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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
157/371

性癖は自由です・2


 治療局と遺物管理局の地図上の位置はかなり離れているけれど、転送装置で直接行けるからすごく近いとも言えるわ。


 治療官が治療局に連絡してくれたけど、連絡が担当の人に届いていないうちに訪問しても迷惑だろうとゆっくり向かったら、到着したときには受付にいて私に合図するように手を挙げてくれた。


 お待たせしたほどではないと思うけれど、もしかして気遣いで迎えに来てくれたのかしら。


「ようこそ治療局へ、ミヤリ捜査官。久しぶりってほどでもないのかな」


「はい、この前、ローゼス管理官とご一緒のときにお会いしました。ロージーさんが消化補助薬の担当ですか?」


「ボクは治療局以外との交渉とか協力関係の窓口をしているんだ。新しい消化補助薬の基本的な安全確認は終わっているし、広く多くの人に使って貰って体質とか個人的事情による弊害が無いかの確認をしたかったところだから、遺物管理局からの申し出は助かるよ。使用後の感想や意見が欲しいから、そのための入力画面の説明もさせて貰っていいかな」


 面談室に消化補助薬を用意してくれていて、感想の入力画面についての説明も受けたけど、他にも何か話がありそうね。


 私の視線に気づいて、ロージーさんがウインクして言った。


「お察しの通り、実は別件で伝えたいことがあるんだ。ユレスさんのことなんだけど、遺物管理局長に伝言お願いしていいかな」


「承りますが、正式には連絡しづらいことですか?」


「連絡しづらいわけでもないけど、痕跡残さない方がいいかと思ってね。監察局がユレスさんのことで探り入れて来てるから、警戒したほうがいいと伝えて欲しいんだよ。

 治療局は治療対象者の情報は絶対に漏らさないし、情報流出させたら監査対象になって当然なくらいなのに、正当な理由もなく情報開示させようとしてきてさ。監察局の監査対象にするための罠なんじゃないかって意見まであったよ。取りあえず人権倫理委員会に訴えたら、人権倫理委員会から監察局に指導してくれて終わった話なんだけどね。

 遺物管理局にも連絡しておきたいけど、正式にやると監察局が察知するだろうし、そういう連絡をしたことで変に勘繰られてもめんどくさい。ローゼス経由で伝えるつもりだったけど、今、雨の森リゾートで勤務中というか休暇中でしばらく戻ってこないから、ちょうどミヤリ捜査官が来てくれたからお願いしようと思ったんだ」


「分かりました。私から局長に報告しておきます。ところで、監察局は何を探ろうとしていたのですか?遺物管理局でも、ユレス捜査官はいつ頃目覚めるかと時々話題になっていますが、予測できずにいます」


「そういう話ならまだいいんだけど、このまま目覚めない可能性の方を知りたい印象で、治療局の立場で言えば不愉快な質問をされたんだよ。

 自治区と将来的にいい関係を構築していくためには、あらゆる可能性を検討しなければと誤魔化したことを言っていたけど、火宴祭襲撃事件の最たる被害者が昏睡したまま死亡した方が都合がいいという発想をしていないことを願うね。取りあえず、アレクさんにも言いつけておいたから、お任せでいいと思うけど」


「……監察局は何をしたいのか疑問ですね。アレク監察官を怒らせるだけだと思いますが」


「ボクもそう思うけど、監察局って設立されて数年しか経っていないし、実績あげたり基盤作るのに必死なのかもね」


 だからと言って、何をしてもいいわけではない。


 遺物管理局に戻って新薬を治療室に届けてから局長に報告しに行ったら、局長がうんざりした顔で言った。


「監察局は、遺物管理局にも似たようなことを聞いて来たから、人権問題になるぞって言って引いて貰ったんだけど、治療局みたいに人権倫理委員会に訴えておいても良かったかも。大事にするとめんどくさいことになりそうだから、ボーディくらいにしか言ってなかったんだけど」


「ボーディ前局長は、分からないよう裏から手を回して意趣返しをすると思いますが」


「よく分かってるね。つまり、それくらいにはむかっと来たからやり返していいと思ったわけ。ただボーディは、ユレス捜査官がいい子に眠っているなら、それはそれでいいと思ってる駄目な性癖だから、そんなにむかっとしてないかな」


「……前局長の性癖もなかなかですね」


「他の変態連中に比べれば、圧倒的にまともだよ。遺物管理局長として、職員は自分の子どもみたいに思って面倒見ていたし、ユレスは本当に子どもの頃から臨時職員としてここにいたから、完全に親心だね。基本は見守っているけど、ユレスは事件に遭遇しやすいから、結構うるさく構っていたよ。

