表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
159/371

性癖は自由です・4


 勤務が終わる頃、課長がクレア捜査官をおもてなししてくれと言って条件型交流場の招待状を押し付けてきたので、監察局に持っていかれたセクサロイド型をいまだ諦めていない姉御の監視任務と思って受けたわ。


 その交流場のことは知っていたし、一度行ってみたかったからというのもある。

 リマも行きたがっていたので、クレア捜査官に同行させていいか聞いたら、快く頷いてくれた。


 警備局特務課のリマとは何度か共に仕事をしているし、性格的にも反発しないのは分かっている。でも、リマは警備局として行き過ぎた変態行為を取り締まった方がいいわ。


 そう思っていたけれど、交流場に入ったら私もリマも姉御が多少変態行為しても許容できる気分になった。何故ならば、自分たちも人のことを言えない状態になったからよ。


 そう、ここは、動物型人形をたくさん集めた交流場であり、ゆったりとしたソファに持って行って、好きなだけ可愛がっていいことになっている。


 ドルフィー型人形も置いてあると、ドルフィーファン情報で知っていたけれど、思った以上にたくさんの種類の動物型人形があちこちに並んでいるので、見て回っているだけでも楽しめるわ。


「この子、可愛い!3体までは席に連れて行っていいんですよね!?」


「はい。3体までであれば、お好きな子たちを侍らせてください。他の子を愛でたい場合は交換していただくようお願いします」


「あたし、こいつにする。毛並みもいいけど、見えない筋肉までしっかり作りこんであるよね?あー、いいわ、この筋肉の弾力を上手く再現した感じ」


 クレア捜査官が違う観点で選んで、巨大な猛獣型人形を撫でまわしているけれど、条件型交流場の主人は満足そうに頷いて応じてくれた。


「これはこれは、お客様はお目が高い。その通り、触ったときの感触までしっかり作りこんでいるのがこの職人の特徴で、安易に表面だけに手をかけるより完成度が高いと思っております。この美しい体つきは筋肉あってこそですからね!」


「わかる!そりゃ、表面も完璧な美形の方がいいけど、その下の筋肉ががっかりだと、いまいち楽しめないしね」


 それぞれ違う観点で話しているけれど、妙に噛み合ってしまったわ。


 気に入った子たちを席に連れて行ったところで、念の為姉御に聞いておくことにした。


「もしかして姉御は、猛獣もいけるのですか?」


「自然生物に変に干渉したら駄目じゃん。そこは、ボーディ前局長とジェフ博士に厳しく指導されたよ。指導するならユーリ捜査官にするべきだってのに」


「え……ってことはまさか、ユーリ捜査官はいけちゃうんですか?」


「安心しな、ユーリ捜査官に変態性癖は無いから。ただ、あれだよ、ユレスと同じっていうか、もしかして血統的にそうなのかもって思ったことあるけど、自然生物相手に強いね。

 自然区によく行くから慣れてるのもあるんだろうけど、自然生物に食材貰ったり、猛獣に乗って遺跡調査の現場に来たこともあったよ。自然生物保護規定にひっかかりそうなんだけど、自然生物の方から懐いて来るから、自然環境課的にはあれは人と自然生物の美しい交流であって問題ないと認定されてるかな。ユレスがドルフィー侍らせてるのと同じ感じで」


 私たちも今、ドルフィー型人形を侍らせているけれど、ユレス捜査官のようなドルフィー・ハーレム状態には程遠い。

 姉御は猛獣型人形を撫でまわしながら続けた。


「ま、そもそも生物は種族が違うと子ども作れないし、生殖行為に励む意味もないから、まっとうな生物だと同種族以外とそういうことしようとする発想自体ないよ。だから、その境界を超えてしまうと変態となってしまうわけだね。こうやって愛でて触れ合うだけなら、自然な親愛の行為だけど」


「そうですよね。あたしもこれは健全だと思います!というか、人同士もそれでいいんじゃないかって思っちゃうんだけど。無理やり生殖行為を強いる方が不自然だよ。局長が性犯罪者は後から後から湧いて出てきりがないって言うけど、ほんと、もう、性犯罪は駄目だよね!」


「今日もまた、性犯罪者を捕まえて来たのね?」


「今回のは強烈だから、注意喚起も込めて時事情報放送で周知されることになるから言っちゃう!よく似た姉と弟がいるんだけど、お姉さんが結婚したんだよ。で、身内でお祝いして盛り上がったけど、弟は宴会終わった後から消息不明になったというか、職場に来なかったんだよね。

