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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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6 熾烈な駆け引き


 あくまでも見合いだと主張するボーディは、まずは料理と酒を楽しんで緊張をほぐして交流を進めましょうと仕切った。


 だが、同居している兄弟と、すでに決定済みにされてしまったオレとアレクが、今さら何をどう交流しろと言うのだろうか。


 緊張感の漂う場となっているので、緊張をほぐす必要はあると思うが。


 こういうときに頼りになるはずのローゼスが使い物にならないので、仕方なくオレが頑張ることにした。緊張をほぐすと言うより、緊迫する事態になりかねないが、もう今さらだ。


 デルシーでアレクが釣って来たという魚料理を食べ終えてから切り出した。


「アレク、確認したいことがある」


「今後の人生計画は細部まで立ててありますから、どんな質問にも答えられるつもりです」


「……ボーディ、会話が成立しないから助けてくれ」


「仕方ありませんね。ユレスが抵抗したり、アレク監察官が言いくるめたりすることの無いよう、わたしが取り決め事項を整理してお話しますから、両者ともにしっかりお聞きなさい」


 10年前にオレとアレクがした取引について、アレク捜査官はしっかり音声記録を取得していた。


 警備局仕様の記録装置を用いていたので、証拠として採用されるに足る記録である。

 音声記録を聞いた祖父さんが抵抗したようだが、関係者各位、特に警備局長が証拠品として認めたので、祖父さんも抵抗しきれなかった。


 オレとアレクは結婚を前提にして付き合うこと、その代わりにアリス事件の捜査をアレクが手伝うこと、それから10年の期間をつけて、10年後にオレが女に分化していたらアレクと結婚すると了承したことだけでなく、10年経っても未分化であったらアレクが潔く諦めることまですべて関係者各位の知ることとなった。


 祖父さんもオレが取引した内容は覆せないことは認めた。そして、祖父さんとアレクの熾烈な駆け引きが始まった。


 オレが昏睡して一月も経たないうちに、二人ともオレはこのまま10年眠り続けると確信したそうだ。


 諦めが良すぎると言うべきか、オレに何も期待していないのを嘆くべきか、祖父さんは小さい頃からよく寝る子どもだったオレは、抵抗もせずに素直に10年眠るに違いないと読み切ったし、アレクはアレクでオレがアリスの望むままに6年眠っていたし、今回もそうなる可能性が高いと予想した。


 その時点での結論を言えば、アレクが圧倒的に不利な状況である。


 オレが10年間昏睡しているとしたら、性分化するきっかけとなる経験も交流もあり得ない。

 ゆえにアレクは母親の古代王国と血族の研究資料を提示して、祖父さんと取引して条件を追加するよう迫った。


 アリス事件だけでなく、血族も関わる壮大な理想の王国計画の裏付けにもなる重大な資料であり、関係者各位からの圧力もあって、祖父さんは渋々了承した。


 追加された条件は、オレが10年昏睡していた場合、オレが目覚めた後に2年の猶予期間を設けることだ。アレクは最初は10年を要求したようだが、紆余曲折の末に2年となった。


 ボーディも過程を語ると長くなると端折って最終結果を告げたが、オレが10年間昏睡していた場合は、オレが未分化型でも女に分化していても、2年間の猶予期間に突入してアレクと結婚を前提にお付き合いすることになる。


 さして変わらないように見えて、その時点での可能性はほとんど無かったが、昏睡したままのオレが10年後に女に分化していた場合でも、即座に結婚ということは無くなったわけだ。


 万が一の可能性だと余裕だった祖父さんであるが、オレが昏睡して3年くらい経ったあたりで女に分化し始めたのを知って青ざめたが、親友の助言とそれを聞き入れた自分を褒め称えていたらしい。


 祖父さんの親友であるジェフ博士が、オレが女の子になるよう洗脳してきたし、10年昏睡していても女に分化する可能性はあるから、その場合、オレがお付き合いの期間も無しに突然結婚というのは心の準備もなくて可哀想だと意見したようだ。


 オレを洗脳しようとしていたじじいに思うところはあるが、ジェフ博士は、ときどき祖父さんとオレの窮地を救う。

 ただし、妻の弟のことも応援しているので、この件に関しては中立の立場を取った。


 この取引条件だと、オレが女に分化しているので2年後には結婚が確定である。だから決定済みとされてしまうわけだが、オレは2年間の猶予期間中に覚悟を決めるか、回避手段を考えねばならない。


 だが、オレが寝ていた10年の間に思いつく限りの逃げ道は潰されていたので、アレクは余裕の態度である。


 治療局の精密検査の結果でも、遺物管理局の治療官の検査でも、オレは女に分化しているが未成熟な状態で、あと2年は子どもを作るのは早いとのことだった。だから、結婚は2年後でいいらしい。

 

「ということで、分かりましたか?つまり、ユレスはこれから2年間、アレク監察官と結婚を前提にお付き合いして覚悟を決めなさいね。アレク監察官はまだ体ができていない子に無体を強いたりしないと信じています。ええ、そこは関係者各位がしっかり見張っていますから、問題があったら取引も無効になると思って紳士的に振る舞うようにしてくださいね」


「関係者各位より、人権倫理委員会の方が」


「人権倫理委員会は一応説得済みです。この10年間で、一番手強い相手でした」


「オレの最後の盾が……」


「ユレス本人が一番手強いので、盾があったら私に不利過ぎます。全く分かってくれていないまま10年も昏睡されたので、2年でどこまで分かってくれるか私もぎりぎりです。なので、荒療治も仕方がないと思ってください」


「何をどう荒療治するんだ!?ボーディ、何か危険発言してるぞ!」


「性犯罪にはならない、いえ、ぎりぎりをすり抜けるおつもりでしょうから、結果的に実害はないはずです。精神的には圧力がかかるでしょうが、過酷な人生体験の連続を抜けて来たユレスならば切り抜けられるはずですから、頑張りましょう。

 わたしもユレスに踏み込んだ指導をするつもりでおります。アレク監察官が言った通り、ユレスに初級編から指導しても分かってもらえないでしょうし、ここは激しい衝撃を与える作戦で行くしかありません」


「暴挙過ぎるぞ、ご隠居様……」


 ボーディは、取りあえず激しい衝撃を与えてみる作戦に自信を持ちすぎではないだろうか。祖父さんには効果的であっても、オレには致命的かもしれないことを考えて欲しい。


「結果的に上手く行けば、それは暴挙では無く英断とよばれることになるのですよ。ローゼスのことも激しい衝撃を与える作戦で指導しますので、ユレスだけ不公平な扱いをしているわけではありません」


「こっちも、暴挙だろ!ローゼスが無言になるなんて、衝撃が激し過ぎたとしか思えない。オレの方が動揺してきた」


「動揺させたのはごめんね、ユレスさん。でも、ボクのことを妹とか弟としか見ないローゼスに振り向いてもらうには、激しい衝撃を与えるしかないなってことになってさ」


「ロージー、そこは兄にお気遣いするところだ。それから、オレにもお気遣いして、事前に言ってくれ。旧世界の近親相姦系の資料は結構あるし、旧世界人ですら推奨していないことが分かる参考資料もいくつかあるから、解説できるようしっかり読んでから来たのに」


「無駄になるだけだから、ボクの話を聞いて貰ってからでいいよ。これ以上、ローゼスを混乱させるのも可哀想だから本題に入るけど、ボクとローゼスは実は兄弟じゃないんだ」


「は?」


「……え?」


 大混乱中だったローゼスが、ロージーの衝撃発言を聞いて、顔をあげてぽかんと口を開けた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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