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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
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本当に自分を救えるのは自分だけよ・4


 ローゼス管理官は話も上手いし会話もこなれているので、思ったよりも時間が経っていた。


 遺物管理課の仕事を邪魔するわけにもいかないので、お茶とお菓子のお礼を言って退出したけれど、リマが何やら悩んでいるので、勤務終了後にリマの家で話を聞くことにして一旦別れたわ。


 お馴染みになっている家にはライルがいて、料理中だった。調理教育を受けてから、結構頑張って技術習得に励んでいるわね。


「姉ちゃんは美味しいお菓子を調達してから帰るって連絡あったっす。ついでに食事の用意をしろと指示されたんすけど、ミヤリさんは食べたいものあるっすか?」


「私も手伝うわ。自動調理装置を設定することしかしないけど」


「あ、だったら、俺が可愛く食材切るので、後はお願いするっす!」


 ライルは教わったことをちゃんと取り入れているようね。勢いのままにたくさん料理を作ったところにリマが帰って来たわ。


「うわ、豪勢だね!ライル、良くやった。お菓子は好きなだけ食べていいから」


「そう言っていても甘味は大体姉ちゃんが食い尽くすんじゃ」


「いらんこと言うな」


 取りあえず食事を優先して黙々と食べたけれど、リマとライルはたくさん食べるので、ほとんど無くなったわ。


「ミヤちゃんは少食だね」


「動き回る仕事のリマと、体を作っている最中のライルと比べるからよ。私も、もう少し鍛えた方がいいとは思ったのだけど」


「えー、無理はやめなよ。今日の話を気にしてるなら、ローゼス管理官が言ったとおり、得意なことは得意な人にお任せした方が賢明だと思う。だって、そうじゃないと、あたしの存在意義がないし……」


「……もしかして、それを悩んでいたの?」


「だってさ、事件までいかないけど何かあったりすると、大体ミヤちゃんが解説してくれたり、解決法を提示してくれるじゃない。あたしって、暴力振るおうとした人がいたり、騒動になりかけたのを力づくで制圧するときにしか役に立たないから、あんまり働いていないなーって思ったりした」


「お互いに似たようなことを考えていたのね。私は、荒事になりそうな場合は、そっちの対応は全部リマに投げて、後始末とか被害軽減のことを考えていたのだけど、それはそれでまずいかもって思ったのよ」


「え。その方が賢くない?役割分担だよね。あはは、なんかあたしたち同じこと考えて悩んでたのかぁ。まだまだ未熟ってことかな」


「そうね。未熟だからこそ成長の余地があるのだと思っておけばいいわ。ところで、ライルも何か悩んでいるのかしら?」


「姉ちゃんは、ミヤリさんに発揮するような気遣いを俺に対しても発揮してくれないかと、ぐえっ」


「発揮させてくれるような、可愛い弟だといいんだけどな」


「姉ちゃん、酷い!悩みってほどじゃないけど、気になることはあるっす。同年に、役に立ちたがる奴がいるっていうか、さっき姉ちゃんが言ってたけど、自分の存在意義がどうこうみたいに言って、無理してるんじゃないかって思うくらいなんすけど、無理してやらなくていいって言うと怒るんすよ。何をどう話せばいいのか分からなくて、俺は敬遠しちゃってて、それもまずいかなーって思ったり」


 私は面倒な相手とは関わらないのが最善だと思うけど、ライルはそこまで割り切った性格ではないものね。

 リマもうーんと考え込んで私を見たので、助言することにしたわ。


「まず、その人を余計に怒らせるようなことを言ってしまえば、それは誰かの役に立ちたいのではなく、誰かに自分を認めて必要としてもらいたいがための行為ね。そうでない人の場合は、無理してやらなくていいと言っても、何を言われているか分からないという反応をするけど、図星だったら怒り出すことが多いわ。

 つまり、無理してやっているのよ。理解力のある人なら、そう説明すると分かってくれるかもしれないけど、大半の人は説明したらさらに怒りだして、会話も拒絶するわね。だから、何も言わない方が互いのためということもあるわ。これは実体験談だし、私の言い方も配慮が無かったから教訓として受け入れているの」


