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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
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性癖は自由です・3


 ローゼス管理官も交えて、遺物管理局の捜査官としての良識の元に、遺物調査課長とクレア捜査官から事情聴取した結果、ぎりぎり問題ないことにして流すこととなった。


「ええ、性癖は自由よ。犯罪でないならね……」


「ローゼス、僕の良心がこれは犯罪だと訴えているんだけど」


「ガンドはお堅いねぇ。旧世界的にはこれくらい犯罪にあたらないって。だってさ、あたしが子どもの頃のユレスに体術の指導をしてる健全な映像記録じゃん。課長が鼻息荒く映像記録撮ってたから、ボーディ局長が指導入れていたけど、一部の変態紳士以外には子どもの訓練指導の参考資料になるって裁定したし」


「その通り。一生懸命クレア捜査官の真似をしている姿が可愛かったので、関係者で複製をそれぞれ隠し持つことで合意に至ったから、全く問題ない」


「課長、隠し持つあたりで犯罪の気配が濃厚になると思います。ユレス捜査官はご存じなのですか?」


 私の質問に課長とクレア捜査官がさっと顔をそむけたので、答えは聞かずとも分かったわ。


 良識担当のガンド捜査官に目を向けたら、遠い目をして言った。


「……うん、ユレス君が知らないことって結構あるし、女装は妙に嫌がっていたけど、ボーディ前局長が訓練用の資料と認定した映像記録ということになったなら、それであっさり納得して流してしまいそうかな。僕がボーディ局長は旧世界管理局の最後の良心だから、ちゃんと言うこと聞こうねって教えたら、素直にそれを受け入れて信じていたからね」


「マイクルレース場で最難関コースに引きずり出されるまでは信じていたあたり、幼少時の刷り込み効果を実感したわよ。それはともかくとして、ユレスは使えるものは使い倒すから、きっと割り切ってくれると思うわ。ええ、そう信じているから、流しましょ。

 それから、セクサロイド型については、姉御の計画通りアレク監察官に言いつければいいと思うの。何なら、アタシから言いつけるわよ。勤務後に急遽会う予定になったし」


「そういや、ローゼスは雨の森で休暇じゃなかったっけ?勤務予定も急遽入ったの?」


「うちの課長から、変態課長が荒ぶってるから対策会議をすぐにしないと!って緊急連絡が入って呼び出されたのよね。あんまり追い詰めないであげてちょうだい。性癖は自由とは言え、子どもに手を出しかねない変態は刺し違えても止めるって、覚悟決めちゃってるんだから」


「芸術とは愛でるものであって、手出しするなどもってのほか。このわたしをそこらにいるただの変態と思わないでもらいたい」


「変態と変態紳士の差って、誤差くらいじゃん」


「はいはい、変態談義は二人でやってちょうだい。じゃ、セクサロイド型の件はアタシが預かるわね。それから、新規で発見された遺物関連のことは、たぶんアタシが引き受けることになると思うから、後で打ち合わせしましょ。じゃあね」


 さっそうと去って行ったローゼス管理官は体は男、心は乙女という特殊な自己表現をしているけれど、性癖はまっとうなので変態ではない。

 変態と特殊な自己表現との間の差は越えられないくらいに大きいと思うわ。クレア捜査官もそこは認めている。


「ローゼスの趣味は割と正当派だしね。いっそ体も乙女になってしまえばしっくりくると思うけど、ローゼスが言うには、血統的に自分が女になったらお色気むんむん系になる予測しかできないから、乙女心的に無理だったんだってさ」


「僕としてはそこで男になって筋肉鍛える乙女心の方が分からないんだけど」


「ガンドはいまいち女心がわかってないよねー。旧世界的物語だと、お姫様は乙女心ごと王子様に守って貰えればいいし、その方が物語的に上手くおさまるとはいえ、現実にそういう都合のいい男なんていないよ。誰かに期待するより、自分で自分自身を守れた方が楽だし気分もいいじゃん」


