表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
156/371

性癖は自由です・1


「性癖は自由です」


「ただし、犯罪行為に至らなければと付け加えておこうね。ときに見過ごしてはいけないくらいに、行き過ぎた人たちもいるから。遺物管理局にはたくさんいるから!」


「大変に遺憾な事実ですので、それがゆえに、性癖に突っ込んで自爆したくないです」


「分かる。僕もその気持ちはすごく分かる。でも、捜査官資格を取得した以上、遺物管理局の良識を守るのも捜査官の職務の範疇だと割り切るんだよ。警備局捜査官が捜査に乗り込んでくる前に、自分たちで自浄努力した方が好印象だから!」


「ガンド捜査官……同意したいのですが、捜査官自体が率先して特殊性癖に突っ走っているので、取り繕いようがないと思います」


「うん、わかる。誰が一番駄目な性癖かと言えば、文句なしに姉御だし」


 新たな旧世界遺跡が発見され、調査隊が一次調査を終えて帰還して来た。


 同行していた姉御ことクレア捜査官は、出迎えた私たちに、特殊性癖全開で、子どもには到底聞かせられないような変態行為と妄想に満ちた報告をしてくれたので、現実逃避をしてしまったわ。


 こういうとき、いつもなら遺物調査課長が上司としての使命感からクレア捜査官を止めてくれるけど、発見されたのが幼い子ども、美少年型や美少女型の人型人工物と聞いて、熱心にクレア捜査官に相槌を打って語らせている。


 遺物調査課長も、クレア捜査官に負けないくらいの変態性癖を持っていて、子どもとか未成年の人形を愛でるのが趣味だけど、触るなどとんでもない、鑑賞する以上のことは許されないと主張する変態紳士よ。

 課長の趣味ど真ん中の話なので、クレア捜査官を止めるつもりは皆無ね。


 ここは局長が遺物管理局の総責任者として頑張って欲しいと思うけれど、局長からは、こういうときこそ捜査官の出番という圧力がかかってきている。


 仕方ないので、ガンド捜査官と共に遺物管理局の良識を守るために行動しようとしたところで、遅れてこの場に来たジェフ博士が、いい加減にしろ変態どもと言って黙らせてくれたので助かったわ。


 旧世界遺跡調査にはジェフ博士が必須とまで言われるのは、同行している変態たちを黙らせられるからという冗談のように酷い話は本当かもしれない。


 遺物管理課長が、遺物調査課長とクレア捜査官を事情聴取というか詳細の聞き取り調査のために連れて行った後、ガンド捜査官と私は局長に呼ばれてジェフ博士との会合に参加した。


「危険度が低いみたいだから、クレア捜査官は調査隊から外すつもりだよ。危険度高い現場だったら変態を投入しても文句はあんまり出ないけど、危険度低い現場に投入すると遺物損壊とか変態行為による周囲の迷惑で文句が殺到するからね。ってことで、二択ね。ユーリ捜査官は投入しないっていうか、できない。ジェフ博士も調査隊から外れるから、ユーリ捜査官を抑えられる人材がいなくなる」


「二択と言っても、ミヤリ捜査官をいきなり投入するのは無理だから、僕が行くしかないですね。でも、ジェフ博士が調査隊から外れるというのは、何かあったんですか?」


「特に何かあったってわけでなく、儂がいなくてもなんとかなりそうだし、後任を育てていかんとならんから、出しゃばらんことにしただけだ。後任も頑張ってはいるが、現場にユーリがいたら手玉に取られる。だから、儂が外れるときは、ユーリも外せと言ってあったんだ」


「それに、ジェフ博士にはまだ小さい子どもがいるから長期出張は避けるようにって指導があったし、ユーリ捜査官も孫が昏睡中だから長期出張はさせづらい。ガンド捜査官も定期的に交代できるよう勤務日程組むよ。まだ決定じゃないけど、発見された遺物は現場で鑑定するんじゃなくて、遺物管理局に輸送して鑑定するつもりでいる」


「その方が現場は助かりますけど、遺物管理課が大変では?」


「そうなんだけど、現状では<知識の蛇>の一派が行方不明だし、現場に置いておいて襲撃されて困ったことになるよりは、さっさと回収した方が安全だと判断した。クレア捜査官とユーリ捜査官が現場にいないと、そっちの相手までするのは大変だしね」


