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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
間章 新人捜査官ミヤリの日記
148/371

日記をつけることにしたわ・1

間章開始。

事件とユレス捜査官はお休みして、ミヤリ視点で日常編です。


「日記をつけることにしたわ」


「日記をつける?あ、もしかして、旧世界用語だったりする?」


「そうよ。実は捜査官資格を取得したのだけど」


「え!?いつの間に?おめでとう!だったら、日誌をつけることになるんじゃない?捜査官って通常の職務日誌の他に、各個人が捜査官日誌登録しないといけないよね。捜査課の人がめんどくさいって愚痴ってた」


「警備局捜査課なら登録内容が多くてめんどくさいでしょうね。捜査官は捜査のために踏み込んだ個人情報まで閲覧できるから、悪用されないよう報告事項が多くなるのは仕方ないわ。

 ただ、遺物管理局に所属する捜査官は、旧世界事件捜査と旧世界遺物の鑑定のためくらいにしか捜査権限がないし、先人の積み重ねのおかげで新たに捜査する案件はほとんど発生しないの。だから、捜査官日誌には捜査官席に待機開始と特段の変事なしと登録することが多いと言われていたけれど、本当にその通りよ。

 でも、捜査官日誌にその二行しか登録されていないとしても、その日に何もなかったわけでも何もしなかったわけでもないし、捜査官日誌に登録しないものについては、個人的に日記をつけることにしたわ。旧世界では、毎日の記録を日記帳に手書きで書きこむことをしていたのよ」


 空間拡張機能で腕輪に収納しておいたぶ厚い日記帳を、リマに見せた。

 リマは物珍し気に見ていたけれど、ふと手をとめて変な顔をした。


 ここは公共の交流場で、各テーブルに盗み聞き防止の防音装置が備わっているとはいえ、視覚遮断機能は無いから変な顔をしたら周囲から丸見えよ。気を付けた方がいいわ。

 せっかくおしゃれして来たのに台無しになることに本人もすぐ気づいたようで、すました顔を取り繕いつつ言った。


「ねえ、ミヤちゃん。腕輪に日々の記録を入力できる情報登録機能があるのに、日記帳に手書きで書いて腕輪に収納する意味ってなに?」


「旧世界的様式美よ」


「ミヤちゃん、ときどきものすごく趣味人っぽいことするよね!?でも、あたしも付き合い長いから分かってるけど、それだけじゃないんじゃない?」


「さすが、警備局特務課ね。旧世界小説では分厚く立派なつくりの書物は、ときに鈍器になるの。予備武装よ」


「捜査官資格があるなら、武装の携帯許可も出るんじゃないかなぁ!?」


「わかっていないわね、リマ。いかにも武装を持っていたら、相手も警戒するじゃない。武装に見えないものを使うからこそ、相手の油断を誘い、不意打ちもできるわ。クレア捜査官の監視蛇のように」


「いや、あれ、見るからに凶悪な蛇だし、武装って知ってる人多いと思うけど。うん、でも、そう言えばそうだった。武装じゃないものの方が結果的に凶悪な武装っぽく使えるのかも」


「警備局の情報制限がかかっている事件なら突っ込まないけど、話していいことなら聞くわ」


「むしろ話したいんだけど、どうせなら来てからと思っていて、あ、来た」


 誰がと思ったら、ちょっとしたざわめきと共に入って来たのはマークだった。

 今回は同年どうしの定期交流会の名目で交流場に集まっているので、同年のマークが来てもおかしくはない。


 ただ、マイクルレース場でドルフィー号と共に唐突に優勝して以降、マークは騒がれるのが面倒で交流場には顔を出していないのに珍しい。

 今も話しかけられているのを爽やかに躱しているようでいて、一目散に私たちのところに逃げ込んで来た。


「二人がいて助かったよ。俺はドルフィー専門で浮気は無いって主張しているのに、誰も聞いてくれないんだ。人は対象外だってはっきり言ったのに」


「マーク、はっきり言い過ぎると断る口実にしか聞こえないと忠告したはずよ」


「だよね。特殊性癖どころか種族も超えてる変態発言にしかならないけど、マークは爽やか好青年過ぎて本気で言っていると受け取られないから、もっと変態っぽくしてみたらって言ったじゃない」


