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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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21 恐ろしい黒猫


 アレクの発言に、ゼクスが絡んで来た。


「それって黒猫のこと?英雄さんと黒猫の付き合いは、ヨーカーン大劇場からだろうって推測されてるんだけど、その割には随分と連携取れてるよな?もっと前から知り合いだった?」


「もっと早くお会いしたかったと思っていますよ。アーデルから聞いていないのですか?」


 そうだよな。蛇の手引きをしてアーデルもそちら側に行ったとなれば、オレの情報など筒抜けのはずだ。

 だから、アーデルが知らない女装が一番変装効果が高いかもしれないとも思う。だが、ゼクスから意外な回答が来た。


「それが、何も喋らないんだよ。取引を持ち掛けても黒猫の情報に関しては応じないんだと。あの人、旧世界管理局が大嫌いだし、黒猫はその中でも一番嫌いってのは隠さないけど、捜査官としての最後の良心なのかね」


「捜査官としての良心があるなら、冤罪をかけたりしないと思います。黒猫さんの情報を流した場合、アーデルの妹と父親の名誉は地に落ちると思っているのかもしれませんね。私が地に落とすと言ってもいいですが」


 ……もしかして、脅しでもかけていたのか?


 アレク捜査官なのかベルタ警備局長なのか分からないが、少なくとも警備局長はアーデルを特別隔離所に配属する前にそれくらいのことは言っておきそうだ。アーデルがそれを聞き入れるかどうかとは別問題だが。


 アレクの回答に、ゼクスと姫様は納得したらしい。


「おーこわ。なるほどな、あの人の父親ってアリス事件で子どもたちを殺したことがばれて、自殺した人だったか」


「……黒猫さんは、あの事件で何があったのか、分かっていらっしゃるのかしら?」


 アレクの血族的知識のおかげで少し進展したが、アリスと同じ血族であり、血族会合の情報も得られる姫様の方が詳しく知っていそうな気がする。だが、アレク捜査官は煽るように言った。


「事件を解明できるとしたら、私と黒猫さんだけだと思います」


「へえ、まさかそっちもお見通しってこと?確かにアリス事件のとき、旧世界管理局はすぐに駆けつけて来たしな。なるほど、その当時からいたってことか」


 いたことはいたが、現場にいたんだが。いらんこと言わないよう、オレは黙っているが、ゼクスがオレに獲物を狙う獣のような目を向けて来た。


「なあ、お嬢さん、黒猫に会ったことあるよな?どんなやつ?怖くない?」


 悩ましい質問だ。黒猫というのがユレス捜査官のことを指しているなら、本人だし会えるわけないし、怖いわけもない。

 だが、腕輪の中にいる相棒の黒猫のことであるならば、呼び出せばいつでも会えるし、怖いかどうかと聞かれれば、何するか分からなくて怖い。


 アレクが答えなくていいと言いたげな視線を寄越して来たが、アレクもそうだが血族は鋭そうなので、素直に答えた方が読み取られずに済むと思う。


 目の前に話題の黒猫がいるとは思っていないようだし、できればこのままばれずに終わらせたい。

 黒猫が女装しているとか、オレも知られたくないし、相手も残念に違いない。


「……黒猫さんは、何をするか分からなくて、とても怖いです」


「げ、旧世界管理局の子にもそう思われてるのかよ」


「恐ろしい黒猫さん、ですのね」


「……何をするか分からないのは確かですけど。ところで、私たちだけが質問に答えてあげる状況ですと、会話が長続きしませんよ?」


「そうだな、じゃあ、遺物展示交換会の話でもするか。お嬢さんを怖がらせるつもりは無かったから、悪かったな。俺は、大猿の中に治療局から盗まれた個人情報の資料が隠されていて、ヘンリーの手に渡りかけているって言われて急遽回収に出向いたんだ。

 そしたら、何故かおっかない姐さんが俺を追いかけてくるし、あちこちで警備局が大騒ぎして捕縛して回っているし、旧世界管理局が映画機材担いで撮影しているという大混乱の状況に巻き込まれて、足止めされていたんだよ。

 何とか会場に辿りついたら取引終わっているし、ここだと思った部屋には目的のものはないし。あ、察していると思うが、別口で目的のものは回収済みだからそこはご安心を。英雄さんの情報も盗まれていたんだぜ?」


「邪魔をされて大迷惑でしたので、感謝する気はありません」


「あのときから、お嬢さんが人権倫理委員会に訴えてもいいことを仕掛けてなかったかよ」


「人権倫理委員会はまず治療局を追求すべきだと思います。局長は、大猿の中にあった個人情報関係の資料はすべて治療局長に渡してあげたそうですが、私の個人情報も含めて治療局が勝手に情報使っていた証拠ですよね」


「……おっしゃる通りですわね。会合に所属する方たちは人の未来のために情報提供を了承したようなものとはいえ、同意を得ていない方の情報もありましたものね。もしや、黒猫さんの指示で、あの大猿を入手されましたの?そこまで見抜いていたのかしら」


 姫様は黒猫さんを過大評価し過ぎだ。

 小さなレディが欲しがったという設定を素直に信じてもらいたい。だが、ゼクスがやれやれと首を振りながら言った。


「お嬢さんがばあさんへの贈り物にするために大猿を欲しがったって設定は、まあそれなりにいい感じだと思うが、もうちょっとまともな理由を思いつかなかったのかよ。いくら贈り物だとしても、あれだとお嬢さんの趣味が疑われるだろ」