「あたしはミヤちゃんの言う通りだと思うけど、確かに言い方きつかったから、人格も何もかもを否定されたって泣き喚くくらいに追い詰められたのも分かるかなぁ。たぶん、成人だったら受け止められたけど、経験も浅い未成年の頃だったからそういう反応しかできなかったんだと思うよ。

 この前の同年の交流会でも、ミヤちゃんと会話する気無いみたいな態度だったけど、きっかけがあれば会話したい感じであたしたちの方をときどき見ていたと思う」


「あれは単にマークを見ていたんじゃないかしら。そう言えば、マークはそういう人とは対極ね。誰かの役に立つためではなく、自分の望みと研究のために暴走しているけど、結果的に多くの人の役に立っているし、役に立っているかどうかなんて考えもせずに、楽しく生きてるじゃない」


「確かにね。無理してる感じは皆無だし、むしろあたしたちに無理させないでくれって言いたくなることもやらかしてくれるけど、付き合っていて気楽だし楽しいからその方がいいかな。

 あ、そうだ、マークを見習ってでいいなら、助言できることはあるよ。ドルフィー塗装に拘りまくって徹夜したときに、クラフターの持ち主が何がそこまでさせるんだ?まさか自分のために?みたいに言ったときに、マークは堂々とあなたのためでなく俺のためですって言いきったよね。

 完璧なドルフィー塗装をすることでドルフィーにまた一歩近づけるから、誰のためにならなくとも俺自身のためになる!って。堂々とし過ぎてて、なんかすごく感動的な発言っぽくなったから、あたしたちもそのまま流したけど、よくよく考えると思いっきり自分本位な発言だけど、自分が納得してやることだったら、誰のためにもならなくても自分の役に立ってるっていうのは清々しい考え方だと思う」


 マークはときどき大胆発言をするけれど、何というか、大自然の真理っぽいことを言うのよね。だからなのか、ライルも素直に頷いたわ。


「俺もそういう考え方ならすっきりする。マークさんすごいっす、なんか壮大!」


「そうね。人って難しく考えすぎなのかも。余裕があれば人の助けになったり、役に立つことをするのもいいと思うけど、自分を削ってまでそういうことをしたら、その人自身が誰かの助けを必要とすることになって悪循環に陥るだけよ。まずは誰かのためにではなく、自分のために自分に必要なことをした方がいいのよ。誰かに認めてもらうより、自分自身が納得できる自分になることね。

 それで、いつか自分に手がかからなくなったときには、他の人を助ける余裕もできるんじゃないかしら。誰もがそうしたら、いつかは誰の手助けも必要のない世界になるのかもね。救世主なんて、必要のない世界に。理想論にすぎないけど」


「理想を目指してもいいじゃない。あたしは、誰かに助けてもらうのって苦手だけど、なんか助けてもらう自分に納得できないっていうか、違うって思っちゃうからなんだよね。あ、でも、そうか、自分が納得できるかどうかも、結局自分次第か。

 ミヤちゃんが、本当に自分を救えるのは自分だけって言ってたけど、自分が救われていいって納得できなかったら、ずっと救われてない状態でい続けることになるからかな?」


「姉ちゃんがなんか難しいことを言ってる!」


「あたしがいつも何も考えていないとでも言いたいのか」


「うえええっ、姉ちゃんは、考えることは、ミヤリさん担当って、言ってたじゃない、か」


「役割分担できることはしていいと思うわ。でも、私が何か提案したとしても、それをそのまま受け入れるのは違うわね。あくまでも選択肢はその人にあるし、納得できない提案なら受け入れない方が正解よ。リマが言う通り、誰が何を言おうがそれを納得するかどうかはその人次第だし、その人が選ぶべきことよ」


 ただ、決めることや選ぶことは責任を伴うわ。


 だから、人は自分自身に対する責任から逃れるために、助けてくれる人や縋る相手を求めてしまうのかもしれない。


 自分に対する戒めと決意を籠めて、日記に一行記しておいた。


【 本当に自分を救えるのは自分だけよ 】


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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