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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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20 足止め工作


 アレクから血族の話を聞いて、血族は意外にあちこちにいそうだと思った。

 そして、アレクは血族の中でも能力が高いようだが、そんなアレクと同等にやり合っていたゼクスは、おそらく血族ではないかと推測していた。


 アレクは仮面の不審者に初対面から反発していたが、血族は会ったら互いが判定できるそうなので、ろくでもない計画のことが気にかかっていて警戒していたのかもしれない。

 だが、確証もないし、血族のことを話さないと説明ができないことなので、取りあえず、オレは絶対近づくなと言っていたのだろう。


 だから、オレは再びの仮面が現れたときから警戒はしていたし、一応声の感じと話し方を今の変装と合うように変えて、姫様に訴えていたつもりだ。


 ゼクスと姫様の会話が魅了の能力についてのことだとしたら、二人とも血族と考えた方がいい。


 だがしかし、オレにとって重要なのは血族かどうかではなく、人権倫理を守るか否かだ。

 血族が理想の王国を作りたくて世界管理機構を捨てるのは構わないが、人権倫理委員会だけは捨てて欲しくない。オレのために。


 オレの熱意溢れる視線を受けて姫様がたじろいでいるようだが、ゼクスが姫様に軽い調子で言った。


「俺が思うにさ、英雄さんがお嬢さんに手を出して、人権倫理委員会に訴えたい状況だったりするんじゃないかな」


「邪推しないでください。それから、デートの邪魔ですので、お引き取りください」


「お、図星か。お嬢さん、こんな男から助けてあげようか?」


「ゼクスこそ、未成年の子に手出しするような真似はおやめなさい。人権倫理を捨てたら、ただの獣に落ちますわよ」


 姫様!まさしく人権倫理の番人であり、オレの最後の盾である人権倫理委員会に相応しい言葉だ。

 だが、姫様は視線を泳がせつつ残酷な発言をした。


「……わたくしはもう人権倫理委員会で働くことはありません。世界管理機構から抜けるつもりですの。でも、人権倫理は捨てませんわ!」


「姫様、微妙にずれてるって。俺たちは一応宣戦布告しに来たんじゃなかった?」


「そうですけど、人権倫理は捨ててはいけないと思いますわ。ところで、世界管理機構は捨ててもいいと言いましたわね、お嬢さん?」


「やっぱ、旧世界管理局は気づいていたか。警備局もだろ?あのばあさん、本当に手強いよな。また黒猫が見抜いたのか?それとも英雄さん?会合に顔を出さないと聞いたが、親から聞いていたのか?」


「重要なのは誰が見抜いたかではなく、今後どうするかだと思います。局長が自治区構想について、世界管理機構の幹部や各局長に話して回ったわけですし、会合でも話題になったのではありませんか?」


「なったし、頭の血管切れそうなほどに激怒した人もいてね。宣戦布告されたって喚いていたくらいだ」


「変なことを言いますね。宣戦布告をしに来たのはあなた方ではありませんか?」


 溜息をついた姫様が真剣な表情になった。


「そうですわね、仕切り直しましょう。……ですが、わたくしはまずはお話したいと思いますわ、ゼクス」


「いいんじゃない?俺たちの仕事は英雄さんの足止めだし、会話してるだけで目的達成できるわけだからさ。問題は英雄さんが応じてくれるかどうかだけど、お嬢さんを巻き添えにして戦いたくないよな?」


 姫様とは人権倫理について話し合いたいので、戦うより会話するのは賛成だ。だが、そういう状況でもなさそうだ。アレクが棘のある口調で言った。


「私は今は職務外でデート中です。迷惑なので、緊急招集されるような事件を起こさないでください。世界管理機構を捨てる決意をしたのは構いませんが、捨てる前に都合よく権限を使って、騒動起こすための人員を転送装置でここに送り込むのは、人権倫理が仕事をしていないと思いますが?」


 アレクがオレの腕輪に情報を寄越して来た。


 火宴祭のために、野外広場近くに臨時で設置された転送装置が乗っ取られた。というより、世界管理局の職員が設置してそのまま管理していたようだが、そこから、武装した集団と人型人工物が続々と転移してきている。


