表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
149/371

日記をつけることにしたわ・2


 成人して数年もすれば、交流場にもある程度慣れる。


 共に教育を受ける機会が多かった同年とは、疑似的な交流場の経験を何度も重ねて来たのもあって気安い空気ではあるのだけど、成人後は質が変わったように思えるわ。


 付き合う相手として様子を窺っているようでもあるので、正直に言えばめんどくさい。

 未成年の頃でも積極的に交流してお付き合いをしていた人たちはいたけれど、私とリマは全く興味が無かったので、そういう人たちとは距離を取っていた。


 マークもまた養い親であるリック博士の手伝いに行って不在にしていたことが多いので、私たちの同類と認識していた。

 でも、デルシーで発生した一連の事件の協力者として一緒に行動するときまで、マークの実態は全く分かっていなかったわね。


 マークは研究者気質だけど引きこもりではなく、むしろ自然区に積極的に突っ込んで行くので、マイクルレース場の難関コースでドルフィー号を激走させていた姿の方がしっくりくる。


 マークは割と、いえ、かなり大胆なこともするわ。



 デルシー近くの砂浜で、自由な服装というより、服装を纏わない自由を主張する団体が総会を開いたという話題が交流の場に相応しいかどうかはともかく、興味を惹いたり好奇心を掻き立てる話題なのは間違いないので、全員でリマとマークの話を聞くことになった。


 全裸集団を前に警備局が困って右往左往しているところで、海洋調査に出かけていたリック博士とマークの乗る船が砂浜に戻って来た。

 真面目な研究者をからかってやるつもりだったのか、それとも全裸仲間に引き入れるつもりだったのか、うかつにも全裸集団は博士たちの船を取り囲んだ。


 マークが真面目な顔で、自然環境課には全裸に怯むような研究者はいないと言った。

 自然区の動物は全裸が基本なので、自然動物の一種である人が全裸になっても、さして何とも思わないと。


 高度に学術的な見解っぽいので妙な説得力があるけど、いくら世界研究局自然環境課の研究者でも個人差はあるのではないかしら。


 取りあえず、マークは動揺すらしないのは納得よ。


 ドルフィーファンも全裸の人を目撃するより、自然な全裸であるドルフィーを目撃したときの方が興奮して盛り上がるので、単に趣味と性癖の範疇ね。


 とにかく、自然環境課の研究者でありドルフィーファンであるリック博士とマークは、全裸相手に鉄壁の無反応で応じ、せっかくだから全裸で自然生物と触れ合ってはどうかと船倉にご案内した。


 海洋調査帰りだった船倉には、リマの証言では生理的にぞっとする軟体系の海洋生物がみっちり詰まっていて、悲鳴をあげるくらい感激した人たちが交流にいそしんだという話だったわ。


「全裸だと自然のままに互いを深く知ることができると主張していたわけだし、俺は自然生物をご紹介してあげたんだ」


「交流した結論としては、互いに節度を持って付き合うのが一番だねってことになったよ。人は、服を纏うという文化を発展させてきたわけだし、自然生物から先んじて進化して獲得した人としての文化の尊重も必要だってことで、納得してくれた。

 それで、この話は教訓として広めようってことになって情報制限無いし、皆も節度と人の文化の尊重を強調して話してくれていいよ。それから、性犯罪者は多いから、被害に合わないように、それから、自分が性犯罪者にならないように、注意しよう。でも最近は、日常生活ではそんなに性犯罪に遭遇しなくなった気はするけどね。警備局の統計では減ってないから、警戒を忘れたら駄目だけど」


「はっきり言ってしまえば、私たちって、ヒミコがいたから日常的に性犯罪者を見ていたのよ」


「ミヤちゃん、はっきり言いすぎ!」


 でも、私に同意する子たちは多いわね。


 リリアは性犯罪と言うより迷惑行為だったけど、同年の私たちは性犯罪や騒動に巻き込まれた経験がむやみやたらに高くなったのは確かよ。

 糾弾するつもりはないけれど、冷静に原因を見据えておかないと、巻き添えで酷い目に合うことは実体験できたと思うわ。


「表面を取り繕って、本質的な問題を無かったことにしていると、突然、大事件が起こったりするのよ。火宴祭の夜に襲撃されたようにね。躊躇いを捨てて、潔く突っ込んだ方がその人のためになることもあるわ。変態には変態と言ってあげた方が、自覚を持たせて性犯罪を未然に防げると思うの」