 ユレス捜査官が昏睡する前は大事件が連続していたし、しばらく大人しくさせた方がいいとか言っていたから、今の状態は落ち着いて見守っていられるわけだ。昏睡慣れしてると言うのも変だけど、前回の経験があるし、今回は原因も分かっているから、なおさらかな」


 局長室を辞して遺物調査課に戻ったら、ガンド捜査官がクレア捜査官を必死に止めていた。


「ちょ、姉御!!それ絶対駄目だからっ、僕もさすがに捜査官としての良心から立ちふさがるよ!?」


「んー、ガンドとやり合うのはそれはそれで面白そうだけど、ガンドは接近戦じゃなくて長距離戦主体だし、いつどこから射撃されるか分からないぎりぎりの緊張感を楽しむためには、やっぱ距離とって始めるしかないから離しなよ」


「やり合いたいわけじゃないから!ミヤリ捜査官、姉御を止めるんだ!監察局を襲撃しようとしているんだよ!!」


 監察局について微妙な話を聞いたばかりなので、クレア捜査官を応援してもいいかもしれないと思いつつも、ガンド捜査官の良心を尊重してクレア捜査官を止めることにした。


 別件で襲撃しようとしているのであれば、見過ごしたら問題だし。


 事情聴取したところ、完全なる別件だった。ガンド捜査官の良心を尊重して良かったわ。


 姉御は旧世界の人型人工物、特にセクサロイド型が大好物で、遺物管理局の捜査官として遺物を捜査するという名目で、自らの体でもってその機能を体験するのを楽しむ特殊性癖持ちだったりする。


 今の世界では禁止された行為にあたるのだけど、遺物管理局捜査官という特殊な立場限定で、職務の範疇と解釈できなくもないというぎりぎりの案件よ。


 旧世界のセクサロイド型人工物は見た目も美しく、機能も最上級ということで、入手して楽しみたいと考える人は一定数いる。

 旧世界の人型人工物を所有することは禁じられているけれど、だからこそ、隠し持っていたり、裏の取引で<知識の蛇>から入手する人もいるわ。


 そういう案件で警備局が捜査に入った結果、旧世界のセクサロイド型の人型人工物が発見された。

 事件捜査は終わったので、遺物管理局に人型人工物が引き渡されることになっていたそうね。予定ではもう引き渡し完了になっているはずだったので、遺跡調査から帰還した姉御がうきうきしながら確認しに行ったら、まだ引き渡されていなかった。


 何故かと言えば、監察局が横やり入れて、監察局で検査してからということになったからで、そのくせ今は忙しいから遺物管理局に引き渡す時期は未定と連絡してきた。

 特殊性癖の赴くままにお楽しみ予定だった姉御は、旧世界的に言えば一夜の恋人を救出するために、監察局に迎えに行くことにした。という状況だと、思うところあれど止めるしかないわ。


 でも、私とガンド捜査官が二人がかりでも、クレア捜査官を実力で止めることは不可能だし、性癖のまま野生の獣のごとく暴走するクレア捜査官に生半可な説得は無意味よ。

 だから、腕輪で情報を確認して、出勤してきたばかりのローゼス管理官に救援要請したわ。ローゼス管理官は事務職のはずなのに見事な筋肉でクレア捜査官を抑えてくれつつ、説得もしてくれた。


「んもう、姉御ったら欲望のままに暴走して、後輩に迷惑かけちゃ駄目よ!筋肉で解決していいのは、蛇とか天使相手だけよ!」


「分かってるし、あたしだって作戦考えてたのに、ガンドが聞く耳なくてさ」


「姉御は僕の説得も聞く気が無かったよね!?監察局に踏み込むこと自体やめてほしいのに!」


「姉御が直接乗り込むと、遺物管理局が喧嘩ふっかけに来たように受け取られちゃうものねぇ。でもここは姉御の作戦も一応聞きましょうよ。どうするつもりだったのよ、姉御?」


「監察局の、正当な理由と根拠のない横やりのせいで遺物管理局の職務遂行に問題が発生してるわけだけど、そういうのも監察局の職務として監査対象にすべきじゃない?ってことを、話が通じる監察官に直接訴えればいいだけだよ」


「あー、なるほど、アレク監察官に言いつけるつもりだったのね?」


「そゆこと。課長が隠し持っていたユレスの子どもの頃の映像記録を取り上げて横流ししたら、対価として職務上問題の無い範囲で協力するって取引成立してるんだよね」


「なるほどーって、それはそれで犯罪すれすれ行為よ!」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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