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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
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宣伝とは、危険な行為よ・1


「宣伝とは、危険な行為よ」


「な、なんすか、ミヤリさん、そんな重々しく言うような、何か不穏なことでもあるんすか!?だったら、姉ちゃん止めてこないと!というか、姉ちゃんが宣伝して来る!って行ったときに止めてくれないと!」


「リマなら宣伝すると言いつつ屋台料理に気を取られて、私たちの分を両手いっぱいに抱えて戻って来る過程で忘れるからいいのよ」


「あ、はい、姉ちゃんだとそうなるっすね。でもそれも間違ってる気がする……。そりゃ、食べ物とか飲み物の屋台はたくさんあるけど、今日は人気歌手が広場ステージで交代で歌ってくれるイベントのはずなのに、姉ちゃんは屋台の話しかしてない!」


 ライルが言う通り、本日は野外広場を会場にして歌のイベントが開催される。結婚と出産のために活動休止していた歌姫マリア・ディーバが久しぶりにステージで歌うので、かなり話題になっていたわ。


 イベント会場には、火宴祭の際に新王国が襲撃して来た野外広場が選ばれた。

 事件の現場となってしばらくの間封鎖されていたのだけど、使用可能になったし、最初の頃は敬遠されていたけど、今ではそれなりに使われるようになってきているわね。


 大きなイベントを開催して野外広場の印象を塗り替えようという思惑もあって、今回のイベント会場に選ばれたのかもしれない。


 大惨事になりかけた事件だけど、恐怖体験より会場中に響き渡っていた<私たちは世界だ>の歌の印象の方が強かったらしく、野外広場の話題になると、怯えるより<私たちは世界だ>の歌を思い出す人が結構多い。


 だから今回のイベントには<私たちは世界だ>を歌った遺物管理局職員も歌手としてステージに招かれたようだけど、歌手が多すぎるのと、にゃあを歌う歌手が不在とあって辞退した。


 その代りに、遺物管理局は旧世界の楽曲を紹介をする屋台を設置することになった。


 遺物管理局職員たちがお勧めする旧世界の楽曲をボーディ前局長の相棒のAIが旧世界言語で歌ってくれて、さらに今の世界の言語に翻訳した歌詞カードも用意したので、結構手間がかかっている。


 旧世界の言語は今の世界の言語とは異なるから、万人に受け入れられるとは思わないけれど、旧世界の楽曲を紹介して聞いて貰って、気に入ったらこの場で楽曲の音響情報データを提供することになったわ。


 私がくじ引きで屋台の運営担当になったと聞いて、リマが弟のライルを連れて来たけど、無理して遺物管理局の屋台の宣伝をしてくれなくていいのよ。趣味は人それぞれだし、無理に押しつけるようなものでもないし。


 食べ物とか飲み物の屋台がたくさん出ているから、私たち遺物管理局職員も交代で食べ歩きする予定だったし、屋台での楽曲紹介が忙しくなったら、ステージの歌を聞いている余裕もなくなるし。

 

 警備局は激務なのでこういうイベントの招待状を優先して貰えるけど、今回はステージで歌う歌手が豪華なので、招待状を欲しがる人が多数で抽選になったくらいだし、私もステージの歌を結構楽しみにしている。


 リマは歌よりもたくさんの飲食物屋台の方に惹かれて招待状を貰って来たのではないかと思うくらいだけど、予想通りに両手いっぱいに食べ物を抱えて戻ってきたわ。


「ごめん、つい、美味しいもの情報に夢中になって、宣伝忘れてた。あ、これ、遺物管理局の皆さんもどうぞ」


「ありがとう。宣伝してくれるより差し入れ調達してくれる方が嬉しいわ。リマは宣伝するのも危険だとわかるでしょ」


「人によると思うけど、うん、まあ、過剰な宣伝は性犯罪者を呼び寄せるだけだよね」


「姉ちゃん、何なのそれ、怖いんだけど」


「ライルにも話したでしょ。過剰にお色気振りまいては、性犯罪者を引っかける魔性の女のことを。未成年の頃に同年で店の運営体験するために屋台を出したことがあったんだけど、お色気過剰な衣装で宣伝とか呼び込みに行って、性犯罪者とか変態を大量に呼び込んで来たわけ。あたしたちまで被害に合いかけたよ」


「え……?姉ちゃんまで?」


「お前は、姉に何か言いたいことでもあるのか」


 姉弟のいつものじゃれ合いが始まったけれど、イベントも始まったので、リマとライルはステージ近くの席に向かった。


 屋台からでも十分聞こえるように配慮されているけど、私とリマがこのイベントに参加することを伝えたら、歌手のメイリンがステージから手を振るねと言ってくれたから、リマはステージ近くにいた方がいいわ。


 マイクルレース場で出会った、レクサ工房のメイリンとは結構会っている。ただ、メイリンが歌手の仕事をしているときではなく、クラフター塗装現場でになるけれど。


 マイクルレース場の大レース会のとき、私たちはドルフィー号を徹夜で塗装し、そしてドルフィー号は華麗に優勝した。

 その後、ドルフィー的塗装をしてほしいという依頼が結構たくさんあったし、私たちは依頼に応じて来たわ。


 あのとき、時間に追われていた中で互いに最大限努力したと分かっていたけれど、もっと高みを目指せたと思って心残りがあったのよ。


 メイリンは不器用なのでクラフター整備にも関われないそうだけど、塗装ならできると自信を持ったらしく、歌手をやめて塗装専門もありかと検討していたわね。

 でも、歌手のメイリンには長年のファンがいるし、レクサ工房も一気に持ち直したから、レクサ工房の紹介と宣伝のためにも歌手は続けることにした。


 それで個人活動の時間に塗装倶楽部としてクラフター塗装を請け負う仕事をすることにして、私たちもドルフィー塗装専門として参加しているわ。


 レクサ工房の技術者であるレックスとメイリンで塗装倶楽部を運営しているけど、二人は結婚して子どもも生まれてさらに忙しくなったのに、着々と規模拡大しているあたり、働き者ね。


 二人ともじっとしている方が苦手だからかもしれないけれど。


 レックスがあちこちの屋台を巡っているのに気付いていたけれど、遺物管理局の屋台にも来てくれたわ。


「こんにちは、ミヤリ」


「レックスは席にいなくていいのですか?」


「メイリンが歌い終わったら早めに帰る予定なので、お土産を調達しておくように言われています。子どもたちの機動力が増して、工房長だけでは対応しきれなくなってきているんですよ。子どもが聞いたら眠くなるような楽曲ってありますか?」


「そういうのがあったら規制対象になりかねません。ただ、退屈な音の繰り返しで、成人が聞いても眠くなるものはあります」


 レックスとメイリンはすぐに子どもに恵まれたけれど、メイリンは活発なので妊娠中も仕事の量は減らしつつも続けていたし、レックスもメイリンが元気に仕事している方がいいと言っていたわ。


 子育てに関しては、工房長が頑張っているというか、自分が孫たちをしっかり育てるから二人は仕事しろと仕切ったらしい。

 工房長はそろそろ隠居して次代に譲ろうと考えていたそうなので、ちょうど良かったのかもしれないわね。

 

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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