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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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14 血族会合


 古代王国の崩壊後、神人の血族は各地に散らばって生活し始めた。


 だが、血族は目立つ存在だし、本能的な感覚で互いが血族だと分かるそうだ。

 アレクが言うには、それも血族の呪いである。血族であることを血族相手には隠せないし、血族会合に参加するように言われて干渉されることになる。


 血族会合とは、古代王国崩壊後に設置された、血族の助け合い組織のようなものだ。古代王国の歴史や血族の能力について血族に教育し、能力の扱い方も指導している。

 血族は、魅了の能力のせいで性犯罪事件に巻き込まれやすかったり、恋愛や結婚関係で騒動が起こりやすいので、必須教育である。


 だが、アレクの父親は血族会合と距離を取っていたし、子どもたちの教育は自分ですると言って、血族会合に参加させなかった。


 血族の能力には強弱があるが、アレクの父親は強い血族で、能力の扱い方もよく分かっていた。

 母親も古代王国の研究者で、血族の研究もしていたこともあって、知識も能力も十分とみなされて血族会合も強くは言えなかった。むしろ血族会合が、ときどき相談しに来ていたそうだ。


 アレクは、両親が子どもたちを血族会合に参加させなかった理由について、復古会や<知識の蛇>と接点ができてしまうことを警戒したのだろうと推測した。


 復古会が掲げる理想の王国は、上手く運営されていた頃の古代王国の体制で、復古会は元々は古代王国を復活させることを目指していた組織だそうだ。

 その理想を実現するためには、古代王国を平和的に統治していた血族が必要となる。


 <知識の蛇>は古代王国時代から神人の血族に関わっていて、その能力にも詳しい。古代王国崩壊後も、その能力の有用性は理解しているし、絡みついて追いかけて来る。


 そう説明されて、どうしても聞かずにはいられなかった。


「もしかして、ヨーカーン大劇場の占拠事件って血族絡みの事件だったのか?」


「気づいてしまいましたか。実は私も姉も復古会からしつこく勧誘されていました。私たちの血族としての能力は強く、姉は歌姫として大人気になっていましたので、人心掌握するのにも都合がいいと思われたのでしょう。ですが、私も姉も復古会と関係を持つことも交流することも、断固として断り続けて来ました。普通の生活をしたかったんです。

 ヨーカーン大劇場占拠事件で復古会の過激派が出て来たときは、私たちが断り続けてきた腹いせに仕掛けてきたのかと思いました。あなたと取引して話を聞いた後、復古会に強制捜査に入ったのは、私たちの自衛のためでもあり、私たちへの今後の干渉を封じるためでもありました」


「なるほど。だから、あんなに熱心にオレに取引を持ち掛けて来たのか」


「いえ、本当にあなたにお礼を受け取って欲しかったのと、今後連絡を取る口実にしたかったからです。正直に言ってしまえば、<菩提樹>での会合のときは、内通者や事件のことより、あなたをどう口説いたらいいのかという方に意識がいっていました」


 反応しても答えても危険な話題だ、流すしかない。だが、事件に関わりそうことに関しては、確認するしかない。

 

「……血族の魅了の能力は、騒動の元だよな?もしかして、ヒミコって」


「血族です。能力を制御するどころか全開にしていたので、周囲も大迷惑でしたね。親の治療局長も血族ですが、指導を怠ったとしか思えません。

 姉は、ヒミコは母親が死んだ直後に別の女と結婚した父親の注意を、自分に引き付けようとしていたのではないかと言っていました。だから、無意識に年上の男に能力を使っていたのではないかと」


「ヘンリーとか発明家とか、すぐに結婚してヒミコの新しい庇護者になれるような男ばかりを引っかけていたのは、父親の代わりだったのか」


「そうかもしれませんが、興味がありません。私はヒミコと関わりたくありませんでした」


 そう言ってアレクは、オレのことをじーっと見ているが、オレは何も言わないぞ!


 ヒミコはヨーカーン大劇場占拠事件の後は、アレクに惚れて迫っていたようだが、この件に関して突っ込むと危険だ。ヒミコの話題になると、オレに情報制限してきたり、雰囲気が怖かったからな。


「……ユレスは私に配慮して欲しかったです。私とヒミコの見合いのために、マキナがデルソレの招待状を送ってきたことは話しましたが、実は治療局長も血族会合を通じてヒミコと私の見合いを強制しようとしていました。遺物展示交換会の頃は、ヘンリーの脅迫もあったせいか大変しつこかったです。

 あなたに割と強引に潜入捜査に協力していただいたのは、適任者という理由もありましたが、私には相手がいることを分かってもらうつもりだったんです。ユレスが女に分化するきっかけになってくれないかと期待していましたが、ユレスは口説いても全然分かってくれないし、盾役をお願いしたのに私は保護者役にしか見えなかったようですし、大猿ばかりを気にするしで、散々でした」