 蛇なのか血族なのか、それともその他壮大な計画の協力者なのか分からないが、世界管理局の職員もそちら側で、火宴祭に仕掛けるべく潜伏していたのだろう。


 転送装置の警備担当は応戦中であるが、戦力不足により防衛線を引きながら退かざるを得ない状況で、警備局職員に緊急招集がかかっている。


 警備局長はバトルドレスに着替えてから急行すると連絡があった……いや、バトルドレスに着替えなくていいから、急行しろよ。防護力高いから通常の警備局装備よりいいのかもしれないが。


 当然アレク捜査官にも召集がかかっている。だが、さすがにゼクスを放置して招集に応じることはできない。


 ゼクスは、アレクがオレを連れてここに来たから、慌てて手配したようなことを言っていたが、アレク捜査官は今まで何度も計画を邪魔してきているし、今回も見抜かれたと思って足止めに来たのかもしれない。


 だが、冤罪だ。


 オレは何も見抜いていないし、アレクもそうだと思う。


 不穏な状況なので、火宴祭で何か仕掛けられることくらいは想定していたと思うが、野外広場だとは思いもしなかったはずだ。想定していたのであれば、オレを連れて野外広場に来ることは無かったと思う。

 アレクの家を出る前に、デートだから事件は絶対に拾わないようにとオレに念押しして来たし。


 ただ、旧世界的フラグで言えば、そういうことを言った瞬間に事件発生率が高まる。


 オレとアレク捜査官が一緒に出かけると事件に突っ込む法則があるし、オレが女装していると必ずゼクスが出て来るので、この状況は起こるべくして起きたとしか言いようがない。


 オレもアレクも、何故こういう状況になったのか全く分かっていないので、情報が必要だ。姫様が話してくれるならすごく助かる。


 足手まといのオレを盾にするか人質的に使えば、アレクの動きを封じやすいはずだが、人権倫理の番人の姫様はそんなことはしないと信じている。姫様と会話すべきだ。


 口に出さなかったが、オレに視線を寄越したアレクはそこまで読み取ったらしく溜息混じりに続けた。


「小さなレディは、人権倫理の話はしたいようですので、仕方がありませんね。仮面の不審者に暴れられても困りますので、私は不審者の足止め中と局長に報告しておきます。自治区構想に対する答えが宣戦布告というのは、局長も残念に思うでしょうが」


「わたくしは、お受けしていいと思いましたわ。ただ、雑多な集まりになると、いえ、会合の内部ですらも意見は統一できず、事態は暴走しましたの。これも旧世界の崩壊の様相の一つかもしれませんわね。

 恨み言を言うのも筋違いだと分かっていますけれど、警備局と旧世界管理局を中心とした方々が、計画のすべてを完膚なきまでに邪魔なさったからこそ、追い詰められたと思っていますわ」


「邪魔されるような犯罪計画を立てないでください。私は大変迷惑でした」


「おいおい、ことごとく阻止してきた英雄さんがそれを言うかよ?ヨーカーン大劇場のことはまあ、仕方ない。不幸なのか幸運なのか分からない偶然が重なったうえに、英雄さんも現場にいたし、歌姫が妊娠していたのにあの事件だと、怒って当然だ。会合からも復古会に抗議したくらいだ。だから、復古会が強制捜査に入られて瓦解状態になっても、仕方ないかって意見が多かったんだがな」


「その件は、わたくしも無関係ではありませんし、謝罪したく思います。復古会の過激派の男の一人が、わたくしにしつこく付きまとってきて、無理やり部屋に引きずり込まれたので、お父さまが激怒しましたの。それで、復古会に過激派を排除しないと今後は付き合わないと宣言されたので、復古会はああいう事件を起こして過激派を排除しようと計画してしまったのだと思いますわ。迷惑をかけてごめんなさい」


 姫様は本当に良心的だな!それなのに、アレクは素っ気なく答えた。


「勝手に暴走して犯罪を起こした性犯罪者たちの責任です。あなたが謝罪する必要はありません。おかげで素晴らしい出会いがあったので、感謝してもいいくらいです」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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