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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
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本当に自分を救えるのは自分だけよ・3


 私たちの間で同意に至って頷き合っていたけれど、お菓子を食べ終えた遺物管理課長が言ったわ。


「……立派な気構えだと思うが、そうなる前に早めに保護されるとか、助けを求めておくことも考えておこうね。そこまでやっても、どうにもならない時の最終手段を仕込んでおくのは賛成するが」


「んもう、課長は心配性なんだから。慎重にあらゆる事態を想定して対策しておくのはいいと思うけど、日常生活でそれやってたら、気疲れしちゃうわよ。めんどくさくなって出歩かないのが最善って結論に至って、遺物管理局を生活拠点にしちゃう職員が増えるから、局長も指導入れていたじゃない。ユレスみたいに、出歩けば事件に遭遇する職員なんてそうはいないんだから、もっと気楽にしていてもいいと思うわ」


「えーと、ユレス捜査官ってやっぱりそうですよね?」


「ユレスは課長の教えを守って、対策もするし、警戒して出歩かないし、出歩くとしてもちゃんと保護者役がいるときに限るようにしていても、遭遇しちゃうのよ。しかも遺物管理局の職務外のときにね。課長は後からそれを聞いて、くらっとして心配するのを繰り返し続けて、こんなに心配性になっちゃったとも言えるわ」


「ユレスに関しては、特殊な例外として遺物管理局で生活させた方がいいと何度も局長に進言したのだが、却下されてしまって」


「引きこもりが喜んで引きこもるだけだから、却下されるに決まってるでしょ!ミヤリとリマも交流に熱心じゃないみたいだけど、引きこもりは駄目よ。積極的に交流しろとは言わないけど、交流してもいいなと思った人とは、その場限りにせずに次の約束するくらいには積極的に交流した方がいいわ。

 あ、でも、気を付けた方がいい話も聞いたから、ほどほどにって言っておくわね。なんかね、引きこもりがちで交流が苦手な、遺物管理局職員に多い感じの人たちに近づいて、交流を助けてあげるとか自分が一緒に行動してあげるって言って変な団体に引きずり込もうとしている動きがあるのよね」


 変な団体と聞いて、リマが職務を思い出してきりっとした顔で姿勢を正したわ。


「もしかして、不穏な計画をしている団体ということですか?」


「不穏な計画かどうかは分からないけど、アタシの感覚だと不自然とか不健全って感じよ。ん-と、そうね、二人が今日見ていた旧世界映画みたいな感じね。あの映画って救世主とその取り巻きのことだったでしょ?閲覧申請だと、暴徒鎮圧と暴徒扇動の参考資料としてってことになっていたけど、救世主に助けを求めすぎて自滅していったのも見たわよね」


「はい。ミヤリ捜査官からも解説されましたし、むしろ一番印象に残ったのがそこでした。暴徒関係のことは、強烈な存在感と指導力がある人でないと暴徒を先導するのは無理があるし、逆にそういう人がいたら警戒した方がいいと思ったくらいですが」


「そうね。映画だと指導力がある救世主がまともな倫理観のある人だったから良かったけど、ろくでもない人だった場合、事件や騒動を拡大して大変な事態に至っていたと思うわ。

 胡散臭い団体の話に戻すけど、元々は天使愛好会っていう旧世界の天使系作品とか芸術品を愛でる趣味の集まりだったみたいなの。ドルフィーファンたちがドルフィーを見てきゃあきゃあやってるのと似たようなもので、警戒する対象じゃ無かったはずだけどね。

 でも、火宴祭で襲撃された後、天使、というか旧世界の天使型人工物の危険性について情報を開示したし、広く周知したじゃない?あれで、天使を見る目が大きく変わったわ」


「そうですね、人が大勢いる前で飛び去って行くのも見られた以上、周知して警戒を呼び掛けるのが最善でした。あたしは天使って、旧世界のいいことの象徴というか、綺麗で善意に溢れた存在って漠然と思っていたけど、真逆の話でびっくりしました。旧世界で一番危険な兵器のようなものってことだし、それで情報制限がかかっていたから知らない人がほとんどだったんですよね?それまでいい印象で天使を趣味にして愛でていた人たちは、衝撃受けたと思います」


「そうよねぇ。情報開示した後で天使愛好会とか名乗っていたら、危険な団体って思われちゃうじゃない?それで天使って言葉を捨てて、天のお使いとか世の救い主って言い換えるしかないのは分かるし、その過程で活動が変質して歪んでいったのかもね。

 旧世界の天使型人工物は危険だけど、それは旧世界人が悪用しただけで、本当の天使様は慈愛と慈悲に溢れて人を救ってくれる素晴らしい存在なんだ、天使様は祈れば助けてくれるって感じの思想に染まっている感じなの。それで、一緒に本物の天使様に救いを求めよう!ってお仲間募集中ね」


 なるほど、不自然で不健全な思考ね。リマも微妙な顔で言ったわ。


「うーん、犯罪的な行動をしないなら警備局の捜査対象にはならないし、趣味とか思想は自由だから、制限かける方が人権侵害になりますね。でも、さっきの映画の話じゃないけど、人として進化するより世界を崩壊に導きそうな思想になりそう」


「そういうこと。投げちゃうようで悪いけど、そういう団体もいるってことを警備局で認識してくれていると助かるわ。交流苦手な寂しがり屋さんがうっかり引っかかって、そういう思想に染め上げられることもあるだろうしね」


「了解です。遺物管理局以外にもそういう人って割といますしね」


「うちの職員には特に多いと思うけど、幸いと言うべきか天使嫌いが多いから、天使様に救いを求める系には引っかからないと思うわ。情報制限かかって開示できない天使関連情報はまだ結構あるんだけど、知れば知るほど天使嫌いになっていくのよねー」


「天使は駄目だ。うちの子を昏睡させるなんて」


「課長は私怨も入ってるから、なおさら天使嫌いなのよ。それに元凶は天使じゃなくて、そのご主人様のいけすかない小娘の方じゃないのよ」


「そう言えば、行方どころか手がかりも掴めないんですよね。天使型人工物は上空から唐突に襲撃仕掛けることができるから、警戒し続けるしかないのが困ります。局長も早急に対処したいみたいですけど、天使型は機動力が高いから難易度高すぎって苛々していました」


「そうなのよね、天使型って無駄に高性能だもの。リマは特務課だから聞いたと思うけど、天使型人工物の装備って、人の精神に干渉してきて、危険極まりないから、野放しにしておきたくないんだけどねー。遺物管理局でも対応できる職員は限られちゃうの。アタシは駄目だけど、ミヤリ捜査官はいけたかしら?」


「はい。天使型に対応できるかどうかは、遺物管理局で捜査官資格を取得するのを奨励される要件に入っています。クレア捜査官は、ユーリ捜査官がいる限りはユーリ捜査官に任せればいいと言っていましたが、対応できると言っても、対応可能範囲にかなりの差がありますね」


「そうね、天使型にとってユーリ捜査官は天敵よ。次点でユレスかしら。ユレスとワトスンはお休み中だから、ユーリ捜査官に頑張ってもらうのが最善だと思うわ。適性があったり得意な人にお任せするのは、人任せのようでいてそうでもないわよ。

 代わりに自分が得意とすることを引き受けるなら単なる役割分担だし、世界は皆がそれぞれ少しずつ役割分担しているし、そうやって維持されていくものよ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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