「そうですわね。あれはちょっと……色々酷すぎましたわ。背景情報も知っているとなおさらに」


「私だって、あの大猿を競い落したくありませんでしたよ。不本意極まり無かったのですが、どうしてもそうしろと言われて仕方なく」


 そんなに駄目か、大猿。

 オレは大猿のために弁護せねばならない気分になったが、姫様がオレに同情的な視線を向けて来た。


「恐ろしい黒猫さんに言われて、そうするしかなかったのですわね?大丈夫ですわ、わたくしは、あれがお嬢さんの趣味だとは思っていませんから」


「俺も」


 姫様にそう言われたら、大猿を弁護しづらくなるんだが……。


「小さなレディを追い詰めないでください。大猿の話題はやめましょう。なお、デルソレの件については、あくまでも公表されている通りとしか言うつもりはありませんし、聞きだそうとしないでください。公表されているよりも更に残酷な真実しか言えませんから」


「ずいぶんと……言いますわね?」


「黒猫は全部見破っていたってだけで、残酷な真実とまで言わなくていいと思うんだがな。あれ、総力を結集した計画だったから、海に網張っただけで阻止されて、関係者全員茫然としたし、絶望したり発狂したりで大騒ぎだったんだぜ」


「壮大な計画の要だったのでしょうが、水中劇場を利用して大量に誘拐して一気に王国の住民を増やそうというのは暴挙だと思います。説得して引き入れる成功率を、高く見積もり過ぎではないですか?」


 アレクがすべて分かっているかのように言ったが、オレとしては壮大な計画は壮大過ぎてあまり自信がなかったのだが、姫様とゼクスは難しい顔をして答えた。


「やはり、そこまで見抜いてのあの対応でしたのね。会合が総力をあげて説得する予定でいましたけれど、わたくしは、会合の皆様は楽観的すぎるか、ご自身の魅力を過信していると思っていましたわ。ゼクスはどこかに行ってしまいましたし」


「だから、悪かったって。俺は情報収集に忙しかったんだってば。お嬢さんのことが知りたかったんだが、旧世界管理局って鉄壁だな。でもおかげで助かったよ。警備局長と英雄さんがデルシーに来てたから、警戒した連中が、俺をデルソレに行かせろってうるさかったみたいでさ。その通りにしてたら、俺は水中劇場船に乗って網にかかって鎮静剤で眠らされることになっていた。それ、恥ずかし過ぎる」


「ええまあ、結果的に、ゼクスは助かったとは思いますけれど……本当に、恐ろしい黒猫さんね。見抜いていたからこそ、あえて一度成功したかのように思わせて、網一つで完膚無きほどに潰すおつもりだったのね」


 誤解だ、姫様。


 黒猫さんはドルフィーの相手以外許されず、そんなこと知りもしなかった。壮大な計画を阻止してしまったのは、一人の青年のドルフィー愛だったが、残酷な真実だから言えない。

 オレにもお気遣いはある。アレクはお気遣いする気は無いようで淡々と次の話題に移った。


「マイクルレース場では、蛇や関係者を回収するための囮役をしつつ、プロメテウス工房の技術力を見せつけることが目的でしたか」


「そんなとこだな。囮役ってのは後から追加されたが、最先端技術を見せつけて来る予定だったのはその通り。分かっているだろうが、プロメテウス工房は蛇の皆さんで、かなり頑張って技術開発していたんだぜ?それがまさか、100年以上前に作られたクラフターに負けるとか思ってもいなかったよ。なんなの、あれ。まさか100年前から仕込んでいたの?」


「旧世界管理局が、私の知らないところで手配していたとしか言えません」


「ふうん、じゃあ、お嬢さんに聞こうかな。あのレースって旧世界管理局でも当然話題になるよな?何て言われてるか教えてよ」


 話題になると言うより、二度とやるなとボーディが睨まれ、オレが説教されるので話題にしたくない。

 そもそも黒猫さんことオレは、ボーディがかっ飛ばし始めた以降の記憶がないのに、何か言えるわけもない。


 言えるとしたら、ボーディの感想くらいだ。


「……時代が、ようやく追いついて来たと」


「……恐ろしい黒猫さんね」


「ああ、まさか100年以上前から旧世界管理局に潜伏していたのか?」


 その頃はまだオレも生まれていなかった。生まれていた場合は、祖父さんの記憶の再構成がもう少しやりやすかったと思う。


 アレクはオレが変な回答をしないようにと思ったのか、ゼクスを無視して別の質問をした。


「ところで、バロンとダンテはまだ失踪していないのですが、そちらのお仲間ではないのですか?黒猫さんは些末なことはどうでもいいようですが、私は捜査の手配をしなければならないので、できれば手間を省きたいです」


「失踪するならお早めにってか?あの人たち、会合に従うつもりはなかったが、会合としては引き込みたかったから、マイクルレース場での計画が上手くいったら、計画に参加するってことになっていたんだよな。俺はそれくらいしか知らないが、計画は失敗したから参加しないってことだと思うぜ」


「わたくしたちの実力を見定めてという条件でしたのよ、だから、技術力の高さを実体験させるために、難関コースで優勝していただく計画でしたわ。ただ、バロンはいらぬ欲を出していたようですけれど。難関コースの方も黒猫さんの手配でしょうけれど、わたくしは下種な男の計画が潰れたことに関しては感謝していますわ」


 黒猫さんは何も手配せず、ただドルフィー号に乗せられていただけだが、姫様がそう言ってくれると報われた気がする。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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