「変態っぽくって難しくないか?アレクさんを見習ってみたんだけど、何故かもててしまって」


「見習う相手が間違ってるわ。アレク捜査官、いえ、アレク監察官は品行方正で誠実極まりないし、変態の対極としか受け取られないのに」


「そうだよ!班長、いえ、アレク監察官は変態を取り締まる側だったわけだから、あたしは信じてる。警備局に取り締まられるようなことはしてないって」


 警備局だからこそ、取り締まられないぎりぎりがよく分かっているし、そこを上手くすり抜けただけじゃないかしら。

 本当に問題ないと信じているのであれば、わざわざ信じていると言う必要は無い。という視線をリマに向けたら、さっと顔を逸らされた。


「俺もアレクさんを信じているよ!未分化の子にうっかり一目惚れしてしまっても、紳士的行動さえとっていれば問題ないはずだ。俺も自然生物との付き合いを逸脱するような真似はしないよう心掛けているし!」


「う、うーん、マークも未分化の子どもドルフィー相手に一目惚れした同類だから、庇い合っているだけのような気もしつつ、確かに二人とも紳士なのは間違いないような……?」


「しっかりしなさい、リマ。警備局特務課として、変態行為には毅然とした態度で立ち向かうべきよ。遺物管理局職員としては、旧世界では幼い子どもに平然と手を出す処刑相当の変態どもがのさばっていたから、それに比べるとアレク監察官やマークくらいだと、まっとうな変態紳士の範疇に考えてしまうけれど」


「なにそれ、怖い。旧世界人って倫理観が壊れていた人が結構いたことは教育されたし、捜査課の人も旧世界事件は今の世界の事件とは比べ物にならないくらいにえぐいって言っていたけど、処刑相当の終わっている変態がそんなにいたんだ?」


「旧世界人は生まれたときから性別があったし、未分化の子どもという性機能が分化していない子はいなかったわけだけど、だから行き過ぎた変態どもが性的欲求の対象にしてしまったのではないかという話ね」


「でも、生殖できるほど性機能が成熟していなかったから、そういう子どもを性的欲求の対象とするのは生物として狂っていると思うよ。

 リック博士は、生物としてまっとうな行為でもないし、知能があるならそれくらい当然分かるだろうに、それでも虐待的行為をするような奴は、知能すらない獣未満のゴミだと言っていたかな。まっとうな旧世界人もいたけど、そういうゴミは滅びるべくして旧世界は崩壊して、世界は再構成されて、今の人の体は性機能が分化していない子どもに対して性的欲求を抱かないように作られているのは良かったって意見だ。

 俺に何度もその話をしたし、子どもに手を出してはいけないと講義してきたのって、もしかしてララを口説いている俺に対する牽制か何かだったのだろうか」


 マークが真面目な顔で苦悩するかのように言ったから、周囲からの視線が来ているけれど、内容が酷いわ。防音装置があるとしても限界がある。


 この場の会話に参加したそうな視線が来るけど、私たちにはマークの性癖がなるべく漏れないように計らうくらいの友情はある。

 なので、リマが話題を鮮やかに変えた。


「こういう、人に聞かれたらまずい系の会話は交流場でしたら駄目だって。マークがドルフィー一筋なのはあたしたちも分かっているから、この前のデルシーの砂浜での話題にしようよ。あれなら、他の子たちも聞いても大丈夫だから、皆ともお話ししようか」


「あれか。そうだな、俺も研究局長に人とまっとうな交流をしてこないと、しばらくデルシー方面での研究調査は禁じるとか言われているから、頑張るよ。デルシーの支配人からもミヤリと一緒に頑張って来いって言われてるし」


「確かにミヤちゃんもマークとは別方向に暴走するし、引きこもるしね」


「リマだって人のことを言えないでしょう。警備局は激務とはいえ、交流場参加もさぼっているから、とうとう職場経由で圧力かかったんでしょ」


 私たちは三人とも、半強制参加に近い。あまりにも交流場に参加しないと、呼び出されて指導された挙句にこういうことになる。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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