「それは……確かにそうだし、警備局長は犯罪を未然に防ぐために、大胆な対策をするのもいいとか言ってたけど。性犯罪ってやっちゃう人は繰り返すから、何度もやらかす人は去勢、ってえーと、性機能喪失って言うのが治療局的正式名称だったっけ。そういう措置した方がいいって意見ね」


「俺はあんまり意味ないと思うな。いつだったか、ジェフ博士とリック博士が性犯罪者対策を話してるのを聞いたことがあるけど、旧世界の治療技術だと再生治療はできなかったから、去勢したら性犯罪者は何もできなくなったようでいて、道具使ってやる方向に走るらしいし。今の世界だと再生治療もできてしまうから、博士たちがもっとえぐい処罰法を考えていたよ」


「なにそれ、逆に怖いよ!でも気になるから聞きたいけど、どういう処罰法?あ、もしかして情報制限かかっていたりする?」


「かかってない。広く知らしめることによって、恐れをなした性犯罪者が更生するような防犯効果を狙った発想だった。

 性犯罪者は、強制的に性犯罪被害に合って貰うんだよ。被害者の苦痛と恐怖を理解できないからやってしまうわけだから、強制的に実体験して学んでもらうべく、処罰として一定の期間、性的欲求のはけ口としてお勤めしてもらうらしい。暴走してうっかり性犯罪にしそうな人たちは、性犯罪者相手に性的欲求ぶつけて貰えば、新たな性犯罪者にならずに済むっていう話」


 さすが研究局の博士は発想が違うというか、斬新だけど、意外にありではないかしら?


「……検討すべきだと思うわ、リマ。合理的」


「うっかり頷きそうになったけど、それ、人権倫理的に駄目じゃないかなぁ!?」


「概念も倫理観も少しづつ変わっていくものよ。名称だってそうじゃない。旧世界管理局が遺物管理局に名称が変わったように、より分かりやすく、納得できる方に変わっていくのが自然の流れよ」


「マークとミヤちゃんは、自然の流れの最先端を突っ走るから、あたしはときどきついていけないよ!

 あ、そう言えば、名称と言えば、性別の呼び方も社会でよく使われてる方に変更することになったよね。子宮型と生殖型っていうのが正式名称だったけど、旧世界みたいに女と男って方を正式名称にするって決まったみたい。そっちの方がよく使われているし、むしろ公式記録のときにしか正式名称を使ってないから。

 警備局の報告書も正式名称使わないといけないけど、あたし、女って自然に書いて、見直したときに子宮型にいちいち変換していたから、その方が助かるよ」


 割と強引に話題を変えて来たわね。でも周囲の子たちも、斬新な性犯罪者対策についてこれてなかったから、歓迎してそれに乗っかった。


 成人して職務に従事して、皆もう新人と呼ばれなくなったけれど、それでもまだ熟練では無いし、報告書を書くときの正式名称の扱いには結構引っかかっていたようね。


 男と女の話題をしているのに、色気皆無のまま名称での失敗談などを語り合って和やかに交流会が終わったけれど、自室に帰って日記を記そうとしてふと手が止まった。


 交流会に参加したのはいいけれど、話題が酷い。

 変態と性犯罪者が話題になる交流会ってどうなの。


 少し悩んだ末に、日記は潔く一行でいいことにして解決した。


 日記帳を見返したときに、同年との交流会で変態と性犯罪者の話題で盛り上がったという記述は自分でも見たくないし、うっかり誰かが見たときにあらぬ誤解を受けるとしか思えないわ。


 いらぬことは書き残さない方が自分のためね。記念すべき日記の第一行は、これで完璧。


【 日記をつけることにしたわ 】


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