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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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24 アリスを継ぐもの


 屋上に、天使が舞い降りた。


 ……天使型人工物。旧世界の特級危険物であり、世界共通言語のにゃあも通用しないもの。

 天使型人工物に組み込まれた<天使AI>には、倫理規定が刻まれていないがゆえに、人を殺せという命令も躊躇わずに実行する。


 だからこそ、天使型人工物を確保するのは自殺行為だ。<知識の蛇>はそれでもやるが、取り扱いを間違えた瞬間に自滅する諸刃の刃である。

 旧世界管理局の資料には、天使型人工物を研究しようとした蛇の集団が、惨殺されて発見されたとするものもある。


 死と隣り合わせで研究した結果、<知識の蛇>はある程度の制御を可能にしたような事例も確認されているが、天使型人工物を利用しようとするのは、狂気的な自殺行為だというのが旧世界管理局の見解である。


 セクサロイド型が大好物の性癖の姉御であっても、天使型人工物相手にはその気にはならないが、姉御にとって極上の獲物は天使型人工物である。

 旧世界では殺し愛という概念があって、互いの全力をかけて互いだけを見つめ合って殺し合うのは、突き詰めると愛の交流のようなものだという発想のようだが、姉御にとって天使型人工物は殺し愛の相手だ。


 姉御の親友であったオレの母親のエレン班長が、天使型人工物とやり合って相討ちで散ったので仇討ちのように思っているのかもしれないが、特殊性癖ばかりを攻める姉御的趣味だからという可能性も高い。


 旧世界管理局は、天使型人工物は世界と人の敵だと認識しているので、姉御が破壊行為に走っても推奨される。


 マイクルレース場で姉御が大暴走するのを却下する現局長も前局長も、天使型人工物に関しては好きにやっておしまいなさいと背中を押すくらいだ。

 思いっきりやり合えるのもあって、姉御が極上の獲物と興奮するのかもしれない。


 オレも天使型人工物は問答無用で破壊か封印する対象と認識しているが、オレ以上に反応するのが子守猫だ。

 オレの変装がばれないように、立体映像は構成しないよう指示しているが、オレの腕輪の中のワトスンは毛玉になってふしゃーとしている。


 獣は、あらゆる手段を用いて、<天使>を世界から排除する。



 天使型人工物の腕には少女が抱かれていた。いつ殺されてもおかしくない状態であるが、何らかの制御をしているのか、天使型人工物は少女の指示に従うか守っているようにも見える。


 少女は怯えるどころか、天使型人工物が従って当たり前という顔をしている。成熟期に入って数年くらいに見える美少女だが、その顔には見覚えがある。だが、不自然なくらいに何とも思わなかった。


 あれは……アリスではない。


「ご挨拶を申し上げるわ、あたしはイーディス、アリスを継ぐものよ」


「それ、お前が勝手に言ってるだけだろ」


「……イーディス、何をしに来ましたの?」


「決まってるじゃないの、英雄さんを勧誘しに来たのよ。パパはここまでしてやられるなんて、黒猫は許さん、必ず殺す!って言ってるけど、表に出てこない黒猫なんかより、英雄さんの実力を評価するべきだと思うわ。

 だって、直接行動して頑張っていたのは英雄さんじゃないの。黒猫は指示しただけよね?あたしは英雄さんの働きを高く評価しているし、報われて当然だと思っているの。だから、あたしの夫にしてあげるわね。そんな、守られているだけで何もできない子より、あたしの方があなたにずっとふさわしいわ!ね、アレク」


 アレクがじっとオレを見ているが、まさか盾になれと言うのか?


 オレとしては、イーディスは見るからに未成年だが女に分化が始まっているし、未分化型に結婚を迫るよりイーディスの求婚を検討した方がまっとうな気がする。姫様の意見を聞きたいと思って、目を向けたら頷かれた。


「イーディスより、お嬢さんの方がずっとお似合いだと思いますわ」


 いや、そういうことを言って欲しかったわけでは無いんだが。アレクは姫様の回答に対して感謝するように、微笑んで一礼した。


 姫様は、おそらく仲間であるだろうイーディスの味方をしてあげた方がいいと思う。イーディスも不満に思ったのか、姫様に噛みつくように叫んだ。

 

「黙っていなさいな、マリナ!綺麗ごとを言うだけで、役に立つことなんて何もできないくせに!」


「それってお前のことだろ、ちび。パパに言いつけて、パパに玩具を借りることしかできないくせに」


「無礼よ、ゼクス!あんたなんて、あたしが女王になったら」


「はいはい、お前が女王になることはあり得ないから、問題ない。だから、英雄さんのとこに嫁に行ったらどうだよ?それなら応援してやるぜ」


「お断りします。私は未成年者に手を出すような変態ではありません」


 それをお前が言うかというゼクスと姫様の視線がアレクに突き刺さった。


 オレも同意したいのだが、オレは一応成人しているのがややこしい。アレクは余裕の微笑みを見せているが、分かってやっているな!?


「なによ!あたしだってあと10年もすれば立派に成人するわ!そうしたら、アレクは女王の夫よ、光栄でしょ!」


「10年後には小さなレディと結婚している予定ですので、お断りします」


「ふーん、つまり、まだ口説き落とせてないってことか。お嬢さんはその腕輪、無理やりはめられたの?」


「お付き合いする同意は得ていますよ」


 事後承諾のようなものだし、結婚すると約束してはいないぞ!それに無理やりではないが、不意打ちで腕輪がはめられたのも事実だ。

 ゼクスはともかく姫様には訴えたいのだが、今、オレは猫と小鳥の装飾品の腕輪より、恐ろしい黒猫さん入りの腕輪の方に忙しい。


 現在この場はろくでもない方向に盛り上がっているが、オレはアレクの勝手な人生計画を訂正する余裕すら無い。


 ローゼスからとんでもない緊急通信が来たからだ。バトルドレスの姉御がこっちに来るとか、やめろ、止めろ、返品するぞ!


 回収しに来いと通信を送ったら、だって、極上の獲物を前にした姉御を止められるわけないから、後よろしくと投げ返して来た。


 人型人工物の対応に手一杯なのは分かるが、ワトスンがさっき簡易的な休眠状態に移行させたから、少しは時間的余裕があるはずだろ!


 警備局が武装集団を制圧している状況で作業しないとならないから、大変なのは分かる。分かるが……現場に警備局の方のバトルドレスもいない!?



 そして、大胆に布地を翻しながら、バトルドレスが参戦して来た。


 壁でも駆け上がって来たのか、屋上に躍り上がって二人で対のポーズを見事に決めたが、帰ってもらいたい。


「盛り上がってるじゃないのさ、あたしのこともダンスに誘いな!」


「むっちゃいけてる。やだ、これって運命の出会いじゃない?鼻血が出そうだわ。あの天使型、あたしが貰うからね!あたしの獲物だから!」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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