きたのだ。


 保護カプセル入りのロージーは無事に救助され、ローゼスは自分がロージーを育てることを決意し、世界管理局と治療局の子育て支援制度も上手く活用して、立派にロージーを育て上げたと語って、叫んだ。


「だから、ロージーはアタシの実の妹、いえ弟なのよ!ちゃんと、パパとママの実子で出生登録もしてあるわ。もしかして、旧世界で言うところの反抗期だったりするのかしら。遅くやって来ることもあったわよね!?」


「落ち着け、ローゼス。遅くやってくるのは思春期の方もだったと思う。それにボーディが、ロージーが証拠を提示したと言っていたのを確認した方がいい」


「さすが、捜査官は冷静で助かります。これを見てください」


 ボーディが展開したのは、ローゼスとロージーの詳細な遺伝情報データの比較資料だった。


 生まれた子供が誰の子どもか分からないときに、血統を確定させるために遺伝情報データを確認するし、血統が近いことで生まれる子どもに不具合が生じないかどうかを確認することもできる。

 いとこ同士だと遺伝情報の相似性が高いから、当人たちの意志が重要とはいえ、不具合が生じると判定された場合は子どもを諦めることもあるようだ。


 犯罪現場に遺留している体毛や体液から、誰がその場にいたのかを特定するために遺伝情報データを使うこともある。遺伝情報が相似している親族を誤って犯人と判定しないよう詳細な情報解析が行われるので、たとえ兄弟であっても取り違えることはなく、個人を特定する。


 詳細な遺伝情報データによる情報解析の精度は高く、正式な証拠として採用される。そして、この資料によれば、ロージーとローゼスは両親からして違うことが確定している。


「な、なんてことなの!?アタシ、パパとママの実子だと思っていたのに、実は違ったのかしら!?皆、アタシはパパにそっくりって言ってくれるから、油断していたわ!」


「ローゼスは実子だけど、ボクが違っただけだ。ボクはパパにもママにも似てないって、ローゼスも言っていたよね?」


「でも、ロージーはママの従姉妹に似てるから、ママ系の血統って話したじゃないの……」


「それはたぶん間違ってないと思うんだ。んー、まず、アレクさんに話して貰った方がいいかな。他の証拠もあるんだけど、前提の話をした方がいいから」


「そうですね。私が血族だということはボーディ前局長とローゼスにも話しましたが、ロージーにも話しました。何故ならば、ロージーも血族だからです」


「え?」


 血族のことを血族会合は秘密にしていたわけだが、この世界の歴史の古代王国の資料には神人とか血族のことが載っているし、一般公開されているので、秘密にしきれるものでもない。


 ただ、血族会合は、今に至るまで血統が続いていることと、その能力については秘匿していた。

 魅了の能力が危険視されて排除されるのを危惧したのと、優秀な子どもを作るために望まぬ結婚を強いられるのを嫌がったためだ。


 アレクが提出した資料を読んだベルタ警備局長の意見は、単にちょっと優秀な血統ってだけで、特別扱いするほどでも無いだろというものだった。


 魅了が効かない鋼の女にとっては、その程度の認識である。


 むしろ魅了の能力を持っていると、性犯罪被害にあったり恋愛系の騒動が起こりやすいと聞いて同情したらしい。血族の能力は、個人的な技能とか性質の範疇と判断し、事件に関係しない限り、血族かどうかは個人的事情として詮索しない方針である。


 そんなわけで、アレクは新王国に参加せず残った血族について、いちいち調査するような真似はしなかったが、ロージーとは踏み込んだ話をすることにした。


 治療局の信頼度が著しく低下していたので、関係者各位は、昏睡しているオレに関わる治療局職員はローゼスの妹であるロージーに限定するよう手配した。それでロージーがよくオレのところに来ていたので、疑念をそのままにできなかったからだ。


 ローゼスとロージーが実の兄弟だということは、ローゼスはもちろんオレだけでなく近しい人たちは当たり前にそう認識していたが、アレクの感覚ではロージーは血族だが兄のローゼスは血族では無かった。


 ロージーはごく自然に魅了の能力を使いこなして、女性たちを次々に口説き落としていた。騒動を起こすだけのヒミコとは真逆に、騒動も起こさず見事に制御しきっているので、血族会合で指導を受けた可能性もあると警戒し、アレクはロージーに直接確認することにした。


 そして、意外な事実が判明した。


 ロージーは血族会合に声をかけられたが一度も参加することはなく、なんと自主訓練によって能力の制御を身に着けていたのだ。


 ロージーがローゼスを見つめながら言った。


「成熟期に入ってから、血族会合の人たちがボクに接触してくるようになったんだけどね、ローゼスが怪しい団体の誘いにうかつに乗っちゃ駄目よ!秘密組織っていうのは、変態集団と同じ意味だからね!ってボクを教育していたから、ボクが変態になったらローゼスが悲鳴をあげると思って、徹底的に回避したんだよ」


「だって、旧世界では陰で暗躍する秘密結社には、変態が必ずいるんだもの!<知識の蛇>だって変態集団よ!旧世界では成熟期に入った頃合いの子たちは、秘密組織とか陰で暗躍する系の団体に憧れたり妄想しちゃう病にかかるから、アタシ、可愛い妹をしっかり教育したつもりなの!」


「ローゼスの教育は見事だったと思います。私がロージーから事情聴取したところ、私の両親が試行錯誤の果てにたどり着いた、人としてまともな血族を育てる方法を全て網羅した上に、その先も行っていました」


「茨姫に女の心得を教育されたけど、アレクさんが言うには、ボクはその指導のおかげで能力の制御も完璧にできているらしいよ」


「イバラの指導は厳し過ぎて泣けてくるけど、立派な淑女に育つことは間違いなしだと思うわ。でも、能力の制御法の指導なんてしていたかしら?イバラがロージーと話している場には当然アタシもいたけど、猫様の魅力について会話が弾んでいたくらいにしか思ってなかったのに」


「つまり魅力の振りまき方と制御の仕方について話していたんだよ。茨姫は、猫様は完璧に分かっているって絶賛して語ってくれたから、ボクはそれを参考にした」


「まさかの、にゃあ教育なの!?」


「なんでもかんでも、にゃあをつけるな。気まぐれ猫は、子守はしても教育はしない。それより向き合うべきことがあるだろ。血族は互いが血族と分かるそうだが、アレクはロージーは血族だがローゼスは違うと判定した。ロージーもそういうの分かるのか?」


「うん。アレクさんから聞くまでは、それが血族っていうものだと認識していなかったけど、ローゼスは血族ではないね。ボクに声をかけてきた怪しい秘密組織の人たちは、なんかざわざわするし、直感的に判別できる感じがしていたから、似た印象を受ける人たちのことは警戒していたんだ。変態は嫌だからさ。

 治療局には、結構いたから、困ったよ。あのヒミコって子もそういう印象だったし、周囲も大迷惑していたから、ボクは変態組織の一員だと思って近づきたく無かったわけ。茨姫が嫌う淫乱なバカ女の典型的な見本って感じだったから、なおさらね。アレクさんはまともそうだけど、未分化型のユレスさんを狙っていたから、やはり変態なのかと思って警戒していたんだ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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