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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第八章 眠り姫と黒猫
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2 遺物管理局捜査官


 ローゼスに引き摺られて行くのも、10年経っても特に変わらない廊下も馴染みのものだが、入局管理室に行くと見慣れない職員に何人か出会うので、本当に10年経ったのだと実感する。

 見慣れない顔の方が少ないとはいえ、割と見慣れたはずの顔でも成長しているように見える。


 新人だったミヤリもその一人だ。


 10年も経てばもう新人では無いし、捜査官資格を取得して、遺物管理局の捜査官になっていた。新人の指導もしているようだが、オレに気づいて声をかけて来た。


「ユレス捜査官、三日ぶりですね。ご無事で何よりです」


「……オレはまた昏睡するとでも思われていたのだろうか」


「いえ、ユレス捜査官のことですから、起きた直後からいつでも事件に突っ込むと、クレア捜査官が不穏なことを言っていましたので」


「否定しきれないが、姉御と違って、オレは自ら突っ込んで行ったりしないぞ」


「そうしてください。行方不明のユーリ捜査官をクレア捜査官が捜索しに行っている今、遺物管理局の捜査官は手薄になっていますし、ユレス捜査官が復帰してくださって助かりました」


「そうよねぇ、猫の手でも役に立つものね。ところで、新人君が困ってるから、ご紹介するわね。いかにも新人っぽい見た目だけど、こちらが遺物管理課のユレス・フォル・エイレ捜査官よ。遺物管理局の眠り姫と言った方がいいかしら。10年の長きに渡って昏睡していたけど、三日前にようやく職務復帰して大会議室でご挨拶をしたけど、たぶんいなかったのよね?」


「いなかったっす。俺はライル・ヴァン・ガードっす。ミヤリ先輩について、捜査官目指してます!ユレス捜査官のことは姉ちゃんからもお話聞いてたっす。でも、想像してたのと違うっていうか、俺と同じくらいの歳の可愛い子がいると思ったのに、まさか眠り姫だったんすか……」


 がっくりしているようだが、その気持ちは分かる。


 オレは10年も昏睡していたせいで、眠り姫と呼ばれていたようだが、実物を見たら残念極まりないだろうな。

 勝手にそう呼ばれていただけなので、オレが責任を感じるものでもないが、素直にがっかりしているので悪いことをした気分になった。


 だが、ミヤリ捜査官がさっそく新人指導をした。


「ライル、下手したら無礼な発言をしているので、リマに報告して指導してもらいます」


「え!?姉ちゃんに告げ口するのはやめて欲しいっす!アレク監察官の眠り姫なら、俺が口説いても無理ってがっかりしただけなのに!」


「そういうのを態度に出すのも減点です。ユレス捜査官、この無礼者は私たちで指導しておきますので、どうか未熟者と思ってお許しください」


「いや、オレが眠り姫とか、残念過ぎて悪いことしたと思っているくらいなんだが。ところで、もしかして、リマの弟なのか?」


「そうです。AIに適合することが判明して、遺物管理局に入りました。遺物管理局は警備局との合同任務が増えていますので、外部協力担当の捜査官を養成することになって、適性がありそうな新人を積極的に指導していくことになりました。私とガンド捜査官で指導にあたっていますが、ユレス捜査官にもお願いすることになると思います。そのときまでに礼儀を叩きこんでおきます」


「気にしなくていいわよ、どうせユレスは分かってないもの。でも、ユレスに指導させるのも冒険じゃないかしら。暴れ回る専門の姉御とかユーリ捜査官に指導されるよりましだと思うけど、特殊事件専門のユレスに指導させるのもねぇ」


「オレを変な担当にするな。だが、まっとうな遺物管理局捜査官を育てたいならガンド捜査官に頑張ってもらうしかない。オレはせめてガンド捜査官の事務仕事を手伝って、指導する余裕作るくらいしかできないぞ」


