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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
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宣伝とは、危険な行為よ・2


 レックスにいくつか楽曲を提供した後、それなりに人が立ち寄るようになってきた。


 そして、メイリンがステージで歌い終わった後は、子どもと未成年がわーっとやってきた。

 幼いながら、彼らはドルフィーファンであり、メイリンがステージで歌ったのは<いけいけドルフィー号!>というそのまんまな歌なので、席に座ってしっかり聞いて来たようね。


 ドルフィー号はレクサ工房製クラフターだし、ドルフィー塗装の依頼を受けていることもあって、メイリンとレックスもデルシーに来るようになった。

 マイクルレース場の話題になって難関コースのドルフィー号の映像記録を映したときに、メイリンが即興で歌ったのが<いけいけドルフィー号!>の元となったと支配人から聞いたわ。


 子どもたちも聞いていて、わーと盛り上がって何度も歌うようにせがまれたので、ちゃんとした楽曲に仕上げたそうね。


 マイクルレース場や自然区でクラフターの制限解除をしてかっ飛ばすときに聞くと気分がいいらしく、クラフター愛好者たちの間でも結構人気になっている。


 屋台に来たドルフィーファンの子たちが、<いけいけドルフィー号>のような旧世界楽曲があるかと聞いて来たので、ここぞとばかりに紹介した。

 こうなることは予測されていたわ。私だけでなく何人も予想していたので、子ども向けの楽曲の品ぞろえには密かに自信があったりする。


 楽曲を色々紹介してみたけれど、一番人気はユーリ捜査官のお勧めだった。いつの間にか戻ってきていたライルも好きみたいだし、男の子好みなのかしら。


「あたしも好きだけど、この楽曲を聞いたことがあるけど、何かが足りていない気がするんだよね」


「よく分かったわね。リマが遺物管理局に参考資料の閲覧に来たときに、一部だけど聞いたことがあるわよ。旧世界の映像作品の中で流れる楽曲だけど、大体の場面で派手な爆音が入っているの」


「あ、それかぁ。爆音が足りなかったんだね」


「姉ちゃんたち、何の参考資料見たの!?楽曲に爆音とかいらないっす!」


「爆音だと不穏すぎるから、効果音と言っておいた方がいいかもしれないけれど、人の注意を引き付けるのに、大きな音とか効果音って有効よ」


「そうだね。ステージで歌うときもさ、最初の出だしで大きな声出すとか、大きく音鳴らして注目集めたりしてるのと似たようなものだよ」


「俺は屋台に夢中だったりする人が多いからかなって思ったりもした。姉ちゃんは、一応席に座って歌を聞きつつも、あっちに行列できてるから、美味しいのかも、並びに行かないとって言っていたし」


「そうだった。ライル、並んでこい」


「姉ちゃん、酷い!」


「私はそろそろ交代だから、三人で並びに行って会場も巡ってくる方がいいわ」


「じゃ、そうしよっか」


 行列はできていたけれど、店の人が上手くお客を捌いていたので、そんなに待たずに済んだわ。


「あ、これあたしが好きな味だ。一巡りして、もう一度食べてもいいかも」


「姉ちゃん、一巡りしたらなくなってるんじゃない?」


「じゃあ、ライル、今並んで来い」


「大丈夫だと思うわ。イベント終わるまでもつように食材も資材もしっかり用意してあるし、足りなくなったら即座に補充できる体制を整えているようだったし。こういう店なら、宣伝しても問題ないけれど、宣伝しなくてもお客が集まるし、食べた人が勝手に宣伝してくれるから、いらんことする必要が無いわね」


「確かに、あたしも知り合い見つけたらお勧めしようと思ったけど、宣伝し過ぎるとすぐに無くなっちゃうのは困るとも思ったよ。派手に宣伝したのはいいけど、食材も足りなくなってお客も待たせ過ぎたら、逆にお客も減っちゃうあたり、宣伝って怖いよね。リリアがやらかしてくれたことあったけど」


「そうね。何事も度が過ぎると良くないということを実体験で学ばせてくれるあたり、貴重な人材だと思ったことはあるわ」


「俺の同年は普通の奴らで良かったっす。姉ちゃんが色々言うから、実は怯えてたんすけど」


「だから、あそこまで強烈なのは滅多にいないと思うって言ったじゃない。そういや、あのときミヤちゃんが、旧世界の過ちを繰り返すとか言っていたよね?リリアが大声出して騒いでうるさくて聞き取れなかったけど、どういう話だったの?」


 楽しいイベント会場を巡りながら話すことでも無いけれど、ライルの教育になるかと思って話しておくことにした。


「単なる宣伝に見えても、害になることもあるという話よ。旧世界にも時事情報放送のようなものはあったけれど、誤った情報とか事実と真逆だったりする情報とか、無価値なものを価値が高いものであるかのように放送していた事例がたくさん見つかっているわ。

 例えば、大して美味しくない上に毒がある食べ物を、誰もが絶賛する美味しさとか皆に大人気って放送して宣伝するの。旧世界の人の多くは、時事情報放送のように広く大勢の人に情報を発信するものは正しいって思いこんでいたから、そうやって宣伝されたことを素直に受け入れてしまって、美味しくも無い上に毒のある食べ物を高い対価で入手するようなことが起こるわけね」


「うえっ!?それ、犯罪じゃないんすか!?」


「そうね、旧世界でも詐欺とか下手したら傷害事件に該当することだけど、旧世界の時事情報放送がそんなことはない、詐欺だと言う方が間違っていると大々的に放送したら、まっとうな訴えも潰されてしまって、本当は間違っていることが正しいかのように多くの人に受け取られてしまうの。

 リリアを例にとって言えば、妄想のままに事実と違うことを言いふらして回って、さらにそれを指摘されても自分は悪くない間違っていないって大声で喚いて、泣き叫んでそれを押し通してしまう感じね」


「うん、規模は違うけど、旧世界の過ちを繰り返した感じだったね。なんか、旧世界のことを聞けば聞くほど、悪質だなぁって思っちゃう。<私たちは世界だ>の歌みたいに綺麗なものもあったんだって分かってはいるんだけど」


「崩壊要因になるほどに、救いようもなく悪辣なものも多かったのは事実よ。ただ、それだけでは無く綺麗なものもあったと分かってくれるだけでいいと思うわ。その上で、旧世界の過ちは繰り返さないことにする方が健全ね。

 旧世界の時事情報放送関係の資料からは、問題のある事例がたくさん見つかっているから、今の世界の時事情報放送は悪影響を最低限にとどめるべく厳しい規制の元で運用されているわ。そう言えば、治療局もそうね」


「え、そうなんすか?」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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