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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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25 いつか見た光景


 バトルドレス二人の登場に、生意気そうなイーディスだけでなく、天使型人工物まで引いた。そして、イーディスが混乱したように叫んだ。


「なんなのよ、一体!?イブリール、戦いなさい!」


 天使型人工物が動くのと同時に、姉御が監視役のはずの蛇をぶん投げたというか鞭にして振り回した。監視蛇が可哀想だ。


 同時にアレクとゼクスも戦闘に突入した。ずっと睨み合っていたし、ぎすぎすした空気だったし、互いに合わないのが分かりやすかったから、止めはしない。存分にやり合うといい。


 残りは姫様とイーディス、ばばあとオレという組み合わせだが、ばばあの戦闘力は高いが、二人が血族だとしたら戦闘力は見た目よりあると想定した方がいい。


 オレとしては、人権倫理の番人である姫様と戦いたくない。

 だから、ばばあに通信文を送った。警備局長にこちらの状況を報告しようとまとめておいたので、ちょうどいい。


 ベルタ警備局長は、ざっと読みながら言った。


「ふうん。そっちの人権倫理の子、黒猫のメッセージを受け取ったんだって?なかなか見込みがあるじゃないのさ。だから特別にあんたとなら話をしてやってもいいよ。

 自治区構想について大体のことは知ってる前提で話すけどさ、世界管理機構の重役連中は危機感薄いのが多くて、そうは言ってもまだ元の管理体制に戻れるはずだって生温いこと言ってるから、あんたらがイラつくのも分かるよ。あたしもむかついたから、蹴り入れたくらいだし。

 でもこういう事態になったら、少しは目が覚めて聞く耳持てるようになるかもね。旧世界管理局長は自治区構想については了解してるけど、人型人工物を道具として使用するつもりであれば、黙って放置はできないって言ってるんだよね。まあ当然だね、安易にこういう馬鹿騒ぎ企む連中が危険な玩具を手にしたら、世界崩壊まっしぐらさ。

 でも、あんたらにとってもいい経験になったんじゃないかい?そういうのを持ち出してきても、対抗手段はあるんだよ。にゃあ」


 ばばあが妙に可愛く、にゃあと鳴いた。


 音楽映像は何度も繰り返し流していて、<私たちは世界だ>の歌に混じる、にゃあが途絶えることは無い。


 姫様は、ばばあの言葉の真意を読み取ろうとするように、真剣な顔をこちらに向けて来たが、放置されていたイーディスが叫んだ。


「なによ、馬鹿にして!黒猫がやらせてるんでしょ!なら、パパが言っていたみたいに、黒猫を殺せばいいだけよ!」


「イーディス!」


「うるさい、邪魔するな!!イブリール!」


 姉御と戦っていた天使型人工物が、イーディスに応えてこちらに飛ぼうとしたが、姉御の監視蛇が鞭のようにしなって邪魔をした。


 だが、天使型人工物は飛んで回避しつつも胸元を開けて、そこから丸い何かを取り出して、イーディスに投げ渡した。

 丸いボールのようなもの、と思ったが、イーディスが上手く受け取ったのを見て、さすがに動揺した。……アリス。


 髪もぎりぎりまで切られて、透明な保護膜で覆われた、頭だけのアリスが、そこにいた。

 人形では無く、人の頭だ。額にはティアラのような何か、たぶん支配の王冠がはまっている。


 ばばあがちっと舌打ちして言った。


「悪趣味だね」


「やめなさい、イーディス!それを使ったらあなたも」


「だったら、マリナが使う!?ろくな効果も出せないくせに、偉そうなこと言わないで!」


「冷静になりなさい!大体、誰に使うつもりなの!?黒猫さんは、ここにいませんのよ!」


 いや、実はいるんだが。


 姫様には感謝する。イーディス相手に時間を稼いでくれたおかげで、オレがあれに6年間昏睡させられたことを警備局長に通信で伝えることができた。だが、鋼の女ベルタは不敵に笑って前に出た。


「黒猫がいないってなら、狙うなら当然このあたしだろ?警備局長をやったら大手柄だよ、小娘。やれるもんならね」


 オレを庇うつもりか?だが、小娘は警備局長の挑発に乗らなかった。


「自意識過剰過ぎるわよ、おばあさん。確かにあんたも邪魔だけど、パパにとっては、黒猫やおばあさんよりもっと邪魔な相手もいるのよ。アレクがそんなつまらない子と結婚するなんておかしいわ。だから、あたし、分かっちゃった。あんた、ナイン・エスを受け継いだのよね?使える技能だからって、アレクに無理に頼んで保護して貰ってるんでしょ!本当にむかつくわ。あんたは、パパの研究を邪魔して天使を殺す最悪の敵よ!」


 イーディスがオレを見据えた。

 イーディスがしっかりと抱えたままのアリスの首もオレを見据えていて、伏せられた目が開いたかのように錯覚した。


 そして、いつのまにか発光していた支配の王冠から伸びた光をオレに突きつけるようにして、イーディスが叫んだ。


「あたしが成人するまで、眠っているといいわ!」


 ……オレは、この光景を見たことがある。


 そうだった、アレクの推論は正しい。あのとき、アリスはオレに、自分が成人するまで眠っていなさいと言ったんだ。


 何故、成人?と疑問に思ったし、アリスが18歳だと知っていたので、6年と意識に閃いた。……この思考は、今はまずい。


 だが、記憶と情報を繋ぐ流れは止まらず、イーディスが10年もすれば成人すると言っていたことが意識にのぼって……あのときと同じように、子守猫が激しくふしゃーとした認識を最後に、意識が落ちた。



◇◇◇◇◇◇



 にゃあと呼ばれたような気がして、意識が浮上した。


 目を開けて状況把握に努めたが、見知らぬ部屋、はまあいい。割とよくあることだ。今は暗時間のようで薄暗いが、特別隔離房のような場所ではなく、普通の、いや割と広くて手がかかった部屋だ。


 拘束されてはいないが、小鳥と猫の装飾腕輪が手首にはめられたままなので、割と酷い一日の記憶は夢ではないと思われる。……夢であってほしかったが。


 起き上がろうとしたら何かが外れたが、見慣れたものだった。特別療養所の祖父さんの部屋で、祖父さんに装着されていたものだ。

 意識の波形を観測して、異常を感知したら即座に治療官に連絡が行くように設定されている。


 不快に思って外されないように、装着していることを感じさせないような作りだったので外れやすかった。外れたときには、治療官が様子を見に行ってくれることになっていた。


 だから、誰かが走って来る音がしてもおかしくはない。


 一応警戒して待ち構えたが、扉を開けて入って来たのが誰か分かった瞬間、思わず逃げかけた。


 正直、怖い。特に寝台の上にいる今は、なおさら。


 オレが逃げようとした気配を察知されたのか、覆いかぶさるように寝台に押し付けられて、じっと見つめられた。


「結婚してください」


「……10年後の結果を見てから言え」


 声が変だな?アレクが怖いくらいに綺麗に微笑んで言った。


「もう10年後ですし、あなたは女に分化しています」


「は?」


「眠りすぎですので、起きてください。さもないと、眠っている間に、世界が滅びますよ?目覚めのキスが必要なら私に任せてください、私の眠り姫」


 そう言って、アレク(ケモノ)はオレにかじりついて来た。


第七章完。第一部終了。

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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