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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第七章 神人と黒猫
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13 血族


 オレが猫型人形で監視猫をじゃらしているところに、飲み物を持ったアレクが戻ってきたが、複雑な顔をされた。


「可愛いのですけど……ユレスはいつも余裕ですね。私に余裕が無いだけかもしれませんが、そういう態度を取られると手加減を忘れるかもしれません」


「そもそも手加減してないだろ。いつもより強気で踏み込んで来るし、紳士はどこに行ったんだ」


「今までは博士の屋敷だったり出先だったりと、私の領域では無かったからです。さすがに配慮して行動も慎んでいましたが、自分の家でそうする必要はないですよね?私が一番有利な場所にあなたを誘い込んで、勝算を最大限に高めて勝負に出ています。男の家に自分から入ったわけですし、そのまま食べられる覚悟くらいしていただかないと困ります」


「オレは誘拐されたと主張する。念のため聞くが、変な薬物を仕込んでいないだろうな?」


「仕込みたくても今のあなた相手には何もできないので、私が辛いだけです。信じてください」


「仕込む気があったと自白されて、安心できるか!あれ、これ」


「デルシーであなたが好きなカクテルを作ってくれたのを、真似してみました」


 飲んだら同じ感じにできていた。……もしかして、あれは情報収集されていたのか?横目で見たら、綺麗に微笑まれた。


「あなたを脅かすつもりはありませんし、寛いで欲しいと思ってのことです」


「気遣いは理解した。アリアもそうだが、まめな姉弟だな」


「相手を逃がさないためには、普段からの小さい積み重ねが大事という父の教えを実践しています。将来、結婚相手を見つけたときのために、誠意と節度のある態度を貫くよう教育されました。父の倫理観と役に立つ教育には感謝していますし、尊敬しています。結婚するまでにすごく苦労するはずだという、父の予想は当たって欲しくありませんでしたが」


「アレクもアリアも結婚相手として大人気だし、親として自信をもっていいと思う。それに、血族には魅了の能力とやらがあるのに、何でそんな予想になるんだ?」


「私を苦労させているあなたがそれを言いますか。血族の能力も万能ではありません。魅了が効かない人もいますし、血族はそういう人に惹かれやすいようです。父は、血族が結婚したいと思った相手には、魅了は効果が無いと代々伝わっていると言っていました。

 母もそうでしたが、ユレスもそうですので、その言い伝えは正確だと思います。しかも、無意識にしろ意識的にしろ魅了を仕掛けて怖がられることになって、口説き落すのが大変だそうですが……聞いていますか?」


 監視猫はオレ色の猫型人形を気に入ったようなので、じゃらす方に意識が向いたというか、現実逃避をしていたが、アレクの雰囲気が怖くなったので向き合うしかなかった。


「正直言って、今怖いんだが」


「血族の呪われた能力と父が言うわけですね……。子守猫のワトスンは警戒していますか?あなたを怖がらせたとして、排除されたくないです」


「オレとしては、子守猫の職務放棄に文句を言いたいところだ。監視猫も役に立たないので、自助努力することにした。取引しよう。現状の打開策を考えるにしても情報が少なすぎるから、血族の情報について素直に聞く。だが、結婚はしない。代わりにアレクから逃げずに向き合う。どうだ?」


「結婚を前提にお付き合いしてください」


「譲歩はしない。取引が成立しないなら、人権倫理委員会に助けを求める!」


「……仕方ありません、逃げられるよりましなので、取引に応じます。では、真剣に話を聞いてくださいね?」



 アレクの母親は古代王国の歴史の研究者だったが、夫が古代王国の血族の末裔で、子どもたちも血族なので、個人活動時間は血族の研究にあてていた。

 夫の協力もあって、血族について詳細な研究報告をまとめているが、家族の個人的事情でもあるので公表はせず、研究資料は子どもたちに引き継がれた。


 血族の基本の魅了の能力については、人の精神体の状態を感知したり、軽く接触して影響を与えるものと推測されている。

 人の精神は基本的に協調して調和した良好な関係を望むし、血族は自然にその意識を周囲に発散して伝えている。だから、人々の心を惹きつけて支持を得やすいし、好意を抱かれやすい。


 普通の人は好かれたり仲良くなりたいと思うのが自然だし、無意識の領域であっても、その意志表示をしてくれる人には安心して心を開きやすいのかもしれない。

 旧世界のAIが精神波長が適合する人しかマスターとして受け付けないのは、その精神波長がAIに対してAIを受け入れると表明しているからだとする見解と似たようなものだ。


 旧世界管理局の職員には魅了が効きづらいし、効かない人の割合も高いそうだ。

 AIに適合する精神波長だからと考えるには、旧世界管理局以外にもそういう人たちはいるので、魅了が効かない原因は不明である。


 アレクの母親は旧世界管理局職員ではないし、ジェフ博士もそうだ。

 アレクがジェフ博士にアリアのことを聞いたら、こんな美女に迫られるのは怖いと思っていたと言われたし、アリアも魅了が全く効かないと弟に愚痴っていたそうだ。


 魅了の能力は意識的にも使えるそうだが、自分が好意を持った相手に好意を向けてもらいやすくなるだけであって、支配するほどの強い影響力は無いとアレクは主張した。


 アレクの母親も研究して、個人の自由意思をないがしろにしたり、精神を歪めたり支配するほどの力はないと結論付けたそうだ。

 だが、意識的に能力を使って統率したり好かれようとしたときに、実感できるくらいに効果が発揮されるそうなので、微妙なところだと思う。

 

 魅了の能力が悪用されると世界崩壊の原因になるので、協調した社会生活を実現できるほどの能力に留まるよう世界が制限をかけたとする、アレクの母親の見解を信じたいものだ。


 血族が魅了が効かない相手に惚れてしまうのも、魅了の能力のおかげで相手の好意が簡単に手に入ると何の成長もなくなるので、世界が仕掛けた制限であるという見解に根拠は無いが、あり得ないとも言えない。

 魅了が効かない人たちが、魅了を仕掛けられると怖いと感じて回避してしまう事例も、世界が仕掛けた制限の一つなのかもしれない。

 

 アレクの母親は迫られて怖かった側なので、回避方法も研究していたりしないだろうか。研究資料が気になる。


「……アレクのお母さんは、血族の能力の対処法のようなことを、研究していたりしないか?」


「血族に迫られたときの回避方法でも調べるつもりですか?」


「あるのか?」


「あったとして、私に都合の悪い資料が残っていると思いますか?」


「アレクが、母親の遺した貴重な研究資料を破棄することはしないと信じてる」


「……話を続けますね」

 

 怖い笑顔で話を逸らされたが、あったとしてもオレが入手するのは困難極まりないのは理解した。


 血族は魅了の能力に加えて、英雄や賢者的資質が発現することも多く、肉体的にも魅力的に成長するので、魅了の能力を使わなくても大人気である。

 望んでもいないのに誘われたり迫られたりということが多くなるし、集団のまとめ役や、目立つ立場を期待されてしまうので、アレクの父親はこれも血族の呪われた能力だと言っていたそうだ。


 アリアとアレクの姉弟も、父屋の意見に賛成らしい。

 歌姫と英雄として大人気の二人であるが、静かな普通の生活を望んでいることは知っている。だが、その望みとは正反対の状況になりやすいことも知っている。


 世界は血族に、人として進化した能力と共に困難も与えたのかもしれない。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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