「事務仕事の指導をしていただくだけでも助かります。私もようやくこなせるようになってきましたが、旧世界の知識は幅広過ぎて、ときに対応不能のものもありますので」


「そうね、ガンド捜査官がユレスが復帰するのを待ち構えていたものね」


 オレが昏睡する前の旧世界管理局には、三人の捜査官が所属していた。

 遺物管理課のオレと、遺物調査課のクレア捜査官と、渉外課のガンド捜査官だ。


 旧世界管理局としての広報や他局への協力とか連絡調整関係はすべて渉外課を経由するし、イベントへの協力や、警備局から協力要請が来たときは、基本的に渉外課所属の職員が対応する。


 渉外課には、常識と礼儀作法を身につけた社交的な職員が配属される。


 特殊な事情持ちだったり、特殊な自己表現をしたり、特殊な性癖持ちだったりする職員は配属されない。

 変人と変態が多い自覚がある旧世界管理局職員のなかで、最も一般的でまっとうな人たちが集うのが渉外課というのが昏睡前のオレの認識だったし、昏睡から目覚めても同様のはずだ。


 ガンド捜査官は、駄目な性癖で暴走する姉御と、特殊事情を抱えた未分化型のオレという対外向けではない二人の捜査官の代わりに、旧世界管理局の捜査官として協力要請に応じ続けていたので気苦労が絶えなかったと思う。


 オレが昏睡した後、祖父さんが復帰したわけだが、ガンド捜査官の仕事が減るより増えるだけだったのは分かる。

 オレは事務仕事くらいは手伝ったが、姉御と祖父さんはめんどくさい仕事を嫌って逃げるだろうし。ミヤリが捜査官となってガンド捜査官は助かったはずだ。ミヤリは事務仕事とか手配とか得意だからな。


 だから、別にオレを待ち構えなくてもいいはずだが。


「オレが復帰したところで、ガンド捜査官の仕事は大して減らないと思うが」


「あんたが復帰したら、未鑑定遺物の危険度判定とか捜査は全部任せられるでしょ!ユレスが寝ている間に、旧世界遺跡の大きいのが見つかったから、むちゃくちゃ忙しかったのよ。姉御とユーリ捜査官向きの現場じゃないから、ガンド捜査官とミヤリ捜査官で交代で出張していたし、ミヤリは現場で覚えろ!みたいな感じで大変だったわよねぇ」


「多くの経験を積むいい機会となりましたが、知識が足りない私は対応可能範囲が限られていました。遺物鑑定は想定以上に奥が深かったです」


「遺跡の危険度は低くても、遺物鑑定の難易度が高かったから仕方ないわよ。データベースに登録されてない遺物というか、独自仕様の遺物が多かったのよね。人型人工物も多かったから、にゃあ判定の出番だったというのに」


「変な用語を作るな」


「分かりやすくていいじゃないのよ。二日かけて人型人工物一体の危険度判定を終わらせた課長が、にゃあ判定が、にゃあ判定が欲しいと錯乱状態になったのよ!ボーディに愚痴聞いてもらうよう<菩提樹>に連れて行ったら、ボーディもさすがに由々しき事態と思ってくれて、ユーリ捜査官を捕まえて手伝わせたの」


「祖父さんというかホームズが判定したなら、すぐ終わっただろ」


「終わって無いわよ。だって、その頃はまだホームズのロックが解除されていなかったもの。ユーリ捜査官の記憶の再構成が終わってなかったと言った方が正しいけど、ホームズ判定して欲しくて、アタシたちがよってたかって記憶の再構成のお手伝いしたから、記憶の再構成が終わったって感じかしら。

 でも、ホームズのロックが解除された頃には、危険度高そうなのは全部封印してユレスが起きてからにしようって割り切って、保管倉庫に封印済みだったのよね。ということで、よろしくね。次の勤務日からばりばり働いてもらうわよ!」


「……課長が何か言いたげだった理由が分かった。だが、次の勤務日は治療室行きが決まっているから、先走って倉庫の封印解除とかするなよ」


「あら、だったら、治療官と日程調整しておくわ」


「ローゼス管理官、よろしければ、私たちも参加させていただけませんか?危険度の高い遺物は、経験が足りない私は扱ったことがありませんので、経験を積みたいです。新人指導のいい機会になりますし」


「確かにそうね。じゃあ、課長に言っておくわ。二人はこれから勤務かしら」


「はい。遺物管理課長にご連絡だけしていただければ、後は私が調整します」


「じゃあ、そうするわ。よろしくね!」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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