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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
154/371

通信文で伝えられる情報はごくわずかよ・2


 デルシー近くの砂浜は、海で泳ぐ人たちに人気である。


 近くに警備局の施設があって、性犯罪者の取り締まりや溺れた人の救助のために人員が配備されているから安全だし、透明度の高い海水と白い砂浜が美しいし、ときどきドルフィーが近くに来たりするからだ。


 生活区の中の公園に近い位置付けであり、刺激的な水着姿の人たちが開放的な場所で交流を楽しんでいたりする。

 引きこもりがちな私には向かない場だけど、こういう開放的な場であるからこそ楽しめることもあるわね。


 砂浜の一画で大型魚を捌きつつ、網焼きのための道具や煮込み用の鍋も用意して調理と料理提供が始まったけど、炎で炙る豪快な料理までしている。


 屋内ではできない調理法だけど、開放的な場所では自然な調理法に思えるわ。この世界の歴史の初期の頃には、便利な装置類も無かったから、こういう調理法しかできなかっただろうし。


 宿泊施設デルシーから料理長以下数人が派遣されて来て調理してくれているけれど、給仕の手が足りないから私も手伝いに入った。リマは豪快な料理が気に入ったのか、何度もお替りに来た。


「5回目よ」


「分かってるけど、美味しいし、滅多に釣れない魚って聞いたら、食べるしかないよ。同僚にも通信文で情報回したけど、人呼ばなくても十分食べきれそうだね」


「情報提供することに意義があるのよ。知らないでいて食べ逃がしたより、情報回って来たけど間に合わなかった方が悔しくないわ」


「どっちも悔しいけど、知っていたけど間に合わなかった方が悔しいと思うんだけど」


「デルシーの支配人はそこまで考えているから、間に合わなかったとしても、別の特別料理は食べられるわ」


「なるほど、さすがの配慮だね」


「通信文で伝えられることはごくわずかだけど、そこから多くの情報を読み取ったり推定する訓練になるわ。それから、限られた情報しか伝えられなくても、相手の行動を読み切って用意しておけば、満足のいくおもてなしもできると支配人が言っていたわよ」


「ものすごく上級者しかできないと思うけど、さすが」


 支配人はものすごく上級者よ。


 簡潔かつ的確な指示をしてくれるけど、ときに深読みしたり解読したり翻訳する必要があるくらいにね。

 マークはデルシーに入り浸っていたし、支配人とも付き合いが長いから、自然に翻訳できるようだけど、私はまだその域には達していないわ。


 飲み物を持ってマークが来たけれど、私と一緒にあいさつ回りをしてきなさいと言われたらしい。


「俺が翻訳したところによれば、ミヤリに匿って貰って逃げなさいだと思う」


「うん、マーク狙いの子たちが結構来てるし、際どい水着に着替えて誘ってみようって盛り上がっていたけど、あたし、助言してあげた方が良かったのかな。際どい水着よりドルフィー的尻尾みたいな装備つけた方が誘えるって」


「その前に、人は対象外だと教えてあげた方が親切だと思うわ。支配人は浅瀬でエビが増殖していると言っていたから、食材を追加で採取しに行ったことにした方が角が立たないわね」


「あたし、腕輪に採取用バケツ入れて来たから大丈夫!」


 浅瀬は警備局の施設が近いので、施設警備中の職員の目があって一般の人は近づきづらい。

 私たちはそれぞれ職務上で交流があるし、リマは警備局職員なので、エビ採りに来たと言ったら通してくれたけど。


 デルシーの支配人からすでに連絡が来ていたし、交代で砂浜での宴会に来てはどうかと誘われていたそうで、エビを運ぶ協力もしてくれるのは助かるわ。


 マークが熟練の技能で、リマが高い身体能力で、次々にエビを手掴みしていくのを受け取りつつ、マークの見合い対策会議をすることになった。


 世界研究局長も砂浜の宴会に来ることになって、マークに紹介したい相手がいると予告されたそうだけど、これはお見合いさせると解読するのが妥当ね。マークはすでに何度も見合いさせられているし。


「人の女に興味は無いって正直に本音を言っているのに、本当のことだと受け取ってくれないあたりで、先行き困難だよね」


「俺はララに子どもができたら、その子をお嫁さんに貰うつもりだって研究局長にも言ってあるんだけどな」


「マーク、あたしは警備局として、ううん、それ以前にまっとうな成人として、子どもに手を出すような真似は許さないから」


「子どものうちから仲良くなって、成人したらお嫁さんになって貰うのは問題ないよな?」


「うーん、まあ、それなら一応」


「気の長い計画だし、ララの子どもが生まれてからの話になるから、今持ち込まれるお見合い話を回避できないと思うわ」


「そうだね。でも、同年でお見合いしている子がいないわけじゃないし、ヒミコは未成年の内からそういう話があったけど、早すぎるよね。人それぞれとはいえ、50年くらいは結婚とかそういう話になるのって早いって考えの人の方が多いじゃない」


「体は成人していても精神的に未熟だと、生まれて来る子どもにも影響するという説が正しいかどうかはともかくとして、親として子育てするなら、それくらいは人生経験積んでいた方が賢明だと思う。

 世界研究局としてもそれを分かっているはずなのに、局長は、俺は例外、早くドルフィーではなく人の嫁探さないとって涙ながらに訴えて来るのが困る」


「えっと、うん、言われてみれば、あたし、研究局長の言ってることも間違っていない気がしてきた」


「個人の性癖の問題だし、口出すような話ではないと思うけれどね。私は、今は恋人探したり交流楽しむより、職務に専念したいから、お付き合いとか見合いとか面倒だわ」


「あー、あたしもそうかな。覚えることたくさんあるし、職務も結構忙しいから、そっち優先になっちゃう。先輩は警備局職員はどうしてもそうなりがちだから、積極的に交流しないとまずいぞって言うんだけどね。でも先輩は、自分は焦って恋人見つけようとしても上手く行かないか、面倒な女に引っかかるから、100年くらいはのんびりするって言うんだよ。

 なんか局長が、自分のように300年縁がないとあちこちからうるさく言われることになるから、100年くらい縁が無かったら局長命令で見合いさせるって言ってたんだって。そうなる前にお付き合いすればいいって」


 遺物管理局では、一応指導はされるけどうるさく言われないわね。

 職員には監視役が常時ついているから、恋人作ったり結婚に至る難易度が高いこともあって、無理はさせない方針よ。


 研究局は放置しておくと研究一直線になる職員が多いので、局長がうるさいとマークが愚痴っているのを聞きつつ、エビを大量に採取した。


 先に何回か警備局の人にエビのバケツを持って行ってもらったので、最後のバケツを持って宴会会場に戻ったら、エビの濃厚スープができたところだった。


 デルシーでときどき提供される隠れた人気メニューで、マークの好物でもあるわ。

 マークは早速貰いに行って、そこで待ち構えていた研究局長に捕まって見合い相手を紹介されているようだけど、これは油断ね。


 多少は交流しないと誰も納得しないから、頑張って来るといいわ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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