「蛇が襲撃してくるってなら、ユーリがその背後から強襲して始末するいい機会になりそうだが、蛇はその手で何度もやられてるから安易に襲撃はしてこないと思うがな。一応の備えのためにも、ユーリは外して動かしやすくしといた方がいい。

 それから、発見された遺物は膨大な数だから、データベースで照合できるもの以外は封印して後回しにした方がいいかもな。儂も初めて見る型だし、クレアもワトスンに鑑定してもらった方がいいと言っていたぞ」


「ユレス捜査官が起きてくれないとワトスンも起きてくれないわけだし、保管倉庫と封印準備を進めておくしかないね。早く起きてくれると助かるんだけど、ジェフ博士はいつ頃起きると思う?」


「子猫ちゃんはよく寝る生き物だし、変なとこで律儀だから、儂は10年きっちり眠り続けると見込んでる」


「僕としては、せめて6年で起きて欲しいんだけど」


 新王国が火宴祭の会場を襲撃して来た日、ユレス捜査官は新王国の関係者の手によって昏睡させられたまま、目覚めていない。

 ユレス捜査官は未成年の頃にも事件に巻き込まれて6年間昏睡していたたそうで、その頃を知る遺物管理局職員は、また!?という反応が多かったわ。


 前回は原因不明で、いつ目覚めるのかもわからない状態のまま6年経過したところで目覚めたそうだけど、今回は原因は分かっているし情報も得られたので、前回の経験と合わせてある程度の見通しが立つだけましという話だった。


 ただし、いい予測はできないけれど。


 最長で10年昏睡する可能性があるし、その前に目覚める可能性も十分にあるけれど、前回昏睡したときは6年眠り続けたそうだから、それくらいは眠り続けると予想する人も多いわ。


 ユレス捜査官に近しい人は早く目覚めて欲しいと思っているだろうけど、そういう人たちほど10年きっちり眠るはずだと半分確信した予測をしているわね。


 ガンド捜査官に頼まれて、調査隊の治療関係物資の資料を貰いに治療室に行ったついでに、治療官にもユレス捜査官が目覚める時期の予測を聞いてみた。


 遺物管理局には専用の治療室があって、昏睡したユレス捜査官はしばらくここにいたわ。

 前回昏睡したときはずっと治療室にいたそうだけど、今回はある程度原因も状態も分かっているので、設備が整っている場所であれば移動させてもいいことにしたそうで、今はいない。


 治療官は資料を用意してくれつつ、困った顔で予想してくれた。


「治療官としてはねぇ、すぐにでもって言いたいところなんだけど、そうねぇ、個人的意見として言えば、ジェフ博士と同じかしらぁ。変なところで素直な子だし、警戒心はあるけど、うっかり落とし穴にも落ちてしまうから、暗示効果みたいなものが上手く嵌まってしまったら、律儀に10年眠りそうだわぁ。……旧世界的言い回しでは、寝る子は育つって言うし、10年眠っている間に、体も性分化して成人してくれるといいのだけど。

 はい、資料はこれで揃ったけど、消化補助薬についてはね、新しいものが提供できそうって聞いているから、そっちを持っていけたらその方がいいわねぇ。局長に相談して、あら、ちょうど来たわ」


 治療官の言う通り、局長が来たわ。

 仕事が早い有能な女性だし、ときどき各部屋を見回りつつ、簡単な相談や指示ならそこで片付くようにしてくれるので、職員と局長の距離は結構近いわね。


「ん?もしかして用事でもあった?先にこっちの用事言うと、遺物管理課長と遺物調査課長が取っ組み合いしてるから、運ばれてきたらよろしく」


「そこは局長として止めてくれないと困るわぁ」


「変態の指導は手分けしてやることになったし、時には物理指導も必要だよ。それで何の用事?」


 局長は仕事が早い人なので、すぐに消化補助薬についての相談が終わった。そして私に言った。


「じゃあ、ミヤリ捜査官。治療局にお使いに行って、試験用の薬を貰って来てくれる?うちの職員って、少し特殊な体質かもしれないから、新薬は別途適合試験した方がいいんだよ。消化補助薬は大丈夫だと思うけど、精神安定系の薬だと倒れたのもいるからね」


「あれは薬ではどうにもならないくらいに興奮してたからだけど、そうねぇ。治療局には連絡しておくからよろしくね」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