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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
170/371

日記帳は持ち歩くものよ・1


「日記帳は持ち歩くものよ」


「それ、旧世界的常識?」


「違うわ。旧世界的常識では、日記帳は自室にひっそりと保管しておくものよ。鍵付きの机があったらそこに忍ばせておくのが様式美だけど、再構成された今の世界で旧世界を踏襲するのも芸が無いわ。旧世界の過ちを繰り返してはいけないし」


「それ、日記にも適用されるの?何をどうすれば過ちになるのか分からないけど」


「良く考えてみて、リマ。例えば突然の事故でうっかり昏睡してしまったとき、目覚めさせるきっかけになるものが無いかと自室を探されることもあるわ。そして日々の想いを綴った日記を見つけたら、読むでしょう?

 旧世界では、自分の胸に秘めておきたいことを記すのが日記というものだったの。だから、人に知られてはいけない特殊性癖を赤裸々に綴ったり、犯罪計画をうっかり記してしまったりするのよ。読まれたら恥ずかしくて自殺を考えるかもしれない負の遺産になりかねないのが日記よ。そんな危険なものをうっかり自室に保管して置いて、過ちが起こったらどうするの」


「状況設定とか色々酷いし、そういう危険物は作らない方がいいんじゃないかなぁっ!?ミヤちゃん、まさかその日記帳にそういうことを」


「旧世界の過ちを繰り返さないよう、私は読まれても問題のない一行しか記していないわ。ほら」


 ぱらぱらとめくって見せたけれど、一日に一ページを使いつつも、一行しか記していないので余白が目立つわね。リマもまずはそこを突っ込んで来た。


「ミヤちゃん、一日一ページ分の記録を記すようになってるし、それも様式美なんだろうけど、そこにあえて一行しか書かないっていうのはもったいなくない?」


「この一行にすべてを凝縮しているのが様式美だと解釈してくれるといいわ。ついでに今日の分も書き込んでおこうかしら」


【 日記帳は持ち歩くものよ 】


 礼儀として、リマは覗き込まないようにしていたけれど、書き終わって見せてあげたら変な顔をして言った。


「今日の日記ってそれでいいの?」


「いいのよ、今日のすべてがこの一行に凝縮しているわ。いえ、凝縮させるわ」


「ええと、それ、下で起こってることとか全部見なかったことにして一日を終えるって宣言?あたし、ミヤちゃんが介入するって言いだすかもって思ったんだけど」


「それはリマでしょ。個人活動の時間とはいえ、警備局職員としての使命感からうずうずしているじゃない」


「だって気になるし。でも、介入する理由も無いし、しづらいから悩んでるんだよね」


「傷害行為になったら介入できると思うけど、今はやめた方が賢明ね。ここから様子見が妥当よ」


「うん、分かってるよ」


 本日は同年の子の結婚を祝う宴会に招待された。


 成人して数年で結婚するのは気が早いと思うけれど、未成年の頃から結婚に憧れていた子なのでおかしいとは思わないわ。


 性犯罪者で良ければすぐにでも結婚できたヒミコや、妄想の相手と結婚する気でいるリリアと違って実に堅実だったし、料理をはじめとした各種技能もしっかり習得していたから、相手さえいれば望みどおり結婚生活を送れるのではないかと思っていた。


 結婚を美化して理想を追い求めすぎだと思ったこともあるけど、私の意見を聞く耳もあったし、結構厳しいことを言ったのだけど、おかげで現実と向き合えたと言って何度か相談しにきたわ。


 宴会には同年の子たちも招待されているけど、割と厳選している中に入っているくらいには付き合いがある。


 でも、もしかしたら何か不穏なことが起こるかもと思って、警備局のリマと遺物管理局だけど捜査官資格のある私を招待したのかもしれないと勘繰ってしまうわね。


 宴会会場は広々として天井まで吹き抜けになった開放的な構造で、窓際にはゆったりしたソファが置いてある。

 壁際の階段を上がった先に部屋は無いけれど、ちょっとした空間があって、そこにもゆったりとしたソファが置いてあって静かに休憩できるようになっていたので、静かな環境が好きな私は、ソファでのんびりしていた。


 同年の子たちと交流していたリマが、慌てて私のところに来るまではね。


 リマが急かすから、ソファから眼下に宴会場が見下ろせる手すりまで移動したけど、私のいたソファからは見下ろせなくても音は聞こえてくるから、状況は分かっていたわ。


 単に新婚の夫の元恋人が、恋人を奪われた苦しくも切ない胸の内を切々と語っているのに興味が無かっただけよ。


 見下ろしてみて、泣きながら大声で語っている元恋人が食事用のナイフを握りしめているのを見て、危険度を上方修正したけれど。


 だから日記帳を腕輪の収納から取り出して、本日の一行を記してから、手に持っておいた。


 近くにいる人たちからは訝し気な視線を向けられたけど、リマは私が日記帳を手に持っていること自体には突っ込まないわ。

 日記をつける話をしたときに、こういう分厚く立派なつくりの書物は鈍器になるから、予備武装として持ち歩くと説明したものね。


 今日は結婚のお祝いの宴会だし、武装に見えるものを持ち込むなんてもってのほかよ。場に合わせて、私にしては頑張って華やかなドレスを着てみたからなおさらね。


 リマも今日は武装なしとこっそり囁いて来たけど、武装なしでも強いローゼス管理官を見習っているのか、最近体術の訓練をしていると言っていたから、そっちに期待するわ。


 様子見はするけど、事件に至る前には介入して止めるために、私たちは密かに行動を開始した。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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