 お姉さんがもしかして自分たちの結婚に実は反対していたのかとか、思うところがあったんじゃって心配して、すぐに警備局に捜索願が出て動いたんだけど……結論言えば、親戚の家に監禁されてた。

 その男はお姉さんが好きで口説いてたけど、別の男と結婚することを知らされて、きっぱり諦めるからお祝いはしたいってことで宴会に参加していたわけ。で、弟は男がかなりしつこかったから警戒して、近くで監視していたんだけど、その男は本当に諦めるつもりって言って好きに監視させていて、他の人たちから見ても怪しくなかったみたい。

 でもね、罠だったんだよ。本当に姉の方は諦めたんだけど、弟に狙いを切り替えて、監視として弟が男の家までついてきたのをいいことに、そのまま連れ込んで監禁してたの!女装させたらお姉さんそっくりだし、それならそれでいいみたいな?ゆくゆくは性別変更治療を受けさせてみたいな計画まで立ててたよ!怖い!」


 怖いと言って、ドルフィー型人形をぎゅむーと抱きしめているけど、そうしていると緊迫感が無いわ。


 それから、私とクレア捜査官が一緒に怖いと言ってあげられないのは仕方ないわ。


「うーん、割と普通?」


「そうですね、この前読んだ旧世界事件記録に比べると、平和的と思ってしまいました」


「監禁して性別変更治療まで計画されてるのに、平和的なの!?」


「リマ、旧世界人はもっとえぐくて人権倫理を無視するどころか踏みにじるような性犯罪も、平気でやらかしていたわ。これしきのことで怖いとか言っているリマにはまだ早いから語るつもりは無いけど、その弟は油断し過ぎだし、そういうこともあり得るから注意するように周知を図るのは必要だと思うわ」


「そだね。まさかそんなことは無いとか思ってると、捜査も遅れるじゃん。というか、間に合ったの?」


「ぎりぎり間に合いました。さすが局長です。中間報告を見た段階で、弟を姉の身代わりにする性犯罪者かもしれないと見抜いて、後から理由は適当につけてやるから、特務課がその男の家に強行突入しなと指示されたんですが、際どいところでした。

 女装させられて縛られた上で一線超える寸前に至っていたので、現行犯で押えましたよ。そう言えば、班長が局長に第一報入れたときに、局長がなんだ思ったより普通の変態だったかって言っていたそうですけど、さらに上がいるってことですね!?」


「警備局長は個人活動中も性犯罪を未然に防いだり、性犯罪者を仕留め続けてる専門家じゃん。男を見ただけで、大体の性癖は読み取れるって言ってたよ。変態にいちいち構ってられないから、犯罪に踏み込まない限り、性癖は自由と割り切ることにしたんだと。遺物管理局でもそういう方針になってるのは、警備局長意見を取り入れたのかもね」

 

 交流場の主人が飲み物と軽食を運んで来てくれるのが見えたから、性癖とか性犯罪の話は切り上げた。

 こういう場では相応しい話題で盛り上がるのが礼儀ということくらい弁えているわ。


 ただ、姉御と意気投合してしまった交流場の主人は性癖関係にも深い知識を持っていそうね。姉御が猛獣型人形を撫でまわしているのを見て、恋人と同じ毛色と目の色で特注することもできると言いだしたし。


「特に決まった相手いないけど、それ、いいね」


「はい。実在の人の顔と同じ人形を作ることや、人の大きさの人形を作ることは人権尊重の観点から厳しい規制がかかっていますが、動物型人形に関しては自由度が高いものです。可愛い動物型人形の色合いを可愛い恋人に似せることくらい全く問題ございません」


「え、えーっと、それはそれで身代わりにしているような気もしつつ、うーん、単に色合いだけの問題ならいいのかなぁ」


「規制には引っかからないし、いいんじゃないかしら。マークだって、ドルフィー型人形を見て、ララの色合いはもっとこうとか目の色はもっと薄くとか色々言っていたじゃない」


「あ、うん、特注していたし、それ考えると全然問題ない気がしてきた」


 全員合意に至ったので和やかに盛り上がったし、姉御も機嫌よくなったので、しばらくセクサロイド型については忘れてくれそうね。


 自室に帰って時事情報放送の画面を展開しておいたら、リマが言っていた事件が放送され始めたけれど、この内容だと性癖は個人の自由として尊重されるべきだと主張する団体がうるさく騒ぎ立てそうね。


 その対策なのか、警備局の主張が最後に大きく表示されて終わったわ。


 私も日記に今日の一行を記したけど、同じようなことを書くことになったわね。


【 性癖は自由です。ただし、犯罪行為に至らなければ 】


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