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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
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喧嘩するときは観客を味方につけるべきね・1


「喧嘩するときは観客を味方につけるべきね」


「そもそも、喧嘩しない方がいいと思うんだけど!ミヤちゃんは、なんでときどきそうも蛮勇なのかなぁっ!?」


「逆よ。あの場では周囲を味方につけられるし、公正な証言を得られると冷静に分析したからこそ仕掛けたの。相手は、私が黙って引き下がると想定していたようだし、その場合は想定外を行く方がいいわ。つまり、黙らず受けて立つ方が正解よ」


「言いがかりみたいなこと言われて、黙って引き下がるのもおかしいのは同意する。でも、相手がめんどくさいよ。ミヤちゃんだって、誰なのか分かってたよね?」


「監察局の美女監察官は時事情報放送で特集が組まれていたし、他の人たちに挨拶して自己紹介しているのも聞いていたわ。私たちには名乗るつもりもなく、突然話しかけて来たけれど。

 女って水面下で仄めかしや嫌味を駆使して来るし、美女監察官は指摘されても言い逃れできる上級者の実力を持っているようだけど、常に優位に立てるわけでもないという教訓になったのではないかしら。

 相手が理詰めの正論で反撃してくる女で、周囲にまっとうかつ理性的な判断ができるドルフィーファンたちがいるときは、やめておいた方が賢明だったわ」


「うん、まあ、ドルフィーファンたちがまっとうかつ理性的かどうかについては別問題としておいておくとして、ミヤちゃんが冷静に分析したとおり、ドルフィーファン仲間であるあたしたちのために公正な証言をしてくれるし、味方になってくれるとは思う」


「ケイト監察官は周囲の誰もが自分の味方をするはずと思い上がっていたことも、敗因だと思うわ。情報力が足りていない」


「いや、さすがに優秀な女性監察官でも、個人活動のことまで把握しきれないし、したら駄目だし、興味ないならドルフィーファンたちの繋がりとか知ってる方がおかしいって。だって、デルシー以外では、それぞれ立派な成人として振る舞っているし、節度あるお付き合いしてるじゃない」


「そうね、その反動でデルシーでは一緒に、きゃーっと叫んで騒いで盛り上がっているけど」


 成人として勤務し始めてそれほど長くは経っていないけれど、職務を円滑に進めるためには、与えられた職務に相応しい成人としての振る舞いが必要なことも分かるし、配慮するわ。


 でも、人はときに自分を解放し、ごく自然な心のままに行動することも必要よ。

 そうでないと、どこか無理のある不自然な人生になるし、精神に歪みを生んだり、生活を行き詰らせることになりかねない。


 だからこそ、個人活動の時間が重要視されるし、個人の権利はしっかり守られるし、個人活動で何をするかは、犯罪や規制された行為でない限り、誰であれ口出しすることはできない。

 デルシーでドルフィーたちを見てきゃあきゃあ盛り上がろうが、これは個人の正当な権利の範疇よ。


 私は遺物管理局職員としてデルシー海洋遺跡のご案内係を務めているし、ドルフィー遭遇率が結構高いからか、気にかけて貰っていると思うわ。


 私たちが言い掛かりのようなことを言われていたら、周囲にさりげなくいたドルフィーファンたちが助けに入ってくれることは分かっていた。

 だからこそ、私から仕掛けたし、リマもそれは分かっている。


 ただ、何か言っておきたい情報があるようだから、追い込まないほどに反撃の言葉を叩きこんでから、リマに手を引かれてさっさと現場から撤退したけれど。


 本日は他の局と合同で職務をする機会のある職員が、各局の職務内容や規制事項についての研修を共に受けることによって、合同任務が発生したときに円滑に協力体制を取ることができるようにする目的で集められた。


 研修後の交流会は任意参加となっていたけれど、ここで交流しておくと今後に繋がることは説明されずとも分かるので、外せない予定が入っている人たち以外は参加しているわね。


 交流しておくべき人たちとは話したから、そろそろ帰っても構わないと思う。特に、喧嘩一歩手前に近いことをしてきた身としては、穏便にすませるには交流会の会場に戻らない方がいい。


 リマも警備局特務課として参加していたけど、会場に残っている班長から通信文が来たようで、<菩提樹>に行こうと言いだしたわ。


「班長も含むドルフィーファンたちが上手くうやむやにしつつ、ケイト監察官から絡んできたとか、ミヤちゃんが遺物管理局の名誉のために立ち向かった感じの情報を会場中に拡散してくれたよ。

 治療局のロージーさんも交流会から参加していたみたいで、遺物管理局だからという理由で絡むのは人権問題だと言って回ってくれてるようだし、ケイト監察官の方が居心地の悪い空気になったかも。だからなのか、ケイト監察官はミヤちゃんが会場に戻ったら再戦する気でいるみたいだから、このまま撤収した方がいいよ」


「分かったわ。そこまで配慮してくれたお礼をしないといけないわね」


「ドルフィーファンに無粋なお礼は不要って暗黙の了解があるから、最新のドルフィー情報でいいと思うけど、何かある?」


「マークからこの前聞いた情報でいいかしら。リマには話したけど他の人にはまだ言っていないわ」


「十分だと思う。じゃ、通信文送っておく」


 ドルフィーファンたちが求めるドルフィー情報とは、つまりドルフィーとの遭遇率が高い宿泊日情報であり、関連する施設情報でもある。

 さらに踏み込んで言えば、昏睡しているのにドルフィー遭遇率100%を維持できる遺物管理局職員の情報が求められているわ。


 踏み込んだ情報の取り扱いには細心の注意を払う必要があるけれど、自然環境課提案によるドルフィー関連施設の情報ならば、それほど気にせずに開示できる。


 デルシーの支配人も正式発表や公表前にわざと情報を一部流出させて話題を作ったり、宣伝効果を高めるので、知っている人は知っているかもしれない最新情報も追加して送って貰ったら、会場の片隅でこっそり盛り上がり始めたとの報告が来た。


 ついでに、監察局所属の美女、ケイト監察官の続報も。


「居心地が悪いからか、あたしたちのことを探しに会場を出たっぽい。結構執念深い女なんだね。まあ……納得だけど。取りあえず、即座に撤収して正解だったよ」


「何か不穏な情報を持っているのね?」


「不穏っていうか、ミヤちゃんは知らないんだ?まあね、ミヤちゃんもそういうの興味無いの知ってるけど。でも、ケイト監察官の態度からして、ミヤちゃんは遺物管理局捜査官として知っておいた方がいいと思うから、<菩提樹>で話すよ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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