「オレに強制任務させるからだろ!職務であればオレだってちゃんと働くが、盾役だの恋人役は職務の範疇外だ」


「休暇でデルシーにいる方が、働き者でしたよね?休暇予定を合わせて口説き落すつもりだったのに、旧世界的事件フラグを立てるし、海に沈めたはずのフラグを拾い上げるし、私をデルソレに行かせてヒミコと見合いさせようとしましたよね」


「見合いの件は知らなかったとはいえ悪かったが、事件のフラグを拾って来たのはドルフィーに失恋したマークだから、文句があるならそっちに言え!」


「マークは未分化の子どもに初恋してしまった同士なので、マークを責めると自虐的なので言えません」


「……は?」


「私は成人してからそれなりに交流と経験を重ねて、恋人関係を続けた人もいますが、本気で惚れたのはあなたが初めてです。初恋です。失恋する気はありません。

 ……情報過多で混乱しているという顔ですね。少し休憩して食事しませんか?」


 お気遣いなのだと思うが、突然のことに警戒した。だが、美味しそうな魚料理だったので、一応薬物を警戒しつつ食べた。


「美味しい。これ、デルシーの魚っぽい」


「デルシーの魚ですよ。釣って来て自動調理にかけました。マークに教えてもらって、釣りの腕前はかなり上がったと思います。あなたがお望みならまた釣ってきますね」


「え……?」


「リック博士が言っていた自然な求愛行動です。これなら、あなたも分かってくれますよね?」


 魚は美味しいし料理には罪がないので完食したが、とんでもない罠にかかった気分ではある。アレクが機嫌よくお替りがいるか聞いて来たが、これ以上罠にはまるわけにはいかない。


 子守猫と監視猫が役に立たない以上、自分で罠を回避しないと即座に捕縛される。


「ご馳走様、美味しかった。話を戻すが、血族の能力は新しい理想の王国をつくるのに有用だな?」


「結婚相手を口説くなら釣りの腕前の方が役に立つようですが、壮大な理想の王国計画には不可欠の能力だと思います。ユレスは血族のことを知らないはずなのに、よく推測できましたね。私はあなたの話を聞きつつ、壮大な計画の首謀者が血族会合であれば、すべてのつじつまが合うと思っていました。

 血族の能力をよく知っている<知識の蛇>は、計画の実現可能性を高く見積もって協力するはずです。復古会の引き入れも容易いでしょうね。デルソレの水中劇場船で、多くの人を誘拐して王国の住人として連れて来たとしても、血族の魅了の能力で説得するか引き入れる成功率も高くなると思います」


「だから、オレが壮大過ぎる計画を話したのに、真剣に聞いてくれたのか。妄想だと言われるかもしれないと思ったんだが」


「あなたがどこまで見通しているのか、内心怖かったですよ。私も血族ですが、血族会合には関わっていません。そういう計画を立てる集団の仲間と思われるのは嫌でしたので、早急に私の秘密を打ち明けて結婚を迫ろうと決意しました」


「そこに飛躍する思考が理解不能だ。オレは血族のことなんて知らなかったが、もしかしてベルタ警備局長は知っているのか?」


 アレクが壮大な計画があるかもしれない件を警備局長に話したはずだが、警備局長は即座に動いて自治区構想について話して回っている。

 果断な鋼の女だからさして疑問には思わなかったが、血族のことを知っていて実現可能性が高いと判断したなら納得できる。


 アレクは少し考えた後に、首を振った。


「……局長は知らないと思います。血族会合は秘密主義で、血族と判定した相手にしか話をしないので、意外に秘密は保たれています。血族と言っても、統率力があって能力が高いだけで、危険視されるほどの力はありませんし、調和と協調が基本なので、蛇のように犯罪に傾倒することもありません。

 血族でなくても能力が高い人はいますし、局長は血族ではありませんが統率力も能力も大半の血族より高いです。それから血族の魅了も効かないと思います。姉が、馬鹿な血族が局長に魅了を仕掛けたものの、単なる性犯罪者の一人として扱われたような話を局長から聞いたと言っていました。

 魅了が効かない人たちは何の影響も受けないので、特殊な血族だと気づかず、普通の人と区別もしないのだと思います」


「なるほど。確かに影響がないなら気づけなくて当然だな。優れた容姿と実力もあるから周囲に多くの人がいても納得するだけで、特殊な能力持ちとも思わないだろうし。ところで、ばばあにも魅了が効かないなら、血族的にはベルタ警備局長に一目惚れしたりしないのか?」


 未分化型のオレより、300年越えであるがれっきとした女である鋼の女の方が絶対魅力的だと思うのだが。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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