「そこまでできる実力がつくかどうかはともかくとして、私もその方が気分がいいとは思います。誰かが何とかしてくれるのを待っているだけの女は、好きではありません」


「僕も自立した女性の方が好みだから、受け身の人には惹かれないけど、それでも頼ってくれると気分がいいと思うこともあるよ」


「男の心理ってそういうとこあるよねー。必要とされたいって感じの。旧世界の男もそんな感じだったみたいだけど、旧世界人って生まれたときから性別決まってるし、性別に合わせてそういう教育したからかもしれないけどさ。でも、魂の特質的にそういう性格だったら男として生まれてくるのかもしれないけどね。

 今の世界じゃ、成熟期に入ったら自分で性別選べるけど、成長期の頃からどっちの性別になるか決めてる子もいるし、あたしの見たとこ保護本能強い子って男になると思うよ」


「自然環境課のマークが言っていましたが、性分化する自然生物は役割と性別が直結している傾向にあるそうです。子どもを妊娠している間は、結婚相手の保護や補助を必要としますので、保護本能の強い個体が男に分化するのは自然の理にかなっているのでしょうね」


「うん、人もそういう面があるってことかもね。……それにしても、ミヤリが捜査官になってくれて良かったよ。そういう学術的というか高尚な意見言ってくれるとすごく助かるから、今後もよろしく。それから、僕がいない間、姉御の不適切発言をそういういい感じの意見で何とか誤魔化して欲しい」


 誤魔化すのも限界があると思うのだけど。


 ガンド捜査官が渉外課に戻って行ったら、姉御はすぐに不適切発言をし始めたわ。


「隠れてこそこそやると犯罪だけと、あたしは職務権限をもって堂々とやってるから犯罪じゃないし、むしろ体をはった貢献じゃん」


「クレア捜査官、旧世界のセクサロイド型人工物の機能を身をもって確かめなくとも、データベースで照合するか、AIの鑑定で判明するはずですが」


「課長として、一応弁護らしきことをすると、クレア捜査官はセクサロイド型に組み込まれているAIの検査をしているようなものではある。職務権限を行使したとしても、無理やりセクサロイド型と関係を持つのは犯罪認定できるのだが、クレア捜査官はセクサロイド型を口説き落としてそこに至る驚異の実力者だ。

 口説き落とす過程でのやりとりは、セクサロイド型に組み込まれたAIの性格や危険性を図る有用な情報となるし、人に不信感を持っているAIであっても、身一つで深くつながる行為を経て、不信感がある程度軽減されることもある」


「そうだよ、治療官がちゃんと研究してたんだから。ただ、情報公開するとお気楽に自分もって考えるのが出てくるから、相手を見て教えることになってるよ。捜査官なら知ってていいし、って、あーでもユレスは知らないから、起きたとしてもうっかり言わないように」


「知らないのですか?ユレス捜査官なら、変態行為はしないと思いますが」


「未分化のユレスにそういう欲求自体ないし、子守猫がついている以上あり得ないよ。子守猫は保護対象の子どもに危険なものとか子どもには駄目なものが近づいたら困るから、セクサロイド型人工物を見ると、子どもには駄目、追い払って!ってふしゃーってするから、話題にしづらいんだよね」


「ワトスン君の判定は恐ろしく精度が高いからな」


「だよねー。追い払われたセクサロイド型というかAIは、外装は特別仕様でセクサロイド型と認識されないはずなのに、なぜわかったのか謎とか言ってたことあるよ。

 あと、子猫に威嚇されて、人で言えば心がちょっと傷ついていた感じだから、あたしが念入りに慰めてあげたんだよね。ついでに、AIが人型人工物から切り離されたら、黒猫ちゃんは愛想よくなるって教えてあげてる。子どもに不適切行為をしかねないセクサロイド型人工物が駄目なのであって、AIだけなら別にいいみたいだし」


「なるほど、ワトスンは立派な子守役なのですね」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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