本当に自分を救えるのは自分だけよ・1
「本当に自分を救えるのは自分だけよ」
「ミヤちゃん、厳しい。でも、確かにそうかもね。この映画って、救世主様っていう指導者?英雄って言った方がいいのかな、その人に救って貰おうと皆でついていったけど、その人がいなくなったら互いを利用し合って裏切り合って最後は崩壊したっていう救いのない話だよね。あ、でも最後に残った子だけは、救世主様の教えたとおりに生きたのが救いか」
「救世主は、その子の前では弱音を吐くくらいには、誰をも救う英雄ではなく弱いところもある人だったわ。救世主と呼ばれても、自分には誰一人救うことなどできないと嘆いたのは、正しく真理を理解していたとも解釈できるわね。
自分は何もかもを救えると思うのは傲慢な思い上がりよ。救世主にしか救えないと言うなら、救世主がいなくなったらどうするのかしら。救いのない世界だわ。周囲もいけないわね、縋って頼って救いを求めることしかしないから、救世主を追い詰めたのよ」
「確かにね。救世主は世界をお救いくださいって縋られてたけど、あたし、だったら救世主のことは誰が助けてあげるの?って思ってたよ。でも、そっか、自分で自分を救えばいいだけか。自分のことなのに、人任せにする方がおかしかった」
リマはあっさり納得してくれたけど、そういう思考ができる人は、自分で自分自身を救えるし、人に救いを求めるより救いを求められる側になる。
だから、リマにお説教じみたことを言う必要はあまりないのだけど、縋りつかせないように釘を刺す必要はあるわ。
人任せにして、縋って頼って救いを求めるだけの安易なことをしたがる人は、結構いるのだから。
「自分で自分を救えるだけの余裕と実力がないと、人は救いを求めて縋るだけの存在になりやすいのよ。旧世界では奴隷という、自由行動も自由意思も封じられて、使役される道具のように人が扱われていたこともあるけど、そういう状態に置かれている人たちに自分で自分を救えって言うのは無理があるわ。
自分で考え、行動し、自分で自分を救えるようになるまで、助けの手が必要よ。人としてのあらゆる力を奪われていた人たちに救いを与えて、自分の力で立ち上がれるように導くために。
でも、自分で立って行動できるようになったのに、助けてもらい続けたいと思うようになったときから、崩壊が始まるわ。それは人としての進歩も進化も捨てたことだし、助けてもらい続けることで誰かに負担だけを強いることになる。
自分たちは救世主の元で世界の救済のために働くのだと言っていた人たちが、救世主に縋り続けることで救済の足を引っ張って重荷を背負わせて、結果的に救世主を死なせて世界を崩壊させるのよ。皮肉と矛盾に満ちた話でもあるわ」
「うーん、でも、最後に残ったあの子みたいに、救世主が本当に言いたかったこととか、したかったことを受け継いで伝えていくこともあるよね?」
「そうね、だから、世界はなんとか続いていくの。この旧世界映画の続きはないけれど、これは旧世界の歴史上の話を元に作られた映画だから、旧世界の歴史がどう続いたのかの話はできるわ。
救世主の教えを受け継いで広めていこうとした人たちの団体は、世界中に広まって教えを浸透させたわ。ただし、救世主の教えは歪み、団体の活動に都合よく使われたとする旧世界資料も確認されている。
その団体は、救世主が本当に助けたかった人たちから搾取して、その団体の教えに従わない人たちを虐殺したの。分け隔てなく世界全てを救おうとした救世主に背き貶める行為を、救世主の名のもとに行うのよ。矛盾しているどころか、救世主に敵対しているとしか思えなかったわ。
旧世界の末期には、新たなる救世主として名乗りを上げた人が何人もいたわ。それだけ世界は追い詰められていて、救いを求めていたのね。でも、救世主と名乗ったところで、世界は救われるものでもなく、旧世界は崩壊したわ」
「旧世界って……本当に救われないなぁ」
「救われない状態が続くよりは、いっそ崩壊する方が救いかもしれないわ。旧世界が崩壊したからこそ、今の世界が再構成されたわけだし。この世界に埋まっている旧世界の欠片が、旧世界の過ちと教訓を教えてくれるからこそ、今のような社会制度が整備されたのよ。
ただ、旧世界の遺物は教訓と同時に人を堕落させる概念も伝えて来るから取り扱いに注意が必要になるの。今見たのは教訓的な映画だけど、救世主に縋って助けて貰えばいいという安易なことを考える人も出て来るでしょう?それは人の進化に反するし、世界を停滞させて崩壊に導くと判断されたから、これは非公開作品となったのよ」
「うん、確かに教訓的だけど、危険な作品でもあるのは分かったよ。だから、遺物管理局の人と一緒に、今みたいな解説も込みで鑑賞するならってことになっているわけだね」
「そういうこと」
旧世界映画の鑑賞を終えて遺物管理課に報告しに行ったら、にゃあにゃあ聞こえたわ。
でも、明らかに人の声であって、ユレス捜査官の相棒の可愛い子猫の鳴き声ではない。
しかも鳴いていたのは、遺物管理課長だったわ。その隣で宥めていたローゼス管理官が私たちを見て言った。
「ほら、課長、しっかりしてちょうだい!お客さんが来たときは泣き事は禁止よ!」
「いえ、映画鑑賞室の使用終了を報告しに来ただけですので、お取込み中のようですし、すぐに失礼します」
「まーまー、そう言わず、あ、そうだ、美味しいお菓子を貰ったからお茶淹れるわ!旧世界映画見た後って、結構精神疲労するから休憩は必要よ!」
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