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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
151/371

料理には愛情の前に技術が必要よ・2


 リマも少しは悪かったと思ったのか、半泣きで拗ねたライルの機嫌を取ろうと、甘味の店に行くことになった。


 特務課の先輩が人気のお店だと言って招待券を譲ってくれたそうだけど、思った以上に人気のようね。

 幸いにもちょうどテーブルが空いて座ることができた。周囲は男女ペアが多いし、女の子を数人侍らせている猛者もいる。ライルも一応そうかしら。


「な、なんか俺、場違いな感じが」


「誰がどう見ても、未成年の弟を連れて来てあげた優しいお姉さまたちにしか見えないから、安心しな。それにあっちの男女ペアは同業者が視察に来たってとこだろうし、向うは職務上の関係で休憩に寄っただけだよ。意外に恋人どうしは少なそう」


「姉ちゃん、なんでそこまで分かるの!?」


「リマは警備局特務課の訓練を受けているからだけど、私が見たところ、あっちの二人は向かいの店を見張っているわね。捜査中かしら」


「ミヤリさんまで!?」


「ミヤちゃんは遺物管理局だけど、捜査官だからだよ。個人活動の時間なのに、どうしても職務目線で見ちゃうよね」


「捜査官は油断した瞬間に事件に遭遇するのが旧世界的小説の展開だから、油断したら駄目よ。でも、小説のようなことが現実に起こることはほとんどないから、妄想するのはいけないわ」


「そうっすよね。……あれ?でもなんか、前に、姉ちゃんとミヤリさんが、現実は旧世界小説より急展開って言っていたような」


「特定の捜査官に限定してそういう事態もあるわ」


「うん、特定の警備局職員に限定してそういう事例もあるよ。徹底的に事件回避の対策をしても事件に突入するとか、旧世界的事件フラグって怖いね」


「話題にしたら事件に突っ込むのが旧世界的事件フラグというものよ。甘味を楽しむ間はその話題は禁止」


 そんなわけで、美味しい甘味を堪能すべく話題を変えた。


 ライルも周囲を気にするくらいのお年頃になっているので、気になる女の子でもいるのかと突っ込んでみたら、まだいないらしい。


「俺だって、可愛い女の子とこういうお店っていうのは憧れるけど、可愛い子って意外にいないっす!というか、姉ちゃんとミヤリさんが、可愛い女に見せかけるための行動とか、陰での仕込みとか暗躍とか赤裸々な裏事情を暴露しまくってたから、ついそういう目で見ちゃうし、気づいちゃうし!」


「弟がそういう女にうっかり引っかからないよう、姉として忠告してあげたんだよ。お色気関係の騒動起こす女と付き合ったり、妄想爆裂して周囲が大迷惑な女の言いなりになったら困るし」


「同年にめんどくさいのが二人もいたから警戒していたけど、あそこまで強烈なのってそんなにいないわね。でも可愛い子はいるところにはいるから、探せばいいと思うわ」


「でも、可愛い子が好きな男って結構多いから競争率激しいし、ライルじゃ競争に負けそうかなぁ」


「姉ちゃん酷い!俺だってもっと頑張れば何とかなるとか、いい感じの助言してよ!」


「だって、ライルがどれだけ頑張っても、アレク監察官に競い勝てるとは思えないし」


「なんで、俺はいきなりそんな頂点に挑まされるの!?俺の同年の話題にも出てくる人気の男だし、そりゃ、俺が好きになった子が憧れてる可能性は高いかもしれないけど!」


「女は現実的な生き物だから、憧れているくらいだと、手の届かない男は諦めてライルで妥協すると思う」


「そうね、アレク監察官と同じ相手を口説かない限り、大丈夫よ」


「じゃあ、大丈夫っす。だって、時事情報の特集でアレク監察官は結婚する予定の人がいるって言ってたし。事件のせいで昏睡中だけど、目覚めるのを待っているとか。ものすごくもてるのに、一途でいいなぁって思ったし、そういう人に挑むのってどうなの」


 ライルはまだまだ子どもね。リマもそんな顔をして言ったわ。


「ライル、実力あって自分に自信がある男ほど、自分の方が優れていることを証明するために、誰かの恋人とか結婚相手に手を出したり、奪ったりすることってあるんだよ」


「男という生き方に特有の本能的行動なのかもしれないわね。男に性分化する人は闘争本能とか狩猟本能が強いようだし」


「な、なんか、学術的?な感じのこと言ってるっすね。あ、もしかして、マークさんが言ってたんすか?姉ちゃんからときどき話を聞くけど、自然環境課の研究者なんすよね」


「マークは男とかそういうものを超越してるし、種族も超越してるから違うかな」


「そうね。狩猟本能的なものが無いとは言わないけど、生存技術と言った方が正しいかしら」


「うん、自然環境課職員たるもの、身一つで自然区に突入しても生き延びられるのが基本とか言ってたし」


「な、なんか、俺には想像もできないけど、超越してる感じは分かったっす!」


 職務上の必要が無い限りは、生活区だけで完結する生活をしている人が多いわ。


 旧世界は自然環境から資源を搾取し、汚染をして世界を壊したとも言われているので、旧世界の過ちを繰り返さないように、人が生活する生活区と本来の自然環境をそのまま保つ自然区との区切りをきっちりつけることになった。


 ただ、人も自然生物の一種だし、自然区から完全に切り離されて便利な生活区だけで生きるのも、逆に不自然だというのがマークの所属する自然環境課の見解でもあるみたいね。


 人はときには自然区で自然生物と触れ合う必要があるし、積極的に人と交流してくれるドルフィーのような自然生物とのふれあいは人の心を豊かにすると主張しているけど、それには全面的に賛成だわ。


 魚釣りも自然との交流的なものと認められているし、自分で釣った魚を食べるのは格別の味わいだと思う。


 そういう話をしていたら、ライルがふと思い出して言った。


「そう言えば、生産局が食材を展示して提供する場所を設置したって聞いたっす。直接食材を見て選びたいって要望に応じたとか教官が言っていたっすよ」


「うーん、あたしは見ても違いが分からなそうだけど、面白そう!この後行ってみようか」


「いいわよ。今夜の食事は私たちが作ることになったしね」


 ライルに食事を作らせてばかりというのは、姉の立場として思うところがあったのか、リマがそういう風に仕切った。


 リマは頑張って手料理を作るといいわ。私は潔く自動調理装置に託すつもりよ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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